電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

トランジスタの登場 4


トランジスタの黎明期はやはりラジオの時代
~自転車ライトを利用し光電話を作ってしまった!

2022/5/13

 筆者が小学生の高学年のころ、父がトランジスタ・ラジオを購入した。当時の父によれば、大学卒の新入社員の月給より高額とのことであり、小型の弁当箱を厚くしたような形状をしていた。父は大事そうにしながら高価なトランジスタ・ラジオで野球の中継を聞きながら夕食をしていた姿が記憶にある。

 トランジスタ・ラジオはソニーのTR-55で始まったが、発売は1955年とのことなので、父が購入した時は、多分、1960年ごろと思える。このころ、トランジスタ・ラジオの進化は早く、ソニーも半年もしないうちに、TR-72を発売している。

 トランジスタ・ラジオを販売しているデパートや専門店では、今のiPhoneやゲーム機のように行列ができたとあった。そして数年すると、トランジスタ・ラジオの優劣を使われているトランジスタの数に依ることとなる。真空管ラジオと同じ扱いで、多くのトランジスタを使っているラジオが良いラジオと評価された。

 そこで、日本でも悪徳業者は居る。ダイオードで済むところに無理やりトランジスタを入れたり、エミッタ・フォロワにして無意味なトランジスタを増やしたり、配線されていないトランジスタ、実際は不良品や壊れたトランジスタを基板に載せたり、と様々な手口で不要なトランジスタの数を増やして値段を吊り上げていた。

 TR-55のトランジスタの数は5個で、実用上は最低であったと思う。TR-72はケースも若干大きく、音声回路がプッシュプルになっていて、トランジスタの数は7個で実用性はこの方が高かった。

 このラジオでの成功がトランジスタの製造側にも大きなインパクトを与えた。文献を漁ると、燐をドープしたトランジスタが高周波特性の改善に大きく寄与し、短波ラジオも作れる様になったとか、このトランジスタの接合に負性抵抗を見出して、理論を構築した結果、エサキ・ダイオードとなり、江崎博士にノーベル賞が授与される元となったとかがある。

 筆者が中学に入った時、1962年と思うが、当時、NHKに勤めていた叔父から、トランジスタ・ラジオのキットを御祝いに頂戴した。トランジスタ、2石のラジオで、高周波増幅、低周波増幅、音響出力を各々トランジスタで行う構成であった。トランジスタは2個で、3個の機能を実現していた。これは、レフレックス、と呼ばれる方式で、初段の高周波増幅段で選局と増幅を行い、ダイオードで検波後、この初段にて音響信号を増幅させ、その後、音響信号を増幅してイヤホンを鳴らす、という一石二鳥、ではなく一石二機能を行っていた。

 このレフレックス・ラジオでは感度が不足するので、スーパー・リゼ方式に改造を試みた。スーパー・リゼ方式とは、高周波増幅段をほぼ発振状態(間欠発振させて)にして一種の共振現象にて増幅度を上げる方式であったが、発振しているので周囲にノイズをまき散らす。このノイズが父のラジオにノイズを与えた結果、父は怒り狂い、この方式はお蔵入りとなった。筆者が行ったのは、トランジスタ・ラジオのキットの改造であったが、スーパー・リゼ方式の作り方は、実は雑誌に載っていた真空管、電池管を用いたトランシーバーの記事から転用した。トランジスタも真空管も混在している時代だからできたことであった。

 ところで、この初期のころ、トランジスタは円筒形の筒型の金属ケースに入れられていた。円筒の上は閉じていて、下側は直径の分が開放されている。トランジスタの3本の足(リード)はトランジスタのチップを保持しているところ、コレクタから1本、ベースとエミッタから各1本の3本があり、これが金属筒に入れられ、ガラス封止されていた。

 問題は下のガラス封止の部分で、ガラスであるから光を通す。これはトランジスタ・ラジオのケースを開けて電池交換の際などに、基板に光が当たるとトランジスタの下側のガラスを通過して金属管の内部に光が入り、特性を変えることがあった。この防止にトランジスタの金属筒の根本に黒色ラッカーで光を防いだりしていた。

 ところで、アマチュア無線をしていた筆者のところには、送信用に使うオーディオ・アンプがあった。10Wの無線の出力には、10Wのアンプが必要なので、実は50Wぐらいのアンプを作っていた。これは送信用なのでステレオではなく、マイクロフォンをつなぐのが本来の用法である。この高出力オーディオ・アンプはエレキ・ギターのアンプへ流用したりした。

 このアンプ、マイク用の高出力なオーディオ・アンプの出力を送信機の最終段でなく、フィラメント電球に接続する。こうしてマイクに向かって話すと、言葉の強弱に応じて光の強度が変化する。自分の声の代わりに音楽を接続すれば、音楽の音の強弱により、周囲の明るさが変化して、なかなか楽しかった。

 別の遊びとしては、電球として自転車のライトを利用して指向性を持たせた光のビームを作る。この場合、自転車用のライトは小さい電球なので、アンプの出力もそれほどはいらない。10Wもあれば十分となる。そして、数十mから数百m離れたところでフォト・トランジスタによりこの光ビームを受け、フォト・トランジスタの出力を別のアンプのマイク端子へつないでおく。これで光電話(一方向だが)ができ上がる。電球は熱くなって光をだすので、周波数特性は良くない、と想定されたが、若干バイアスを掛けておくだけで、声だけなら結構、使いものになった。

 ここで使うフォト・トランジスタであるが、実は、先に説明した、2SA11や2SB33といった金属の管に入っているトランジスタを使った。初期のトランジスタは全て金属筒に入っていたので、フォト・トランジスタの代わりに使うことができた。トランジスタの金属筒の下側、リードが3本でているところの封止と保持にガラスが使われていて、このガラスが透明に近いものを選べば、フォト・トランジスタとして良好に動作させることができた。これゆえ、トランジスタのリードが折れて外れても、ジャンク箱にいれて取っておいたものである。

 もちろん、フォト・トランジスタがなかった訳ではないが、高価であり、感度も低かった。実際に増幅器として使える普通のトランジスタの方が特性はよかったので、こぞって金属管のトランジスタをフォトダイオードとしたものであった。
サイト内検索