電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第41回

GaNパワーデバイスはパナ、富士通などで量産目前の状況


~特許出願件数は日本が圧倒的にトップ、韓国の存在感も増す~

2014/4/18

 「窒化ガリウム(GaN)電子デバイスの特許出願件数は日本が圧倒的にトップだ。2010年度の出願件数を見れば、世界1位が住友電気工業で531件であり、2位はパナソニックの262件だ。ベスト10の中に豊田合成、日立電線、東芝、古河電気工業、シャープがおり、なんと日本メーカーが8社も入っている」

 こう語るのは、かつて大手電機メーカーで活躍し、現在は特許庁の審査第4部で電子デバイスを担当する大嶋洋一氏である。大嶋氏はここ数年間の次世代半導体材料の特許情報を詳しく調べているが、GaNに関する出願件数が最も多いことに注目している。もちろん次世代パワー半導体の本命とされるSiCの出願件数も多く、またダイヤモンド基板に関する出願も増えている。しかし、何はともあれGaNに関する特許出願は群を抜いており、大嶋氏によれば、これはこの分野における日本の技術者の層の厚さを物語るというのだ。


 パワーデバイスのアプリケーション別特許出願傾向を見れば、SiCは自動車、インバーターが非常に多く、次世代アプリがはっきりしている。しかしGaNは、IT関連機器が全体の約30%を占めトップであるが、そのほかのアプリケーションがまだ明確でない。スマートグリッド、自動車、汎用インバーター、発電システムなどが挙げられているが、これが本命というものがない。

 最近になってパナソニックはGaN半導体を事業化し、富山での量産を決めた。この会社の場合は、エアコンなどに搭載することにより省電力を図ることが目的なのだ。一方、富士通セミコンダクタもGaNパワー半導体の生産をアナウンスしている。同社の場合は150V耐圧のパワーデバイスとGaN-HEMTを用いた高周波受信モジュールが当面の柱となる。注目ベンチャーとしては、Transphorm社があり、日本人のCEOが経営し、産業革新機構による投資を決めたことで注目されている。特許出願も堅実に増えており、製造は日本インターが担当する。

 GaNに特化した半導体製造プロセスの特許出願を見れば、やはり成膜がメーンであり、今後はエッチングに移行し、ブレークが期待されている。成膜については、従来より用いられてきたサファイヤ基板が堅調に伸びているが、最近ではSiC基板、Si基板を用いた例もかなり出てきている。エッチングはウエットとドライがあるが、特にドライが急増している。CMP関連は日本の独壇場であり、非常に強い。成膜は気相成長が多数を占めるが、液相成長も少しずつ出てきている。

 「GaN電子デバイスに関していえば日本の強さは際立つ。しかし、これはいつものことであるが、事業化段階でアクセルを踏むのにためらう。韓国、台湾は違う。一気にやるのだ。そして大量産時代の覇者となってしまう」(大嶋氏)

 大嶋氏によれば、パソコンの電源も革新性がなく、ここにGaNパワーデバイスを活用すれば高効率、小型化が進むと指摘する。また、パワーコンディショナーも注目アプリである。安川電機が発表したGaNデバイスを搭載したパワコンは、実に変換効率98.2%を実現している。太陽光、風力発電などのキーコンポーネントであるパワコンの市場拡大に比例し、GaNパワーデバイスも伸びていくと予想されるのだ。EVは少しくブームがトーンダウンしているが、ワイヤレス給電という分野でGaNデバイスの存在感が増している。つまりは、マイクロ波による電力伝送のところがGaNデバイスの出現で急速にブレークスルーしてきたのだ。

 「ところで、韓国や中国のGaNに関する特許出願件数も一定程度はあるので要注意だ。特にGaN系LEDを中心に今後の躍進の可能性が強まっている。また、各種基板材料のコストを比較すれば、SiCがcm²あたり1600円であるのに対し、GaNサファイヤであれば480円と安い。さらに圧倒的なコストダウン技術が出てくるだろう」(大嶋氏)

 さて、大嶋氏も指摘しているように、韓国メーカーの特許における存在感は確実に増してきている。2013年IEEEの半導体製造部門の特許競争力ランキングトップ10を見れば、1位は米国のデジタルオプテクスであるが、2位にサムスンが入っている。そしてまた、LEDメーカーの中で今や世界トップの特許競争力を持つのはソウル半導体なのだ。同社は売上高の15%をR&Dに投資し、1万件を超える照明、バックライト、UV、LED関連の特許を保有している。韓国企業といえばヒトマネが多いとの印象があるが、こうした事例を良く見てみれば、今や知財権の分野でも大躍進していることが良く分かるのだ。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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