電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第546回

LiB製造プロセスの主流となるか「ドライ電極」


低コスト化を実現する革新技術、テスラは「4680」で適用

2024/3/29

 昨今、リチウムイオン電池(LiB)業界で注目されている技術の1つが「ドライ電極」だ。従来のLiBセル電極製造工程では不可欠だった乾燥工程を不要にするもので、LiB製造におけるエネルギーコストを4~5割減少させ、かつ関連設備投資を抑制できるなど得られるメリットは大きい。テスラ、フォルクスワーゲン、CATL、LGエナジーソリューションといった大手メーカーがこぞって早期の実用化を目指している。

 従来のウエット電極によるLiBセル電極製造工程は、電極活物質(正極と負極)、溶剤、バインダー、導電助剤、水などを撹拌機で混合してスラリー状とする「攪拌工程」、これを塗工機によりシート状の集電体(アルミ箔や銅箔)上に塗工し、乾燥機で乾燥する「塗工・乾燥工程」、乾燥した集電体電極をプレス機で圧延する「プレス工程」に大別できる。最も重要となる攪拌工程は溶剤や水を混ぜることでドロドロのスラリー状とし、これにより集電体上に塗工しやすくするほか、電極活物質などを満遍なく分布させることで蓄電池としての性能を確保する。

 一方、乾燥工程は空気を加温して乾燥させる熱風乾燥により、不要となる溶剤や水を飛ばすが、その際に外気を取り入れながら常に炉内を高水準で加温させる必要がある。このような乾燥工程に占めるエネルギーコストはLiB製造全体の4~5割を占めると言われる。加えて、回収した溶剤は溶剤回収設備で排気処理するが、処理コストに年間数億円以上かかるケースも多い。

日本ゼオンのドライ電極技術で製造された集電体電極
日本ゼオンのドライ電極技術で
製造された集電体電極
 これに対し、ドライ電極は溶剤を不要とすることで乾燥工程や溶剤の回収・処理を省略した。これにより、先述のエネルギーコストや関連設備投資を抑制できるほか、工場の大部分を占める乾燥工程の省フットプリント化を実現する。また、製造工程の乾燥工程をなくすことで生産性向上も図れる。当然、CO2排出量も削減可能だ。

テスラ、「4680」で適用

 ドライ電極技術は、電極活物質、バインダー、導電助剤といった粉体だけを混合し、それを集電体上に形成するもので、その手法は各社によって異なる。

 テスラは2019年、電気二重層キャパシターを開発する米マクスウェルを買収し、ドライ電極技術を取得。2年後に同社を売却したが、ドライ電極技術は社内に残した。

 技術の詳細は不明だが、電極活物質などを集電体上に均等に振りまき、それらを加熱しながらローラーなどにより圧着させているもよう。

 テスラは、ドライ電極を新型円筒型LiBセル「4680」(直径46mm×長さ80mm)の製造ラインに適用する計画だ。4680は、同社のフリーモント工場(米カリフォルニア州)のパイロットラインで生産しており、小規模ながらもすでに同社製電気自動車「Model Y」に搭載されている。量産化に向けては36億ドルを投じてギガファクトリー1(米ネバダ州)を拡張し、年産100GWh(小型EV200万台分)の新工場を建設する計画を進めている。

 あわせて、製造パートナーのパナソニック エナジーは、和歌山工場(和歌山県紀の川市)内にパイロットラインを構築し、23年から一部生産を開始したもよう。なお、テスラによると、ドライ電極導入により製造コストを10~20%削減し、かつ生産性を大幅に向上できることを実証したという。一方で、歩留まり向上が課題とみられている。

 フォルクスワーゲンは、独印刷大手ケーニヒ&バウアー(独バイエルン州)とドライ電極の共同開発を進めており、24年末までに技術を確立し、26年以降に量産適用する考えだ。

 このドライ電極技術は、ケーニヒ&バウアーの3Dプリント技術を活用し、粉状の電極活物質などを直接的に集電体上にドライコートするもの。2社によると、ウエット電極技術と比較してエネルギー消費量を30%、床面積を15%それぞれ低減するとともに、ランニングコストを年間数億ユーロ削減できるという。一方で、薄くて均一な層を形成できるため、エネルギー密度や急速充電性能を向上できるとしている。

 日本ゼオンはドライ電極技術を確立し、商業化に向けためどをつけたと発表している。同社のドライ電極技術は、正極側および負極側両方に適用可能で、かつ従来のウエット電極技術以上のスループットを実現するという。また、有機フッ素化合物(PFAS)を含まない材料で構成されており、今後厳しくなると予想されるPFAS規制にも対応する。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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