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メディカル・エクセレンス・ジャパン(上) 理事 北野選也氏


日本の医療の海外展開推進、アジアなどで3案件が進行

2013/11/19

北野選也氏
北野選也氏
 JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーで、日本の医療の海外展開(アウトバウンド)、日本への患者誘導(インバウンド)を促進する一般社団法人メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)の北野選也理事と山田紀子理事は、講演「日本再興戦略を踏まえ本格稼働段階に入った新生MEJの具体的事業展開と新たなプロジェクト~医療機材・医療技術と共に健康の輸出入ビッグ事業~」を行った。2回連載の1回目は、北野氏による(1)現在のMEJ、(2)具体的な事業の例(インバウンド、アウトバウンド)の講演内容を紹介する。

◇   ◇   ◇

◆立ち遅れた日本医療の海外展開と患者誘導
 北野氏によると、MEJ誕生の背景として、世界の医療産業は、2001~10年の平均成長率が8.7%で推移し、10年の市場規模は約520兆円(うち医療サービス約430兆円、医薬品70兆円、医療機器約20兆円)、12年は600兆円と予測され、医療産業は、アジアを中心になおも市場規模が急速に拡大する様相を呈しており、世界が最も注目する巨大な成長産業である。ちなみに日本の国民医療費は10年が37兆円(医療機器市場2兆円)、12年が約40兆円。
 これに対し、日本の医療のプレゼンス(存在感)においては、多くの新興国で日本の車や家電は知られていても、医療は全くと言っていいほど知られておらず、モンゴルでは日本よりタイの医療レベルが進んでいると思われている。日本の国立がん研究センターや国立国際医療研究センターのセミナーを諸外国で行うと、その進んだ医療技術や病室管理の手法に驚きをもって聞き入っていたという。
 拡大する世界の医療市場において、すでに進んでいる他国の医療展開(アウトバウンド)の状況を見る。病院丸ごと輸出型(クリーブランド、ジョンズホプキンスなど)では、病院経営を行い、看板料・指導料を徴収し、難しい患者は自国に搬送して治療するパターンや、留学生活用型(アメリカのGE、ドイツのシーメンスなど)、ファイナンス支援(GEキャピタル)といった形態での展開がある。さらに、政官民一体型として、韓国や中国がアフリカなどで大使自らがセールスに出向いて、病院の整備運営を進めている。中国は、職員すべてを中国人で固め、雇用が生まれないことから地元国の反感を生んでいる。また、過去に日本のODAで実現して地元国に提供した医療施設において韓国、中国がサポートしているケースもあるという。海外での日本の医療展開は、すべてにおいて遅れをとっている。
 また、自国の医療で満足できずに海外に渡航する患者数とその規模を見ると、アジア諸国のインバウンド数は、タイを筆頭にシンガポール、急成長のインド、マレーシア、韓国が主なところで、04年は400億米ドル(約4兆円)、06年が600億米ドル、12年には1000億米ドルと目されている。タイでは、数年前までは日本人がトップで、その実情は日本企業など現地駐在員や家族が大半を占めていたほか、一部美容整形を目的に渡航するケースもあるという。
 医療ツーリストの渡航目的は、最先端の医療技術が39.6%、より良い品質の医療が31.7%を占め、自国の医療制度への不信により他国に渡航するという理由が70%以上に上り、一方で低コストだからという理由は8.9%にとどまっている。アジアの主要受け入れ機関では、さまざまなグローバルマーケティング活動を展開している。

