電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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マイコンとゲーム機、遊技機 3


遊技機のデジ切れ、暴走は大問題、しかし解決策あり!
~遊技機専用マイコンのシステム開発はノイズとの闘いに尽きる

2022/10/21

 前回に続き、このマイコン・パチンコ台を開発していた時のエピソードを紹介しよう。まずパチンコ用の電子基板メーカーの担当技術員たちと行ったことは、マイコンのノイズ試験であった。これはパチンコ台が設置される環境、パチンコ・ホールにある「シマ」と呼ばれるパチンコ台を取り付ける設備の環境は電子的には最悪だったことによる。

 パチンコ台が両面に取り付けられているシマでは、パチンコ球の補給と回収、投入された硬貨や千円札の金庫への移動にベルト・コンベアが使われている。このコンベアのナイロン・ベルトと金属のフレームが擦れて、大量の静電気を発生し、あちこちで放電して、ミニ雷となっている。このミニ雷が電子基板に飛びついてくる。さらに、電源のAC24Vも安定しているとは言い難い。わざと周波数や電圧を変ええて客の回転を良くしようとするホールもある。

 そこで、マイコン化を進める前に、ノイズ耐性試験を実施した。8085、Z80、6802のメジャーな8ビット・マイコンを最低限、必要な部品とともに、大き目の1枚のユニバーサル基板上に、3種類とも組み、ループ・プログラムでLEDランプをオン・オフさせる。このオン・オフが停止すると暴走した、と判断することとした。

 この3種のマイコンが乗っている基板へ高電圧試験機のノイズ・ガンから基板へ火花放電してノイズ耐性を調べた。この試験では、6802が抜群のノイズ耐性を示した。一番弱かったのは、8085であった。理由を調べたが、6802の強さは、RAMを内蔵していることにあり、8085の弱さは、バスのマルチプレックスにある、というのが結論であった。8085で弱いのは、アドレスとデータをバス上で切り替えるための、外付けのアドレス・ラッチである、という推定がなされた。

 6802の採用が決まったところで、技術コンペが行われた。参加社は、モトローラの日本の代理店2社であった。うち1社が、筆者が所属していた会社で、もう1社は大手上場企業の一部門であった。

 結果としては、筆者が作ったデモ基板が、もう1社が作ったデモ基板より、はるかに高いノイズ耐性を示して、筆者のデモ基板が採用となった。この競合した会社が作ってきたデモ基板は、モトローラ社のハンドブック通り、きちんとした回路構成であった。これに反して、筆者の基板の回路は、以前に作ったカラオケのコントロール用の基板を流用したものであった。カラオケは、スナックといった、やはり環境が悪いところで使われる。そこで試行錯誤の結果、少々変な回路にしたが、ノイズには強かった。これは現場での苦労が実ったこととなった。

 このコンペから筆者の回路の採用が決まった。最初の基板に搭載した主要なICは、MC6802が1個、MC6821が1個、2716が1個、7400が1個、CD4040CDが1個、オーディオアンプICが1個、あとは電源とランプのドライバ、スピーカーのドライバであった。

 そこで、この基板用のパチンコ台を作って、ホールで試験してみると相当にノイズに強いはずの回路であるが、まだ簡単にデジ切れを起こす。ホールの店長というヤクザ風の人に、「これでは困るよね。あんたの給料で補填できるの?」と脅された。こういう怖い思いをしたことも懐かしい思い出である。

 紆余曲折の結果、周期的にマイコンに短パルスでリセットを掛けて、このリセットをリアルタイム・クロックとしての定周期割込みとして扱うこととした。4mSといった短い時間で、CPUをリセットするので、例えノイズによって、マイコンが暴走して異常動作をしたり、停止したりしても、4mS内に正常動作に復帰する。これで、デジ切れ(暴走)が遊技客に見えなくなった。また、パチンコ台は内部でソレノイドやリレーを多用するが、これらの動作には15mS以上の時間がかかるので、4mS信号が途切れても何も起きない。電球やLEDも使っているが、これらも10mS切れても、人間には見えない。これも遊技客に気付かれないための仕掛けの一部である。この方法はソフトウエアにも様々な工夫が必要だが、それらは企業秘密である。

 周期リセットを使ったパチンコ台を試作してホールで試すと、1日中動かしてもデジ切れは見えない。合格となった。さあ、警察の許可だ、量産の準備だ、と大騒ぎが始まった。

 何しろ、年間3000台でヒット作としていたパチンコ台の製造数を、日産2000台から4000台としようとするのであるから、あれが足りない、これが足りない、となる。まさに大騒ぎである。実際、この数年前に、「メテオ」という機種で大ヒットと言われていたが、全生産数は3000台プラス程度であった。

 つまり年間3000台~1万台を作っていた工場が、突如、一日で2000台から4000台を作ることとなった。この飛躍により大騒ぎとなったのは容易に推測できると思う。パチンコ台の電子基板メーカー、アイキョー社の方も、土曜、日曜、祭日も工場は24時間ノン・ストップで操業した。それでも、当初は1日に2000台を作るのがやっとであった。当然、未だ足りない。工場を拡張し、別の業者の工場にも応援を依頼し、と増産に余念がなかった。

 量産が始まる前に、プログラムの改造を依頼された。生産ラインで電子基板の組立が終わると試験しなければならない。しかしパチンコ台での大当たりは、250分の1の確率でしか起きない。これでは検査にならない。そこで、あるピンを抵抗器でプルアップしておくと、特定の球の入賞で大当たりとなるようにして検査が出来るようにした。検査が終われば、その証として、このプルアップ抵抗をカットして貰うこととした。これで組み上がった基板の検査の問題もなくなった。ところが、このプル・アップ抵抗のカットを忘れて出荷される台があり、ホールに設置して、余りに簡単に大当たりになる、と問題になった。急拵えの製造ライン故の問題の1つであった。

 この製造ラインでは人手が不足して、筆者の所属していた半導体商社にもヘルプの依頼が来た。担当営業員は、土日の休みを返上して桐生まで行き生産ラインに入っていた。筆者も、不良基板の原因発見、修正をお手伝いした。マイコン・パチンコ第一段階の時の思い出である。

 開発成功となって警察の許可も取れた。ここからの量産へ協力する日本の業者の貢献は大きかった。今でも、新製品、新技術が出てきて、新たな要求へ対応する力があると信じたい。
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