カーボンニュートラルや自動車の電動化に伴い、車体に太陽電池(PV)パネルを設置したソーラーカーの開発が進んでいる。トヨタはすでにルーフにPVを搭載した市販車を販売しており、欧州でも複数のスタートアップ企業がソーラーカーの量産を目指して開発を加速している。
一方、ソーラーカーはコストや実用性の面で多くの課題を抱えており、最近ではドイツのスタートアップ企業が自社生産を断念したことを発表している。果たして、究極のエコカーと言われるソーラーカーが走り出す日はいつになるのか。
高効率3接合の実証進む
ソーラーカーに搭載するPVは出力が高いほど走行距離も伸びるが、設置面積の制約が多い自動車の場合、1000W程度が実用化の目安となっている。トヨタ自動車では、自動車に搭載可能なPVモジュールの面積は最大で5.4m²と見積もっており、PVの変換効率を17%と仮定すると、800WのPV出力が可能と試算している。
トヨタ自動車は2005年からPV搭載車の開発を開始し、これまでに3台のPV搭載車を市場投入している。第1弾として、09年に発売したプリウスにオプションとして、「ソーラーベンチレーションシステム」を採用した。搭載した多結晶SiPV(京セラ製)の出力は65Wで、PVで発電した電力は、駐車時の車内温度上昇を抑える空調機器の運転に使われた。
さらに、17年には大出力のPVを搭載した第2世代のプリウスPHVを発表した。搭載したPVは高効率のSHJ(ヘテロ接合型、パナソニック製)で、最大出力は180W。前モデルに対し、設置面積の拡大、高出力モジュールの採用で出力が3倍に増えた。PV出力が増加し、量産車では世界初となるソーラー充電システムを採用したことで、PVで発電した電力でモーター走行が可能になった。
そして、22年にはPV搭載の新型EV「bZ4X」を発売した。航続距離は約500kmだが、PV(出力225W)を搭載することで、年間1800kmの走行距離(社内試算値)に相当する発電量の生成が可能と説明している。
一方、19年からは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)およびシャープと共同で、第3世代となるPV搭載車の実証実験に取り組んでいる。PVはシャープが開発したInGaP/GaAs/InGaAsの3接合型を採用した。モジュール面積は3m²(ルーフ、フード、ハッチ)で、出力は860Wとなっている。走行試験の結果、1日平均17km、年間6000km以上をPV電力で走行できることを確認している。
日産自動車もシャープのIII-V族化合物高効率PVモジュール(出力1150W)を搭載したEV「e-NV200」を試作し、実証走行を行っている。
欧州企業は計画見直し
欧州では、ソーラーカーの量産を目指すスタートアップ企業が立ち上がっているが、開発には苦労しているようだ。Sono Motors(ドイツ)は16年の設立で、PVモジュールを車体全面に張り付けたEV「Sion」を開発した。これまでに4万5000台を超える予約を受注していたが、市場環境の悪化で、これ以上多額の資本を投入して「Sion」の開発プログラムを継続することは困難と判断し、同プログラムを終了し、自社生産を断念した。
ただ、車載用PVの技術開発および用途開発は継続する予定で、今後はバスやトラックなどの商業車、さらにはサードパーティーのOEM車など、BtoB向けのPVソリューションの提供に特化するという。すでに、欧米やアジアの10カ国の企業と協業しており、開発したPVソリューションはサードパーティーのOEM車、バス、冷蔵車、RV車など、さまざまな種類の車両で試験導入が始まっている。
16年設立のLightyear(オランダ)もソーラーカーの量産計画の見直しに迫られている。同社は21年夏にプロトタイプの「Lightyear One」を開発し、22年には世界初の量産モデルとなる「Lightyear 0」を発表した。22年末から一部生産を開始したが、最近になって、同モデルの生産を停止し、次世代モデルとなる「Lightyear 2」の開発および生産に経営資源を集中することを決めた。
「Lightyear 2」は、23年1月に開催されたCES2023の会場で初めて披露した。詳細は明らかにしていないが、前モデルと同様にPVパネルを搭載し、航続距離は800km以上としている。価格は4万ユーロで、より多くのユーザーが利用できるように価格設定を見直したという。すでにウエイティングリストを立ち上げており、4万超のサブスクリプションと約2万の購入予約を獲得している。
米国のAptera MotorsはPVパネルを搭載した新コンセプトのEV「Aptera」を開発している。「Aptera」は前輪が2輪、後輪が1輪の3輪車で、車体の上部に2.4m²のPVパネルを配置。PV出力は700Wで、PV電力のみで1日最大40マイル(64km)の走行が可能という。最高速度は時速106km以上で、100kWhの蓄電池搭載車両では1000マイル(1600km)の航続距離を誇る。最近では、エコ・アクセラレーターのSustainabilitySoonerから初のフリート注文を獲得した。第1弾として101台を受注したが、将来的には10万台以上の受注を期待している。
低コストのタンデムPVを開発
面積に制約がある車載用PVは、III-V族化合物半導体のような変換効率が高いPVが望ましい。III-V族化合物PVはNREL(米国再生可能エネルギー研究所)が集光型(143倍)6接合セルで47.1%、非集光で39.2%の変換効率を実現している。また、シャープは逆積み法(転写法)を用いた3接合セルで37.9%(非集光)、302倍集光で44.4%だが、モジュール(面積965cm²)でも32.65%を実現している。ただ、III-V族化合物の製造コストは高く、今のところ、量産車への搭載は難しい。
そこで、低コスト&高効率の結晶シリコン(Si)をベースとしたタンデム型が注目されており、22年6月にスイスの研究グループ(EPFL&CSEM)がトップセルにペロブスカイト太陽電池(PSC)、ボトムセルに結晶Siを用いたタンデム型で31.3%の変換効率を達成した。同年11月にはドイツのHZBがPSC/Siタンデムで32.5%を実現し、23年3月には、サウジアラビアのKAUSTがPSC/Siタンデムセル(2端子、0.99cm²)で33.2%の世界最高効率を達成した。
ボトムセルにCIGSを用いたPSCタンデムの開発も進んでいる。Solliance(オランダ)は、4端子構造のPSC/CIGSタンデムで変換効率27.0%、出光興産も同構造のタンデムセルで変換効率25.5%を実現している。Midsummer(スウェーデン)は156mm角のステンレス基板を用いたCIGSを開発しているが、米UCLAと共同で4端子構造のPSC/CIGSタンデムを試作し、変換効率24.9%を達成した。今後は大量生産に適した2端子構造のタンデムセルを開発するという。
日本でも、20年に設立したスタートアップ企業の(株)PXP(相模原市緑区)が車載用タンデムを開発している。同社は基板に50μm厚の極薄チタン箔を用いた軽量&フレキシブルCIGSを開発しており、車載用の場合、3m²の設置面積で600W程度の出力が可能と見積もっている。一方、さらなる高出力化を目指して、PSC/CIGSタンデムも開発している。
(株)東芝は車載用PVとして透過型亜酸化銅(Cu2O)を開発している。22年には、セルサイズを10×3mmに拡大することに成功し、変換効率も9.5%まで向上した。透過型Cu2Oでは世界最高効率になる。変換効率25%の結晶Siの上に透過型Cu2Oを積層したタンデム型の変換効率は28.5%と見積もっており、EVの電費を12.5km/kWhと仮定すると、充電なしで1日に約37kmの走行が可能と試算している。量産化に向けて、透過型Cu2Oのさらなる大型化に取り組んでいる。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