電子デバイス業界では、人材不足や人材教育の話題が今も昔も健在である。電子デバイス産業新聞の取材活動の中で、人材不足解消の1つの手段として、半導体業界に強い人材派遣会社などが講師陣の豊富な経験値をもとにした座学や、製造装置を用いた本格的な実機研修、クリーンルーム内での作法など徹底した教育手法で専門人材を育成。現場に派遣する取り組みなどを現地取材させていただく貴重な機会をこれまで何度か経験させていただいた。こうした即戦力人材が、半導体工場の現場をあらゆる角度から支えている実情があることを学んだ。
一方で、将来を担う若者をじっくり育成する必要性もかねて重視される点だ。そのため、各大学では、例えば九州大学が価値創造型半導体人材育成センター、関西の5つの国立大学(大阪大学、京都大学、神戸大学、京都工芸繊維大学、大阪公立大学)が半導体の未来をつくる人材を育てるプロジェクトを始動、北海道大学が2026年度から大学院共通授業科目「半導体フロンティア人材育成プログラム」を新設するなど、各企業や他大学なども協調しながら、本格的に半導体人材を育成する取り組みが意欲的に進められている。
また、高専においても26年に入り、独立行政法人国立高等専門学校機構が、全国51校の国立高専ネットワークを活用した「半導体人財育成エコシステム構想」の本格始動を発表。半導体産業が求める「即戦力×応用力×イノベーション力」を兼ね備えた中核人財を継続的に輩出する仕組みを構築することを目指している。
このように、産官学を挙げて半導体や電子部品を担う人材を育む環境は、日本各所で整ってきている状況にある。
こんなことを日頃から感じていた折、前回の新潮流でも触れさせていただいたTDKがタイトルパートナーを務める東京開催のEVレース「フォーミュラE Tokyo E-Prix」が7月25~26日と開催されるタイミングとなり、その前日の24日にTDKが100人(実際の参加者は約75人)の学生(大学院生、大学生、高専など)を“2026 TDK Tokyo E-Prix”に招待、という案内を得た。一体、この取り組みを通じ、TDKがこれからを担う若者たちにどんなメッセージを伝えようとしているのか。そこに参加する学生たちの表情や思いに触れるべく、取材参加させていただいた。結果、これは学生たちの内なるモチベーションを高め、果てしない可能性がこの先に広がっていることを若者たちが肌で感じる機会になっていることを実感した次第である。
ちなみに、TDKの人財本部 日本人財開発統括部 HR CoE部採用課課長の田辺剛氏は、今回の募集は同社マイページへエントリーしている学生、課外活動や世界的ビジネスコンテストなどで連携している社外関係機関など協賛の形で募集し、バックグラウンドなどは区別せず参加者を集めたという。学生各位が勉強していることが社会やテクノロジーに活かされていることを知る機会になれば、という思いも込めているとする。
■「挑戦する勇気」「常に自己変革」を
TDKは、東京初のナイトレースとなるEVレース「フォーミュラE Tokyo E-Prix」を通じ、“TDK in Mobility”をテーマに、モビリティーの進化を支える技術はもちろんのこと、その未来を担う人材育成への貢献も目的の1つに掲げている。招待された学生たちは、前半は会場内でフォーミュラEの人事ディレクターのキャット・トムキンズ氏やTDKの専務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer)兼人財本部長のアンドレアス・ケラー氏のメッセージなどを聞き、後半は世界最高峰のプロフェッショナルが集う、ポルシェのガレージツアーやフォーミュラEの国際映像制作の舞台裏を見学するツアーを通じて、最先端技術に触れる機会を得た。
フォーミュラEの人事ディレクターのキャット・トムキンズ氏は、フォーミュラEという歴史的なイベントにおいて、かつては男性中心で行われてきたが、現在は「TDKとフォーミュラEは同じビジョンを共有し、若い才能を育てることと、女性に活躍してもらうことを重視し、運営に関わる組織すべてにおいて男女比50%の形で行っている」と説いた。
そして、適応力、協業(コラボレーション)、適応力(レジリエンス)の重要性を強調。人とのネットワークを築くこと人とのつながりがキャリア形成において重要であることなどを力説した。
CHRO兼人財本部長のアンドレアス・ケラー氏は、スピーチに加え、トークセッションでもメッセージを発信。ケラー氏が全体を通じて一貫して伝えていたメッセージは「挑戦する勇気」「トランスフォーメーション」に集約されると感じた。
