電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内

ICの登場と発展 16


機械加工の精度が高いと試作品では問題ないが量産品は動作しない!
~食品工場の金属検出機、全自動麻雀卓で起きたこと

2022/9/16

 1970年代のことである。問題の機器は食品工場で使う金属検出機である。形はドーナツを変形した高さ、幅、長さが60cm程度であったと思う。この箱の、ドーナツの穴に当たる部分に、幅15cm程度の小型のベルト・コンベアがあって、このベルト・コンベアに袋食品を載せて通過させる。この通過の際に、金属筐体でシールドされている検出アンテナが内部に3本あり、真ん中の1本が電磁波を出し、両側の2本が電磁波を受信する。受信した信号は、ほぼ同じなので、電子回路で調整して無信号状態にする。

 ベルト・コンベアで食品が筐体の中に入って来て、アンテナ付近に来ると、両側のアンテナが受信している信号に差が出る。受信した電磁波の大きさと位相が変化する。主に、この信号強度と位相の変化を検出することで、ベルト・コンベアの上にある物の導電度を計測して、金属の有無を検出する、という装置である。

 筆者が所属していたシステム・ハウスがこの金属検出機の電子回路部分を受注した。回路を設計し、試作し、ダミーのアンテナ装置を借りてきて調整し、所要の金属の感度を得ることができた。立ち合い検査に合格したので、電子基板を作り納入した。

 さて電子基板は納入したが、工場で生産した量産品のアンテナを接続して試験すると、全数が動作しない、との連絡が来た。こちらでは、ダミーのアンテナで出荷前に検査しているので、そんなはずはない、と金属加工の工場へ出向く。現場で確認すると確かに動作しない。しかし、電子基板の電圧を計測しても異常はない。だが、検出用のアンテナからは何を送信アンテナに入れても信号が出てこない。

 検出回路と接続ケーブルを調べても全て正常としか言いようがない。テストに使っていたアンテナを取り寄せて試行してみると、ちゃんと検出する。原因が全く分からない。徹夜仕事となり、それも2日目に入ったころ、アンテナと信号線の確認をしていると、アンテナを構成しているエポキシのフレームを斜めにしようとしたら、受信用のアンテナに一瞬、信号が出てきたのがオシロスコープに見えた。厚さ1cm以上のガラス・エポキシの板を組み合わせてフレームはできており、少々の力では歪まない。接続を確認するために重いフレームを斜めにした時に、一瞬、信号が見えた。しかし普通の位置に戻すと信号は消えてしまう。

 そして、分解してもらうと途中で受信側のアンテナに出力が出てきた。そこで分解を止めて、組み立ててもらうと、また信号は消えてしまう。何回か、分解―組立を繰り返すと、信号ケーブルを接続するネジを締めると受信信号が消えることが分かった。そこで、この部分を重点的に調べると、ケーブルからの信号、3本あるアンテナの真ん中が送信アンテナだが、これに電磁波をドライブしている電子基板からの信号がつながっていないらしい、と分かった。

 しかし、全員、?である。金属のネジで信号線を端子止めしていて、このネジが真ん中のアンテナの固定部分に被るようになっている。この構造から完全に接続されるはずである、と思った。しかし、現象から思い込みを排して、接続がされていない前提で、構造を調べさせてもらった。そして原因が特定できた。金属とエポキシ板の加工が完璧に過ぎて、信号線につながっているネジが、受け側のアンテナの一部となっている金属部分の中心を通過して接触していない。例えれば、アンテナは金属のワッシャであり、金属のワッシャにある穴の中心をネジが通過していて、ネジ部分とワッシャとが接触していないので電気的には接続していなかった。この隙間は眼に見えない程の狭さであり、機械加工の制度が高すぎたことから起きた事故であった。

 これを金属工場の技術者達に指摘し、別に短い電線でつなぐと全て正常に動作する。金属工場の技術者達も未接続を自分達で調べて納得した。この問題は、信号ケーブルの接続部分に別途、配線端子を追加することで解消できた。

 似た別のケースも紹介しよう。これも古い話である。機器は、全自動麻雀卓である。全自動麻雀卓は、急に普及し、国内のすべての雀荘に普及すると、需要が一気になくなり、販売会社が倒産するといった問題があったが、この件は、それからしばらく後のことである。全自動麻雀卓のセコンド・ソースを作っている会社があり、この会社にモトローラのマイコン、パチンコと同じMC6802を納めていた。あるとき、新型の雀卓を作ったら、マイコンが正常に動作しないので見て欲しい、との依頼があった。出かけて行き、状況を調べる。雀卓の蓋、麻雀をするテーブル部分はメンテナンスのために持ち上げられるように、ドアと同じで、ある辺に丁番があり、持ち上げて麻雀卓の点検ができるようになっている。この蓋を持ち上げたまま点検する。何も異常はない。雀卓を作っている人達も、蓋が開いていれば異常は起きない、と言う。

 蓋を閉じて麻雀卓として動作させようとすると、動作しない?何故、蓋を閉めるとマイコンが動作しない?蓋を開ければ、正常に動作する。蓋をして、電源を切り、改めて電源を入れると正常に動作する。何だ!これは?となった。雀卓を作っている人達に聞くと同じ症状であり、数十台ある雀卓、全てで同じ症状である、とのことであり、訳が分からないので筆者を呼んだとのことである。

 筆者が見ながら何度か蓋を開け、閉めすると、締め切る直前に、どこかで火花が飛んでいるのか、一瞬、光が見えた。これだ!と判断した。蓋はアルミの厚板でできているので、この蓋と、下側のテーブルの側の金属筐体の接地用のところを手持ちの細いワイヤーで結んでみた。

 これでトラブルは解消した。原因は、麻雀卓の表面にはビロード様のシートが貼られていたが、これが静電気を起こす。そして蓋と本体の筐体は積極的には接続されていないので、蓋を閉じ切る際に静電気放電の火花が起き、マイコン基板の付近にも、この放電電流が流れる。この静電気放電がマイコンを暴走させ、蓋を閉じると動かない、という変なクレームとなった。

 この件も、金属検出機と同じで、蓋側と、卓の本体側は蓋を閉めれば接続する構造ではあるが、閉まるギリギリまで接続しない、つまり下側の筐体の上側部分が完全に平になっていたので発生した問題と知れた。

 今回紹介した2件は、金属加工の精度が高くて起きた問題であるが、金属加工を行う技術者達は、真円の度合いや、筐体の上面の平滑の度合いは高ければ高いほど良いとしていた。当然、この技術者達は電気的未接続や静電気放電が起きるとは全く考えていない。
サイト内検索