電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第510回

スマート専門高校に向けて頑張る熊本県立鹿本商工の取り組み


TSMC進出のインパクトは地域の人材育成に向けて大きく走り出している

2022/12/9

 「夢に向かってみんなで一歩前へ」をキャッチフレーズとする熊本県立鹿本商工高等学校に訪問する機会に恵まれた。この高校は、商業と工業の両方を併せ持つ学校であることが特徴だ。工業系学科としては機械科、および電子機械科がある。商業系学科としては商業科、および情報管理科があるのだ。

 「よろしくお願いしまーす、これからプレゼンをやらせていただきまーす」

 ああ、こうした若者たちの声を聞くのは久しぶりという思いであった。そしてまた、台湾の半導体ファンドリー企業最大手であるTSMCが熊本に新工場を建設することが、地元の高校にも大きなインパクトを与えているのだという感慨を持った。国の政策では、DXに対応した最新設備については、1億円分の導入を高校に図るとしている。これは学習の現場にとっては大きなプレゼントだとは言えるだろう。同校にあって、電子機械科主任を務める中村俊一氏は、鹿本商工高校についても、今こそ頑張る時が来たとして、次のようにコメントしている。

 「DXに対応した最新設備は、どうあっても必要なのだと思う。国のいうスマート専門高校を実現するためには、手厚い予算が必要になってくる。熊本県においても補正予算などで注力してくれていることはありがたい。そしてまた、DX対応の地域の人材育成は、いつにかかって私たちのミッションだと思っている」

 Society 5.0時代を迎えているが、鹿本高校においても工業系の生徒さんたちは週3時間、このことに関する実習を全員(170人)がやっている。3Dプリンターのものづくりなどに積極的に取り組んでいるのだ。熊本県アイデアロボット競技会においては、アイデア賞を受賞している。

 様々な実習の現場を見せていただいたが、確かに素晴らしい設備が多かった。産業用ロボットは三菱電機のものを使っていた。マシニングセンターは静岡鐵工所のものを使っており、1000分の1mmを制御するレベルである。生徒さんにうかがったところ、「頼れるものは自分のプログラミングのみであり、総力を挙げてやっています」とのことであった。

 とにもかくにも、ここの高校生たちの眼はギラギラとしており、新しいものを生み出す喜びに溢れていた。そして、質問してもはっきりと、元気に返ってきた。お土産に、彼らが作ったプラスチックや金属の金型のスマホ立てなどをいただいたが、毎日使わせていただいており、見るたびに高校生たちの眼の色を思い出している。

 熊本県におけるTSMC進出のインパクトはすさまじいものだ。経済効果は1兆7000億円とも言われており、ここ4~5年のうちには4兆円の経済効果も想定されるのであるからして、驚きだ。県下には、このことに関連して、60~70カ所の中小企業において、新工場が建設されるとも聞いている。どこまで行っても人材は足りないだろう。それゆえに、頑張る高校生たちの育成がとても大切なのである。

 「楽しくて時間を忘れるものづくり」「機械科は山あり谷あり青空あり」「溶接は俺の心に火をつけた」「匠の子傷の数だけ光る技」「cmからmmに全てが置き換わる」

鹿本商工高校の生徒さんたちが作ったマイコンカー
鹿本商工高校の生徒さんたちが
作ったマイコンカー
 これらは、機械科の生徒さんが作った川柳である。いや~、微笑ましいというか、力漲るというか、彼らに勇気を与えられたような気になってしまう。ファイバーレーザー加工機の稼働する現場も見せていただいた。そしてまた、ロボット作りの現場も見せていただいた。マイコンカーを作っていたが、部品としてはセンサー、ギアボックス、基板があり、これらをうまく組み合わせて作っていることに感心した。

 この高校のテーゼは、「進取果敢~成長に向けた挑戦~」というものだ。トヨタ自動車や本田技研工業などの自動車メーカーに進む人たちも多い。もちろん、半導体製造装置関連に進む人たちも結構いるのである。一番最後に生徒さんの人たちに挨拶をされたが、この言葉には参った。それは次のようなものだ。

 「私たちは、即戦力の人材になりたいです!」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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