ケラー氏は “I couldn't find the sports car of my dreams, so I built it myself.”(by Ferry Porsche)という一文を紹介し、「これこそがTDKとポルシェモータースポーツとの間の技術パートナーとしての関係性を示している」として、「将来が私たちに向かって近づいてくるのを待つのではなく、私たちが将来を作るのである」と説いた。また、フォーミュラEにおけるEVレースカーの勝利を決めるのは内側(機械の心臓部)であり、その機械の心臓部こそTDKの活躍の場として、電子部品メーカーで働くということが、目に見えないところから世の中にインパクトを与えていくことになることを説明した。そしてフォーミュラEを動く実験場と表現。試験を行い、失敗し、学び取り、最高スピードで進化を遂げていく場所だとし、「(本日見学する)レースの舞台裏は皆さんのキャリアに似ているところがある。キャリアは生き物であり、不確実で、可能性に満ちている。この不確実で、可能性に満ちているものを本日見ていただき、皆さまのキャリアのヒントにしていただければ幸いである」と続けた。
そしてトークセッションでは、「昨日の成功に安住する人物はいらない。勇気をもって、大胆に、存在していないものを作る。そういう大胆さを持った人材を求めている。好奇心、挑戦する勇気を大切にし、常に自己変革を怠らないようにしていただきたい。(中略)それこそが、内から大きな影響をもたらす人財」と学生たちにパンチの効いたエールを送った。
■一見をもって真髄が伝わることの意義
見学ツアーでは、レース会場内のピットレーンを歩きながら、最新のEVレースカーを各チームが整備している大会直前の熱気ある風景を間近に見学。そしてポルシェのガレージ訪問では、ポルシェ担当者が重要な開発パーツについて、「パワートレイン、リアサスペンション、クーリング(冷却)システム、エネルギーマネジメントシステム」を挙げ、「パワートレインの効率が非常に重要になっている」と開発における重点ポイントを解説した。また、そのパワートレイン内にはTDKのモーションセンサーやコンデンサーなど多くの技術が搭載されていることを整備中のレーシングカーの前で説明した。学生からは「今日は暑いが、レースにどう影響するのか」「チームにはどれくらいの人が関わって行っているのか」など、率直な質問が飛び交った。
次に訪れたフォーミュラEの国際映像制作センターでは、各カメラシステムが問題なく動いているかを確認する様子を見学。トラック周辺の25台のカメラや各レーシングカー上の多数のカメラ、その他のミニカメラや各チームガレージ設置のカメラなどからの映像を確認したり、ロンドンのスタジオに送ってロンドンでテレビプログラムを作ることなどが説明された。
歩きながら、学生たちは整備中のレーシングカーなどを興味深く見入り、「すげー」「かっこいいー」と思わず素直な感想を吐露していた。偶然会話させていただいた学生は「部品が実際にどんなところに搭載されているのか興味があって参加した」と語っていた。スマートフォンなどの身近な機器に加え、TDKの齋藤昇社長も「(フォーミュラEは)EVのTop of Top。この一番の高みを目指してテクノロジーを磨き続ける」(2026 Change. Accelerated. Live Tokyoより)と語る真髄が、こうした学生たちに百聞ではなく一見をもって伝わることの意義を強く実感した。
■太陽誘電やトーキンなど各社も様々な貢献
同じく電子部品メーカー大手の太陽誘電も、7月に群馬大学で開催された「一日体験理工学教室 機械の学校2026」に協力し、自動化設備をイメージしたデモ機を利用したプログラミングを体験するコーナーを出展したことを発表している。同機械の学校2026の対象者は高校生であり、群馬大学の施設・実験装置を使って機械工学、材料工学、制御工学、電子工学、情報工学の面白さを体験できる科学体験イベントなのだという。MRゴーグルを利用した作業の遠隔支援やプログラムを作成してロボットを動かす操作体験など、製造業の未来の姿をイメージしたデモも行っているとする。
ヤゲオグループのトーキンも、宮城県の白石事業所から地元の小学校へ環境出前教育を行ったり、白石事業所で高校生の職場体験を以前から継続して行っていることなどを取材時にお聞きしている。その他の半導体各社、電子部品各社においても、同様の若者貢献が様々行われているものと思われる。
子どもの頃から半導体や電子部品が身近に感じられる体験の機会が多いことは、自ら自身の進路や夢を思い描く際の見えないプラスの影響につながることだろう。各社が主導的に利害損得の域を超えて、未来を担う人財育成を見据えた貢献を行っている活動は心強い。
つい先日、取材で訪問した先で、雑談で将来を担う人財に関する議論となった。米国ではエンジニアが若者のなりたい職業の筆頭に挙がってくる、韓国では某半導体大手で働きたいという若者のモチベーションが高いが、日本ではYoutuberになりたいなどの夢が多いらしい、という話が出た。日本でも半導体メーカーや電子部品メーカーで働きたいと思う若者を増やさないといけないと。また、小さいころにゲーム機で遊ぶのではなく、砂場遊びこそ総合力を磨く場だ、との話にも及んだ。手を使って触れて、そしてお友達と喧嘩したり仲直りしたりする中からコミュニケーションのイロハを知る。なるほど、と納得である。
若者たちが目を輝かせて、電子デバイス業界を志してくれる未来を、常識を超える発想で業界一丸になって作っていく取り組みに注目し、期待したい。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美