電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第464回

ついに世界のエレクトロニクス産業は自動車産業を抜いてしまった!!


約400兆円の巨大マーケットを構築、しかして日本企業シェアは10%

2022/1/7

 電子デバイス産業新聞の2021年最終号においては、恒例の電子デバイス業界10大ニュースが発表された。その第1位は「半導体不足が全世界で社会問題」というニュースが選ばれている。このニュースによれば、TSMCへの過度な一極集中が招いた半導体供給不足はその後、コロナ禍によるロックダウンの影響や物流インフラの停滞によって、一層深刻化したという。調達リスクを考慮して、顧客側で在庫の積み増しが積極的に行われたことも拍車をかけたのだ。一番あおりを受けたのが、自動車業界であろう。

 かつて生産台数1億台を達成しようかという勢いであった自動車業界は、新型コロナウイルス禍によって惨々なことになってしまった。まず何といっても、世界全体が「どこにも出かけない」「ひたすら巣ごもり」「人に会うのはダメ」「遠出はダメで近場」という風潮にあったわけだからして、自動車が売れるわけがないのだ。1億台近くあった生産台数は、2020年、そして2021年といずれも2割減の8000万台程度にトーンダウンしてしまった。

 そしてまた、コロナの影響などもあって、半導体不足が自動車の生産計画を大きく狂わせた。自動車業界としては、潤沢に半導体を供給してもらいたいという思いは非常に強いのであるが、半導体業界側にとっては、やはり需要の大きいスマホ、データセンター、パソコンなどにどうしてもシフトしていくのは仕方がない。自動車向け半導体は全半導体の6~7%くらいであるからして、当然のことながら、供給順位が低いのである。

 さてところで、自動車業界の低迷をよそに、世界のエレクトロニクス産業はコロナ禍をむしろ追い風にして、2桁成長を果たすという勢いにあるのだ。2021年の世界のエレクトロニクス、つまり電子情報産業は、前年比11%増の3兆3602億ドル、日本円にすれば約400兆円に膨れ上がった。自動車産業はトーンダウンが著しく、現状では完成車レベルで見て約300兆円であり、ついにというか、いよいよというか、エレクトロニクスはこれまで世界最大の工業であった自動車を追い越してしまった。

 ここに来ては、5G高速実現のためのデータセンターの投資ラッシュ、巣ごもり需要としてのゲーム機の拡大、さらにはコロナ時代における新たな働き方としてのITリモート、リケーションなども出てきている。スマホも台数の復活と高機能化が進むことで、半導体の搭載係数はひたすら上がっている。テレビもまた、大画面化による需要喚起があり、とりわけ有機ELや4Kバージョンは予想以上に売れているという。

 自動車産業は、堅調に伸びている時であっても世界全体で見れば2~3%増がいいところなのである。その意味では成熟産業であるかもしれない。ライドシェアという考え方が出てきた時に、もう台数は増えないという見方も出てきていた。そして自動車を買える世界の購買力が大きく高まらない限り、自動車産業の発展は望むべくもない。

筆者のスマホと万年筆は日常生活で超重要
筆者のスマホと万年筆は日常生活で超重要
 今日にあってスマホを無くしたり、家に置いてきたりすれば、ほとんどの人は小さなパニックに陥る。日常生活に多大の支障が出るからだ。かつて「お財布より携帯が大事」という女性たちの意見があったが、いまやスマホはお財布にもなってしまっているわけだからして、生活必需品の筆頭格に上がる存在になってきた。

 自動車産業の伸びがそれほど多くないことに対して、電子情報産業はSDGs革命の推進役という一面も持っており、さらなる大きな拡大が今後も期待されるだろう。一大変革期と言われる昨今であるが、世界経済を強力に引っ張ってきた自動車産業が、エレクトロニクス産業にとって代わられるというエポックメイキングな出来事はよく認識しておく必要があるだろう。

 正月のお屠蘇を飲みながら、「半導体が切り開いた社会は永遠に不滅なのね」とつぶやいていたが、前記の世界エレクトロニクス市場約400兆円のうち、日本企業の割合は世界の10%くらいしかないことに気が付き、愕然とした。危うく手にしたお餅をのどに詰まらせそうになり、いくらなんでもこれで死ぬのは嫌だ、という思いになった。毎年のように、餅をのどに詰まらせて死ぬ老人のひとりには決してなりたくないからだ。

 日本の立ち位置などそんなものだろう、という人がおられるだろうが、少し歴史を知らないのではないか。今から約10年前の水準であれば、世界エレクトロニクス産業における日本企業のシェアは約20%もあったのである。ましてやバブルで絶好調の80年代は家電で圧勝していただけに、とんでもなく高いシェアを持っていたことを今どきの若者たちはまったく知らない。

 自動車産業が日本経済の牽引役であっただけに、このトーンダウンが影響して日本経済の急速回復は望めないという声も多い。さあ、こうなれば、半導体の爆裂成長モードに乗って、日本の装置産業、ロボット産業、材料産業に一大飛躍を期待したい、と正月の夢を語って筆を置こうではないか。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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