電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第450回

具体化してきたマイクロLED量産投資


より「半導体ライク」な製造プロセスへ

2022/4/28

 LEDメーカーの新規投資計画がここにきて相次いで具体化している。ターゲットは、次世代技術として期待されるマイクロLEDのエピ&チップや、マイクロLEDディスプレーの量産化を意図したものだ。

 これまでのFPD(Flat Panel Display)業界は、パネルメーカーが液晶や有機ELを製造してセットメーカーやEMSに納入する流れだったが、マイクロLEDではLEDメーカーがエピやチップを製造し、これをパッケージメーカーやOSATが組み立て、パネルメーカーやセットメーカーに納入するというサプライチェーンに変化することを、各社が新たなビジネスチャンスと捉えている。また量産にあたっては、旧来のLEDよりも「ICに近い」生産ラインを構築する必要があるとみられており、今後の需要見通しがさらにポジティブになれば、新たな計画が浮上する可能性もありそうだ。

ams OSRAMが8インチ新工場建設へ

 光半導体&センサーICメーカーのams OSRAMは、4月5日に開催したCapital Markets Dayで今後の事業方針を説明し、マレーシアのクリム工場にLEDエピ&チップを製造する8インチ(200mm)工場を新設する計画を示した。ハイパワーLEDとマイクロLEDを生産する予定で、今後18~24カ月で総額8億ユーロを投資して2024年中に稼働させる。

 20年7月にOSRAMの買収を完了した現在、ams OSRAMは旧Osram Opto Semiconductorsの光半導体事業を引き継いで、LEDと半導体レーザー(LD)の前工程を独レーゲンスブルクとクリム、後工程&テスト工程をマレーシアのペナンと中国の無錫および外部ソース(OSAT)で手がけている。

 19年の買収提案時、OSRAMはクリムに十分な投資ができていなかったが、20年に戦略を変更し、レーゲンスブルクの4インチ/6インチからクリムの6インチへLEDの生産移管を進め、21年のハイパワーLEDの需要増に対応することができた。LEDの生産最適化に向けて、現在の4インチ/6インチ中心の生産から、今後は前工程について6インチ/8インチ中心へシフトを図り、後工程では海外で低コスト生産を実現しつつ、欧州市場でのプレゼンスも維持する。

 マイクロLEDについては、AR/VRスマートグラスやテレビ、スマートウオッチ、車載パネルなどに向けてチップサイズ10~15μm品の量産化を狙う。ユーザーはRGB 3色を単独サプライヤー(1社)から購入したがっているとみて、3色すべてを生産できる強みを生かす。また将来的には、ジェスチャー認識や顔認識、3Dセンシングなど他のセンサーICとマイクロLEDチップの統合も図り、イメージング用途などにも展開していく。

露光はアライナーからステッパーへ

 使用するウエハーについてams OSRAMは言及していないが、LED生産の8インチ化について同社では、従来のディスクリートライクな生産手法から「より半導体に近い生産インフラが必要」とみている。具体的には、4インチ/6インチではアライナーによる近接露光だったが、8インチはステッパー露光が必要だと考えているほか、クリーンルームはクラス1万からクラス100(特定エリアはクラス10)に、検査&テストはインライン測定に、生産ラインは一部自動からSMIF(Standard Mechanical Interface)を用いたフルオートメーション環境が必要とみて、これに応じた製造ラインを整備する。

 現在のリードタイムを考慮し、クリム8インチ工場の建設にすでに着手したという。並行して、これまでマレーシア内12カ所に点在していたLEDの組立&テスト拠点を、新設したマレーシアのバトゥカワン工場に集約するほか、VCSEL(垂直共振器型面発光LD)の生産をレーゲンスブルクに集約すると同時に、オーストリアのプレムシュテッテン工場で製造してきた光学フィルターの製造もレーゲンスブルクに統合する方針だ。


台湾でEnnostarが6インチ新工場を計画

 台湾では、LED&化合物半導体メーカーであるEnnostar(富采)が、台湾FPD大手のAUO(友達光電)とInnolux(群創光電)に対して私募普通株式を発行することを決めた。ここで調達する資金をもとに、マイクロLED専用6インチ工場の建設やエピ&チップ製造装置の購入を進める。

 Ennostarは21年1月、LED大手のEpistar(晶元光電)とLextar Electronics(隆達電子)が経営統合して設立された。Epistarはエピとチップ、Lextarはパッケージに特化し、子会社ではVCSELやGaNパワー半導体などのⅢ-Ⅴ族半導体にも注力して、化合物半導体総合メーカーとして事業を強化している。

 今回、私募株式7000万株の発行を決定し、1年以内に実行して、AUOが6725万株、Innoluxが275万株をそれぞれ取得する。AUOはEnnostarの既存株主だが、Innoluxは初めてEnnostarの少数株主となる。

 マイクロLED 6インチ工場の建設時期や規模は非公表だが、私募普通株式の発行に先立ちEnnostarは3月初旬、台湾の注射薬メーカーである松瑞製薬から竹南科学園区の工場(建築面積約2.7万m²)を6.1億台湾ドルで取得することを決めた。ミニ/マイクロLEDの増産に向け、6インチへの大口径化、将来的には8インチによる量産実現を目指すためと説明していた。

 さらに、3月末にEpistarは、Lextarが新竹科学工業園区に持つ工場を買収したことも明らかにした。建築面積は4万7457m²、取得額は7.1億台湾ドル。活用法については詳細を公表していないが、グループ内のリソース統合の一環として実施し、LEDのエピ&チップに活用していくとみられる。ちなみに、この工場はもともとAUOが保有していたものだという。

