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厚生労働省医政局研究開発振興課 再生医療研究推進室 ヒト幹細胞臨床研究対策専門官 原 章規氏(上)


テーマは再生医療実用化の取組みと体制

2013/10/22

原章規氏
原章規氏
 (株)JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーで、厚生労働省医政局研究開発振興課 再生医療研究推進室 ヒト幹細胞臨床研究対策専門官の原章規氏の「オールジャパン体制のもと戦略的に推進する『再生医療の実用化に向けた制度面・予算面からの取組みと実施体制』~『再生医療の実現化ハイウェイ構想』をふまえて~」と題する講演が行われた。山中伸弥教授のノーベル賞受賞や、国により10年間で1000億円以上を投入する研究支援の方針が打ち出されるなど話題のテーマであり、国の政策が聴講できるとあって、多くの聴講者を集め、また、活発な質疑応答が行われた。
 原氏の講演は、再生医療の現状と課題、再生医療の法整備、再生医療の予算措置で構成され、この構成に沿って3回に分けて記事を掲載する。

◇   ◇   ◇

 まず、現状と課題においては、再生医療の意味として、「病気やけがで機能不全になった組織、臓器を再生させる医療」であり、「再生医療で用いられるiPS細胞などについては、創薬のためのツールとしても期待されている」とした。再生医療に用いられるものとして、ES細胞(胚性幹細胞:受精卵から作製された細胞、倫理面で課題あり)、iPS細胞(人工多能性幹細胞:体の細胞に特定の遺伝子を導入し作製された細胞、がん化などの課題あり)、造血幹細胞等の体性幹細胞(生物が元々持つ細胞、限定された種類の細胞にしか分化しない)などを挙げた。さらに、創薬面では、ヒトiPS細胞などから目的とするヒトの細胞を作製し、薬物を投与することでの安全性、有効性、毒性などの確認にも有用性が高いと解説した。
 日本における現状は、自家培養表皮「ジェイス」と自家培養軟骨「ジャック」が薬事承認を受けており、8月現在でヒトを対象に実施する治験中が6件となっている。さらに、大学を中心に84件の臨床研究が進められており、その内訳は、iPS細胞を用いたもの2件(理化学研究所、先端医療振興財団)がこの8月から実施され、残る82件は体性幹細胞または体細胞である。創薬においては、世界初のヒトiPS細胞から分化誘導した肝臓細胞が2012年4月に製品化されている。なお、日本でES細胞を用いた臨床研究はなく、海外では4件が実施中である。
 課題として、ES細胞の倫理性(生命の萌芽に手を加えること)、安全性(がん化の可能性など人体に及ぼす影響、元々の細胞や培養中の原材料に含まれていた細菌、ウイルスが他人に伝播するリスク)、迅速性(医療での実用化が円滑に進まないとの現場の指摘)といった制度面の課題や、基礎研究から実用化に進むための研究費や創薬等研究への研究費の充実といった予算面の課題を示した。
 12年12月時点での、各国の再生医療製品の上市製品数および治験中の品目数と主な品目内訳は、欧州(20、42、自家培養表皮/軟骨など)、アメリカ(9、88、自家培養皮膚/軟骨、同種培養真皮/皮膚など)、韓国(14、31、自家培養表皮/軟骨、自家骨など)などとなっている。今後、日本がリードできるよう、迅速な環境の整備を図り、(1)再生医療製品の特性を踏まえた条件・期限付きの早期承認制度を導入することなどを内容とする「薬事法等改正法案」と、(2)再生医療のリスクに応じて適切に安全性確保を図るとともに、細胞培養加工について、医療機関から外部への委託を可能とする「再生医療等安全性確保法案」が国会に提出された。
 「再生医療の実現化ハイウェイ構想」は、文部科学省による新たな再生医療技術に関する基礎研究の推進(基礎研究、非臨床研究)、その後の臨床研究、治験を厚生労働省が担い、また、経済産業省が再生医療の実現化を支える産業基盤(培養装置、培地、試薬など)の構築を推進するという、3省の連携体制を採る。また、並行してヒトiPS細胞などを用いた病態解明などの研究や創薬といった新規産業の創出も目指す。
 この構想に採択された文部科学省の課題は、課題A(1~3年目までに臨床研究に到達することを目指す研究、主に体性幹細胞)では、理化学研究所(iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の開発)、東京医科歯科大学(滑膜幹細胞による膝半月板再生)、山口大学(培養ヒト骨髄細胞:間葉系幹細胞を用いた低侵襲肝臓再生療法の開発)、京都府立医科大学(培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化)、広島大学(磁性化骨髄間葉系細胞の磁気ターゲティングによる骨・軟骨再生)の5課題がある。課題B(5~7年目までに臨床研究に到達することを目指す研究、主にiPS細胞、ES細胞)では、大阪大学(iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発)、慶應義塾大学(iPS細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立)、国立成育医療研究センター(重症高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症に対するヒト胚性幹(ES)細胞製剤に関する臨床研究)、京都大学(iPS細胞技術を基盤とする血小板製剤の開発と臨床試験)の4課題がある。
 さらに、科学技術振興機構の「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」の中核拠点及び拠点Aに採択された機関は、京都大学(iPS細胞ストック、パーキンソン病・脳梗塞)、理化学研究所(網膜)、大阪大学(心臓)、慶應義塾大学(脊髄損傷・脳梗塞)があり、文部科学省による資料では、網膜色素上皮細胞は12年度までの基礎研究を経て、13年度から臨床研究へと移行。視細胞と血小板は16年度には基礎研究から臨床研究へ、神経前駆細胞、心筋、角膜は17年度に臨床研究へ移行する目標とされている。
 再生医療の臨床研究を実施するに当たっては、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針(かかわるすべての者が遵守すべき事項を定めた告示)がある。同指針は06年に告示され、10年に、指針の適用範囲を臓器や組織の再生を目的として、ヒト幹細胞などを用いて疾病の治療を行う臨床研究と明記し、「ヒト幹細胞」にヒトES細胞とiPS細胞を追加、新規のヒト幹細胞を用いる際の有効性と安全性に対する留意事項を規定するといった改正を行った。13年には、指針の対象範囲として、臨床研究における使用を目的としてヒト幹細胞などを調製・保管する研究も対象とし、また、一定の要件の下、ヒトES細胞を用いた臨床研究を可能とするなどの改正を行った。今後新たに作成されるバンク・ストックについても、安全性などを確認し、当該バンク・ストックを利用する臨床研究との接続の効率化が期待される。
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