電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

日本だけがシェアを下げている


~半導体強化策 待ったなし~

2021/6/11

 世界各国が果敢な半導体産業の強化策を打ち出すなか、ようやくにして日本政府も強化へ重い腰を上げ始めた。対米、対中、対欧の関係性を維持しつつ、サプライチェーンとビジネスのバランスをどう取っていくのかは難しいが、日本が「強化策 待ったなし」の状況にあることは数々のデータが示している。

 半導体市場シェアを振り返ってみると、ここ10年で日本だけが著しくシェアを落としていることが分かる。2010年の国・地域別シェア(生産額ベース)は米国49%、日本19%、欧州(EMEA)9%だったが、20年は米国が51%、欧州が9%とシェアを維持・向上しているのに対し、日本は9%へ大きくシェアを下げている。

 この間、大きな成長を遂げたのが中国だ。10年のシェアは1%に過ぎなかったが、20年には5%まで上昇した。この牽引役になったのが「ロジック半導体」。ロジック市場における中国のシェアは10年時点で1%しかなかったが、20年には11%に達した。これに対して日本は18%から3%へ大きくシェアを下げており、衰退が著しい。中国ロジックの成長はスマートフォン用アプリケーションプロセッサーがもたらしたもので、その成長率と設計力の強化は驚異的ですらある。

 米国の規制で先端ロジックの国産化が難しくなったことに伴い、中国は今後、レガシーノードで量産できるパワー半導体をさらに強化してくることは間違いない。カーボンニュートラル実現に向けても、国産化のスピードを上げるのは確実だ。

 パワー半導体を含むディスクリートのシェアに関して、中国は10年に3%に過ぎなかったが、20年には6%まで上昇した。一方で、日本は10年のシェアが36%だったが、20年には24%まで下落しており、ここでもシェアの低下が激しい。これに対してインフィニオンやSTマイクロらがいる欧州は23%から35%へシェアを高めており、いち早く300mm化に取り組んできた成果が出ている。

 つまり、日本だけが世界市場で極端にシェアを下げた。いま政策や戦略を立案し、多額の資金を投じてでも強化に向けて動き出さないと、シェアはさらに下がっていく。

 米バイデン政権はコロナ対策やグリーン戦略を含めて今後8年間に2兆ドル(220兆円)のインフラ投資を計画している。EUや中国などが実施する見込みのグリーン投資を含めると、今後5年程度で総額500兆円の投資がカーボンニュートラル実現に向けて流れ込むと考えられる。

 これを「年間100兆円のグリーン投資が実施される」と仮定した場合、省エネに資する電子機器に充てられる資金はおよそ半分の50兆円、これに搭載される半導体が10%に相当する5兆円になると試算できる。現在の世界半導体市場が約50兆円であるため、グリーン投資関連だけで半導体市場は年間10%成長していくという筋書きが成り立つのだ。

 米国は、表向きは中国と激しく対立しているが、ビジネス面では中国とうまくやっている。例えば、中国ファンドリー最大手SMICの業績を見ると、米国向けの売上比率は以前よりむしろ上昇している。SEMIの調べによると、20年は中国が世界最大の半導体製造装置市場になったが、米国のアプライド マテリアルズやラムリサーチの中国向け売上高も大きく伸びており、日本メーカーの伸び率を上回っている。日本企業も米中関係に過度に遠慮することなくビジネスを拡大し、中国市場でのプレゼンスをさらに高める努力をすべきだ。

 同様のことが、日本の半導体メーカーにも言える。これだけ世界的に半導体不足が叫ばれるなかで、日本の半導体メーカーは値上げに依然として慎重だ。世界では「日本で値上げしたメーカーはルネサスだけ」と評されており、モノ不足のなかでも価格を維持する姿勢を海外企業はいぶかしがっている。

 半導体メーカーが強くなるには、強いセットメーカーの存在が不可欠だ。事実、米国にはアップルがおり、半導体にはインテル、ファブレスにはクアルコムやブロードコムが揃っている。そうした強い企業との取引があるからこそ、日本には強い半導体製造装置メーカーや電子部品メーカーが残っているが、日本のセットメーカーがすでに以前の強さを失っている現状を考えれば、日本の半導体メーカーを強化する支援策や国家戦略が今まさに必要不可欠だ。
(本稿は、杉山和弘氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 杉山和弘、お問い合わせは(E-Mail: KAZUHIRO.SUGIYAMA@omdia.com)まで。
サイト内検索