電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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ICの登場と発展 17


SiCという新材料は素晴らしいが問題は多い!
~SiCショットキー・ダイオードはCVDの逆反応でもはや爆発物

2022/9/26

 今回の話は、比較的、新しいものである。テーマは掲題にもあるが、シリコン・カーバイド、(SiC)半導体である。SiC半導体は、理想の半導体、と昨今持てはやされているが、その性質をよく知らないと予想外の事故につながる。

 先ず、SiC半導体の作り方である。電子関係、宝飾関係のSiC半導体は、気体から固体へ凝固させて製造する(CVD法)。この凝固する温度は1700℃と言われ、シリコンより余程、高温である。これは気体から固体を作るので昇華の逆である。このCVDの際に、半導体用は不純物を加えて、n型やp型を作るが、相当の技術がないと格子欠陥となりやすいので、研究が続けられ、最近は無欠陥のウエハーが作られている。

 実は、SiCの製造方法は、もっと簡単な方法がいくつかあるし、大量に作ることも可能である。炭素繊維の同類での炭化シリコンの繊維も作られている。こういった簡易な製造方法で作られたSiCは、金属の表面に固着させれば、ダイヤモンド鑢(やすり)として使われるし、粉末はサンドブラストのサンド(砂)として使われている。これらは、ダイヤモンドに次ぐと言われる硬さの利用となっている。

 しかし半導体用となると、結晶ウエハーとしなければならないし、結晶の格子欠陥があると半導体としては不良品となるので、格子欠陥を作らない製造方法でなければならない。そこで結晶の度合いが制御できるCVD法で作られている。もっとも、少々の格子欠陥を許す応用があり、大量生産されている。この応用のひとつは、LEDのベースである。ほとんどのLEDは、SiCのベースの上に蒸着にて層を形成させて作られている。この場合は、格子欠陥は少々、あっても構わない。また、やはりよく話題に上る化合物半導体、窒化ガリウム(GaN)のベースにも使われている。LEDや化合物半導体のベースに採用する理由は、高い熱伝導度と低い電気抵抗である。

 もうひとつ、少々の格子欠陥は許容する応用がある。これが宝飾である。こちらは格子欠陥より、不純物があると色がつくので使えない。低純度のSiCを気相法で純度を上げて透明な結晶を作ることで、ダイヤモンドの代替として使っている。偽ダイヤとして使われる安価なジルコニアより余程、ダイヤモンドに近い性質を持つが、ダイヤモンド程ではないが高価である。

 SiC半導体の問題は、加工の難しさにある。何しろ固い。結晶内で原子が移動しないので、イオン・インジェクションを行うとウエハーの表面がざらざらになり、しかも深くは打ち込めない。ざらざらになった表面の研磨も、ダイヤモンドに次ぐ硬さゆえ、手間と費用がかかる。半導体のチップとして切り出すのも、ダイヤモンドの鋸の歯はシリコンなら100枚は処理できるが、SiCでは1枚で駄目になると言われている。

 元々の半導体用のSiCウエハー(n型)は薄緑色をしている。シリコンとの違いは、机の上から落としても割れない、ということもある。何かの欠陥で使えなくなった4インチのウエハーをもらい、わざと落として見せて驚かせていたこともあった。

 SiCは電力用の素子として期待されている。実際、2004年に関西電力が大型のインバータをSiCのIGBTを用いて製作していて、その概要はWebにある(https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2004/0227_4j.html)。このインバータの仕様は、従来のシリコン・ベースの半導体とは大きく違う。大体、半導体素子の動作最高温度が275℃となっている点が目につく。このIGBTを作ったCREE社の技術に聞いたところでは、パッケージの材料、金属パッケージ、パッケージ内の配線材料、いずれも新規に開発し、凄く費用がかかった、とのことであった。

 確かに、動作温度が250℃となれば、はんだが熔ける。絶縁に使うフィルムもポリイミドといった高温に耐えるものとしなければならない。金属もアルミでは、エレクトロ・マイグレーションにより変形してしまう。

 SiCショットキー・ダイオードはイオン・インジェクションを必要としない。そこで比較的、安価に作れる。さらに、シリコン・ダイオードで問題になる、ホールの残留効果が小さくスイッチング時にオーバーシュート、リンギングがほとんど起きない。インバータでのスイッチング波形が乱れていたら、回生ダイオードをSiCショットキー・ダイオードに置き換えてみることをお勧めする。余計な振動波形がないので、インバータの設定ミスがすぐに見える。このような、多々ある長所により、SiCショットキー・ダイオードは広く使われている。価格の割に高電圧で高電流のものが販売されている。

 このSiCショットキー・ダイオードで注意することが2つある。そのひとつは、順方向の電圧降下である。シリコンのショットキー・ダイオードなら、10Aを流しても1V以下であるが、SiCショットキー・ダイオードでは、1.8Vと倍近い順方向の電圧降下を起こす。これゆえ、発熱が多くなる。

 2つ目は、壊れた時の対策である。SiCはCVDで作られている。もし耐圧を超えてブレークダウンが起こり、大電流が流れて大きな発熱を起こすと、液体にならず、2500℃で昇華して気体化する。CVDの逆反応が起きる。これはまさに、爆発となる。

 筆者は、SiCショットキー・ダイオードがブレークダウンした後の基板を見たことがある。SiCショットキー・ダイオードはピンが2本残っているだけで、TO220の形はない。それだけでなくSiCショットキー・ダイオードの周辺、5cm程度の近傍の部品は、ほぼ全てなくなっていた。実際、SiCショットキー・ダイオードは爆発物として考え、扱う必要がある。シリコンなら、爆発する際にも、液化してから気化するのでパッケージが割れる程度で済む。SiCショットキー・ダイオードの場合は、高耐圧でブレークダウンを起こし難いが、起こせば爆発である。使用される際には、この爆発を予想して基板、防護カバーなどを設計していただきたい。

 新素材には、必ず、新規の特性、性質がある。材料の開発段階、半導体への展開の段階では、使用上の制限の範囲で使うことが予定される。使用の条件の範囲外となると、条件が多すぎて設定できない。今後、新素材の半導体が続々と出てくるであろうが、新トラブルの素をもたらすという観点を忘れてはいけない。製品化は、新材料の半導体を使う、我々、電子屋の責任である。
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