重要な経済戦略物資として認識されるようになった半導体をめぐり、世界各国が半導体産業への支援策を競って展開している。例えば、日本は経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略」を中心に展開し、高市政権がまとめた「戦略17分野」ではAI・半導体を筆頭に挙げ、2040年度までに投資する370兆円のうち68兆円を半導体に割り当て、国内生産額を40兆円まで引き上げる計画だ。世界では、CHIPS法を展開している米国や欧州、「自立自強」をテーマに第15次5カ年計画を推進している中国の取り組みなどが、業界内でもよく知られるところだ。
そして、こうした支援策は、すでにアジア全域に拡大している。昨今大きな注目を集めているインドを含め、東南アジア諸国もこぞって半導体産業の振興を表明。サプライチェーン内における自国の現在地を踏まえたうえで、将来の理想像などを盛り込み、日本や欧米、中国のあいだに割って入り、エコシステムでの存在感を高めていこうとしている。本稿では、そうした各国の取り組みをいくつか簡潔に紹介する。
ベトナムは2050年ビジョンで誘致と自立を両立
ベトナムは、建国100年を迎える2045年に先進国(高所得国)の仲間入りを果たすという目標を掲げ、これを実現する最短ルートとして、科学技術やデジタル技術によって社会インフラを果敢に変革していく方針を打ち出している。この目標の中核を担うテーマの1つが半導体産業の育成・強化だ。
ベトナム政府は2024年、「2030年までのベトナム半導体産業の発展戦略と2050年のビジョン」を制定した。このビジョンの根幹をなすキーワードが「C=SET+1」だ。CはChip、SはSpecialized(特殊用途向けチップ)、EはElectronics、TはTalent(人材)をそれぞれ表し、+1は地政学的なリスクがあったとしてもサプライチェーンの拠点として選ばれること、を示している。2050年までを3段階に分け、「エンジニア5万人の育成、設計企業200社、前工程工場2カ所、OSAT工場15カ所の整備、および誘致と自立の両立」というロードマップを描いている。
そして現在、ベトナム資本の企業として初となる半導体の前工程工場および後工程工場の整備に着手している。
タイもロードマップを策定しチップ国産化に着手
タイも2050年までを対象とした長期戦略「国家半導体ロードマップ案」を策定済みだ。2050年までの今後25年間で2.5兆バーツ(約12.5兆円)超の投資を誘致し、国内で23万人以上の人材を育成して半導体エコシステムを構築して、タイ国産チップ(Made in Thailand Chips)の実現を目指すというのが骨子。こうした政策を加速するため、6月にはアヌティン・チャーンウィラクン首相が「国家半導体・先端電子機器政策委員会」を設立することに正式署名した。
2030年まではOSATやPCB基板製造など、すでに強みを持つ分野を強化していくが、2040~2050年にかけて川上産業(ウエハー製造・ファブ)への誘致とR&Dのシフトを進めていく方針。後工程に関しては、現在インドでCGパワーとルネサスとともに合弁工場の整備を計画しているStars Microelectronicsが国際的に知られているが、前工程工場に関しては、タイ投資委員会(BOI)が2024年8月にタイで初となる前工程工場の建設計画を認可している。タイ企業の合弁によってSiCパワー半導体の前工程工場を建設するというもので、当初計画では2027年半ばまでに稼働させることになっている。
マレーシアはNSSで独自先端技術を自給自足へ
すでに多くの半導体工場が立地しているマレーシアだが、近隣国が積極的に半導体産業の振興策を打ち出していることに対抗するため、2024年に今後の半導体産業戦略の根幹をなす「国家半導体戦略(NSS)」を発表した。「基盤強化」、「先端分野への参入」、「世界的メーカーの育成」という3段階でサプライチェーンを強化し、従来のOSATから先端パッケージングへ付加価値がシフトしつつある流れに追従しながら、独自の先端技術を自給自足できるようにしていく方針だ。
NSSを確実に実行に移すため、マレーシア政府は少なくとも250億リンギットの予算を財政支援(補助金など)に割り当てる。また、教育やリスキリングによって、今後5~10年間で先端半導体に対応できる高度な地元エンジニアを6万人育成するほか、世界トップクラスの大学やグローバル企業のR&Dセンター、政府系の研究機関などを連携させて、マレーシアを半導体のR&Dハブへ発展させ、イノベーションの土壌を整えて、回路設計や先端パッケージング分野で年商10億~47億リンギット(約330億~1550億円)規模の地場有力企業を少なくとも10社創出するといった目標を掲げている。
『東南アジア・インド 半導体ハンドブック 2026』を発刊
こうした状況を鑑み、電子デバイス産業新聞では、インドおよび東南アジア各国の半導体業界をまとめた書籍『東南アジア・インド 半導体ハンドブック 2026』を2026年7月27日に発刊する。シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイ、フィリピン、インドネシア、インドの7カ国に関して、前述のような半導体産業政策を詳述しているほか、各国にある前工程・後工程の工場、半導体の前工程&後工程&ファブレス企業の取り組みなどを約120ページにわたって紹介している。
2026年7月23日までは予約特価にて購入を受け付けている。詳細はhttps://www.sangyo-times.jp/syuppan/dtl.aspx?ID=237まで。
電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