ミニLED堅調で増収ペース継続中

 Ennostarの21年通年業績は、売上高が前年比54%増の364億台湾ドル、営業利益は21億台湾ドル(前年は45億台湾ドルの赤字)と大きく伸びた。このうち、Epistarは同72%増の251億台湾ドル、Lextarは同24%増の113億台湾ドルを売り上げた。AppleのiPadなどにミニLEDバックライト(BLU)を提供しているとされ、これが大きく寄与したとみられる。21年10~12月期ベースでノートブック/モニター/モバイル向けの売上構成比は、Epistarが45%(前年同期は13%)、Lextarが51%(同44%)と、いずれも上昇した。また、1月にはLextarがVCSELチップをリリースし、3D-ToFセンシング用に欧米の自動車メーカーへ供給すると発表するなど、Ⅲ-Ⅴ族半導体も伸ばした。

 ミニLEDの需要は引き続き堅調で、Ennostarの単月売上高は、1月が前年同月比32%増、2月が同27%増、3月が同15%増と推移し、22年1~3月期の売上高は前年同期比24%増の85.5億台湾ドルと好調に推移したようだ。今後はテレビやモニターなどの大型BLU用に加え、LEDディスプレー(LEDサイネージ)向けにも展開していく。台湾メディアなどの報道によると、ミニLEDの年産能力は21年末の増強によって4インチ換算で120万枚を有しているが、22年央までに150万枚へ引き上げる計画という。

米社がLEDサイネージ用に組立能力を増強

 LED組立においても、増強の動きが出ている。スポーツ施設や屋外広告、交通情報などの大型LEDディスプレーを製造しているDaktronics(米サウスダコタ州)は、需要増に対応するため、表面実装(SMD)LED製品の生産体制を増強する。22年(22年5月期)の投資総額を約2500万ドル(前年度は789万ドル)に拡大し、全工場でLED組立能力を拡張する計画だ。

 Daktronicsは米サウスダコタ州のブルッキングスとスーフォールズ、ミネソタ州レッドウッドフォールズ、中国の上海、アイルランドのエニスタイモンに生産拠点を持つ。全工場を今夏までに増強してSMD製品ラインの生産能力を倍増し、雇用を拡大する。

 ブルッキングス工場では生産スペースを9万平方フィート増やし、レーザーパンチ、カット、ベンド、レーザー溶接に4台の新規装置を追加して板金プロセスを拡大する。これによりNPP(Narrow Pixel Pitch)製品ラインの組立能力を2倍に引き上げる。

 また、スーフォールズ工場とレッドウッドフォールズ工場では屋内外向けのSMD製品ラインを強化し、エニスタイモン工場と上海工場でも同様にSMD LED製品ラインの生産能力を拡大する。

 社長兼CEOのリース・クルテンバッハ氏は「最高のソリューションを提供するため、生産能力強化製造費、品質と信頼性の高い機器への投資、継続的な情報インフラへの投資を含め、22年度の総資本支出は約2500万ドルになる」と述べている。

 Daktronicsは、20年春にマイクロLED開発企業の米X-DisplayのシリーズA投資ラウンドに参加した。X-Displayは、アイルランドとノースカロライナ州に拠点を持つX-Celeprintからのスピンオフで設立された技術開発企業で、独自の技術開発およびイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校からの特許ライセンスによって、独自のマイクロLED技術を保有している。

ファンドリーへのバックプレーン生産委託も増加

 マイクロLEDのスタートアップや、モノリシック型に必要なシリコンバックプレーン(駆動回路)メーカーが半導体ファンドリーと連携するケースも目立ってきた。

 国際的な研究機関imecからのスピンオフで設立されたMICLEDI Microdisplays(ベルギー・ルーヴェン)は、ARグラス用モノリシック型マイクロLEDディスプレーの製造について、半導体ファンドリー大手のGlobal Foundries(GF)と提携を結んだ。ファンドリーの活用で生産の拡大とコスト低減を可能にする。

 計画によると、GFの22FDXプラットフォームを活用して、300mmウエハーでマイクロLEDアレイに適したコンパニオンICを製造する。画像処理、LEDドライバー、制御機能を備えたもので、これをウエハー間ハイブリッドボンディングで貼り合わせ、ディスプレーモジュールを完成させる。

 MICLEDIのCEOであるSean Lord氏は「GFの300mm製造技術を活用してコントローラーICと発光モジュールを統合し、性能、大量生産、低コストを実現するユニークなソリューションを開発できた」と述べた。MICLEDIは、21年12月に300mm CMOSプラットフォームでAR用マイクロLEDアレイを製造することに成功し、スマートグラス用ディスプレーとして22年1~3月期からサンプル出荷すると表明していた。

 一方、GFはマイクロLED関連として、21年春にCMOSバックプレーン技術を持つ米Compound Photonicsとも戦略的パートナーシップ契約を結び、MICLEDIと同じく、22FDXで独自開発のシリコンバックプレーン「IntelliPix」の製造を受託している。ちなみにCompound Photonicsは、写真共有アプリ「Snapchat」やスマートグラス「Spectacles」などを開発・販売する米Snap Incに先ごろ買収され、現在はSnap Incが21年春に買収したマイクロディスプレー用光導波路メーカーの英WaveOpticsに統合されたようだ。

 マイクロLEDはチップサイズが数十μmときわめて小さいため、ビニングやソーティングをするのが難しい。発光波長や輝度がウエハー面内で大きくばらつかないないように成膜プロセスをより高度化する必要があり、膜厚などをより精緻に管理する必要があるとされる。ams OSRAMが取り組むように、より半導体ライクな製造プロセスが必須になるなら、今後浮上するLED投資はこれまでよりも金額が膨らむことになりそうだ。


電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏

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