◆MEJが最高水準の医療情報を発信し患者誘導
 日本の医療技術とサービスに目を向けると、がん治療など低侵襲、再生医療、個別化医療、チーム医療、高度な施設設備、丁寧な処置、繊細な技術、ホスピタリティ、納得の価格水準において、世界最高水準を誇っており、また、各種がん手術の5年生存率も米国をしのいでいる。
 こうしたなか、MEJは誕生し、カタログやWeb、ポスターをフル活用して、日本の医療の特徴や優位性、渡航情報、体験記などPR活動を開始した。日本の医療を紹介するWebサイト閲覧後(閲覧前)の希望者の率は、中国90.3%(65.0%)、ロシア89.8%(41.2%)、インドネシア94.2%(36.5%)、UAE91.9%(39.0%)と大きな効果が得られた。
 11年1月から13年9月に寄せられた問い合わせ件数は83地域1746件に上る。主な地域件数は、中国654件、ロシア257件、バングラデシュ77件、カザフスタン54件、アメリカ37件、韓国36件など。症例分類別では、がん治療が389件、検査129件、循環器内科89件、脳神経外科81件、整形外科79年などとなっている。実際に受け入れた地域と患者数は30地域342人で、がん治療が163件、検査22件、循環器内科12件、整形外科10件となっている。
 インバウンド事業を通じて来日する患者は、治療と治療前の本格的な精密検査が目的であり、PET-CT検査など最先端診断と温泉旅行を組み合わせたメディカルツーリズムの関心は低いことが判明した。さらに分析を進めると、中国は自国の医療水準が低い、自国の医療に信頼がおけない、日本でしか受けられない治療があるといった理由があり、病院のランクによる医療の質、価格、混雑・アメニティー面での差が大きい。中国では日本のように完全看護ではなく、また、清拭、トイレや食事の介助など中国で行わないケアを日本の看護師が行うことに、中国人は感謝するという。このほか、中華圏の人々は、声が大きい、どこでも携帯電話を使用する、たんを吐くなどの行動をしがちであり、また、東南アジア、特にイスラム圏からの富裕層に見られがちな看護師への横柄な態度も、事前に話しておけばマナーやルールは守られるという。
 MEJが提供したサービスは、渡航前の(1)問い合わせ対応、(2)医療機関マッチング、(3)来日前支援、(4)来日中支援、(5)帰国後支援まで一連のフォローを行っている。生体肝移植を行った2歳女子(ドナーは母親)のケースでは、治療の適切さ、病院の応諾、前受け金請求~着金、医療滞在ビザ手配、通訳、航空機手配、宿泊施設確保、空港からの車手配、手術説明書などの英訳、手術などの説明と同意書取り付け、退院後の処方薬の買い方、帰国後の注意、再診・検査の説明、帰国後の現地医療機関へ提出する紹介状発行の依頼、病院への支払い、空港までの車手配まで行い、また、滞在中の宗教や食事など日常習慣へも配慮して準備した。
 さらに、外国人患者との紛争を未然に防ぐため、患者との事前コミュニケーション、書式類の整備、医療費未払いへの備え、医療コーディネーターの連携といったあらゆる対策を講じた。

◆3プロジェクトが進行中
 北野氏は、アウトバウンド事業においては、進行中の3つのプロジェクトを紹介した。
 日本UAE先端医療センター計画(案)(仮称)は、日本の放射線医学総合研究所、昭和大学医学部附属病院、神戸国際フロンティアメディカルセンター病院などの医療面での協力と、アブダビ政府などの協力、ファイナンスからの融資を受け、システムや機材を購入して、内視鏡治療センター、消化器治療センター、重粒子線治療センターの開設を目指している。安倍総理のトップセールスなどにより大きな進展を見せ、現在、3つの王立病院、保健庁などと協議が進んでいる。計画のセンターでは、人口数十万人のUAEの国民だけでなく、近隣国からの患者受け入れも目指す。
 日本・カタール再生医療・細胞シートセンター計画(仮称)(案)は、ノウハウ流出防止のため、日本で作成・培養した細胞シートをカタールに空輸したうえで、計画のセンターで、それを使用した手術などの医療サービスの提供を目指すもの。事業スキームは、事業主体にMEJ(国内取りまとめ、交渉・契約主体)、大阪大学・東京女子医大など(細胞シートの作成・培養、医療サービス・人材育成)、機器納入・保守(今後選定)、対価受け取り(のれん代、個別契約方式、両方式併用)とし、また、現地のHamad病院(診療、治療実施)、Qatar大学Biomedical学部の協力を得ながら、シート保管施設の開設、機器導入を進め、医療・運営スタッフの用意や医師免許付与などを行う。
 日本・カザフスタン高度がん診断センター計画(仮称)(案)は、MEJが企画・調整し、日本の医療機関(がん研究会など)とブランド供与、医療者トレーニング、講習会、画像・病理遠隔診断などで支援し、カザフスタン保健省、国立がん放射線研究所からの開設場所、スタッフ、認証・登録、プロジェクト発注を経て、診断センター、研修センターの運営を目指すとともに、MEJ現地支店を配置し、事業の継続的発展を図る。カザフスタン全土はもとより中央アジア全域から受け入れ、また、現地で治療不可能な患者は日本の医療機関へ送り出す考えである。日立などのメーカーでは、CTおよびMRI、超音波3台(すべてセンサー付)、内視鏡検査セット、臨床ラボ、マンモグラフィなどの機器の提供や講習を行う。
 北野氏は、「MEJは、各国が抱える課題やニーズを踏まえて、日本の医療サービス、医薬品、医療機器、病院運営システム、国際共同研究・治験、教育・人材育成、制度・システムを世界へ展開し、対価を得て、国内へ還元する方針である。事業は始まったばかりで、一歩一歩着実に進めていきたい。情報交換や知恵、支援をお寄せ下さい」と呼びかけた。
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