電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第547回

SEMICON China2024レポート 現地記者が解説!


3日間通い詰めて、70人から生の声ヒアリング

2024/4/5

 中国・上海市で3月下旬、SEMICON Chinaが過去最大規模で開催された。企業出展は約1100社、来場者は約14万人。会場内で出会った、日本から出張で訪れたある業界関係者は「中国が半導体産業にかける熱気を体験できた」と話す。その他にも「今年(2024年)の中国の半導体工場投資に反動マイナスはない」、「装置や材料の国産化は想定以上に進んでいた」、「何よりも若い人が日本よりもずっと多い」などの声が多数聞かれた。百聞は一見にしかずとはこのことで、「日本で見聞きしていた知識をふっ飛ばすインパクトがあった」と同氏は語った。

 NAURA(北方華創科技)やAMEC(中微電子設備)など中国の大手装置メーカーが3号館に集結し、中国OSATとフォトレジメーカーは5号館を陣取り、2号館には注目を集める中国のSiCウエハー企業が出展した。

 出展企業は総勢1100社にもなり、3日間だけでは詳しく見て回るのは不可能だった。私は過去20回ほどSEMICON Chinaを見ているが、朝9時から夕方最後まで3日間ともずっと展示会場でヒアリングを続けていた(昼飯も抜きだった)のは今回が初めてだ。それくらい、訪問したい企業ブースが盛り沢山だった。

24年SEMICON ChinaのNAURAのブースに集まる参加者
24年SEMICON ChinaのNAURAの
ブースに集まる参加者
 そのSEMICON Chinaの盛況ぶりをわかりやすく伝えてくれるのが、中国最大手の装置メーカーのNAURAのブースだろう。装置の実機展示もなく、模型すらなく、パネル展示とビデオ放映だけだったのに、信じられない人数が集まっていた。SEMICON Japanでは見かけない異質の空間に見えた。

中国と日本の装置メーカーの差は?

 数年前(例えば新型コロナ以前)であれば、中国の装置メーカーに対する日本の業界関係者の認識は、「技術的にも事業規模でも日本企業にはだいぶ及ばない」というようなものだっただろう。筆者が22年1月に作成した装置メーカーのプロセス別、企業別のシェアという資料でも、中国企業のシェアは中国市場においてすら13%しかなかった。それが22年に20%台、23年に約30%に急拡大してきている。

 株式上場した中国の大手装置メーカー6社の半導体装置関連事業の売上高は、この3年間で4.3倍(合計333億元、約6604億円)に急拡大した。以前であれば、中国の半導体工場は補助金獲得目的で国産装置の試作機をクリーンルーム内に搬入しただけで使っていない場合が多かった。しかし、この2年間は使えるようにする前提で装置を導入し、装置のデバッグ(不具合を見つけて改善するプロセス)を繰り返している。その結果、実際に量産ラインに投入される国産装置が増加し、各社の販売も拡大した。

 さらに、中国装置メーカーは製品種を増やすことで販売額を急拡大させている。以前は中国の半導体装置メーカーの中で総合装置メーカー(プラズマエッチング装置、CVD装置、PVD装置、洗浄装置、縦型炉など)と言えるのはNAURAだけだった。そのNAURAは最近、ALD装置やエピ炉などさらにバリエーションを増やしている。

華海清科のCMP装置とイオン注入装置
華海清科のCMP装置とイオン注入装置
 会場でヒアリングして回っていると、単品種の装置を主体としていた他社たちも装置の種類を増やしていた。AMECは従来のプラズマエッチング装置とMOCVD装置に加えてエピ炉や排ガス除外装置を製品化し、LPCVD装置も開発している。キングセミ(芯源微電子設備)は塗布・現像装置をメーンとしていたが、洗浄装置もラインアップに加えた。CMP装置メーカーの華海清科(HHQK)は既存技術やビジネスを活かしてグラインダーや研磨工程後の洗浄装置を開発した以外にも、イオン注入装置も開発している。洗浄装置のACMリサーチ(盛微半導体)は、すでに23年に縦型炉をサンプル出荷しており、さらにALD装置も開発しようとしているという。

SiC、デバイスは難航/ウエハーは量産クリア

 中国のSiCデバイスの量産状況や工場投資計画についてヒアリングして回っていると、想像どおりの回答と私の理解を改定しなくてはいけない内容があった。

 まず想像どおりだったのは、2~3年前に華々しく脚光を浴びた中国のSiCデバイス工場の投資が息切れしていることだ。試作用ミニラインを導入した多くの6インチSiCデバイス工場は歩留まりが悪く、まだ技術不足の企業が多い。そのため、装置の追加導入には至っていない。

 順調に量産用装置の導入を始められるのは、サンアンオプト(三安光電、工場は湖南省長沙市)の24年4月からの導入案件くらいしかない。三安光電はSTマイクロと技術提携しており、中国の自動車向けにSiCデバイスの供給を拡大したいSTマイクロの技術支援があるので、中国のSiCデバイス他社よりも頭が1つ抜きん出ている。

 理解を改める必要があったのは、SiCウエハーの方だ。中国のSiCデバイス工場の生産は現在、6インチが主体だ。驚いたことに、中国製のSiCウエハーは6インチであれば、生産に十分利用できるレベルになっているのだという。米ウルフスピードはSiCウエハーとSiCデバイスの生産をすでに8インチにシフトしているが、余裕ができた6インチSiCウエハーを中国のSiCデバイス工場に販売しようとしたところ、23年後半からほとんどの中国企業が購入しなくなってしまったという。

 中国のSiCウエハー大手のSICC(天岳先進)とタンケブルー(天科合達)の2社、エピハウスのTYSiC(天域半導体)などの品質が高まり、SiCウエハーの海外依存状態を解消してしまった。

天域半導体の8インチSiCウエハー(写真左は6インチ)
天域半導体の8インチSiCウエハー
(写真左は6インチ)
 会場内には、SiCエピウエハーを展示する新たな企業も見かけた。また、SiC結晶の生産効率を2~3倍に向上させる技術開発の取り組み例についても情報を聞くことができた。シリコン(Si)半導体の場合、生産コストに占めるウエハーコストは7%しかないが、SiCはこれが70%もかかっている。SiCウエハー業界にひしめき合う中国企業の中からSiCウエハーの価格破壊者が登場することに期待したい。

国産フォトレジスト企業がズラリ

 中国では半導体の製造装置の国産化が先行し、材料の国産化は遅れている。中国はわりと結晶成長技術が得意で、SiCウエハー以上に、Siウエハーはもっと量産出荷できている。中国の大手メモリー2社(YMTCとCXMT)は、すでに使用しているウエハーの9割前後が国産ウエハーになっている。ジンセミ(新昇半導体)やエスウィン(奕斯偉材料技術)がデバイス製造に使用する300mmウエハーの量産技術を確立している。最近は、上海に工場を稼働したAST(超硅半導体)のウエハー品質が急速に向上し、品質的にはジンセミとエスウィンを超えていると話す人もいた。

 ウエハーに比べて開発が遅れている半導体製造に必須の重要材料といえば、フォトレジストだろう。中国のフォトレジストメーカーでは、ナタ(NATA、南大光電)が早期に国家プロジェクトで開発資金を得て、ArF露光用のフォトレジストを開発した。それから数年間ビジネス(商用出荷)になっていなかったが、YMTCにサンプル出荷していた製品の認定を24年に取得して年内販売を予定しているという。

 i線やKrF用のフォトレジストでは、すでに複数社がサンプル出荷、ならびに商用出荷している。ルイホン(瑞紅電子化学)やKEMPUR(科発微電子材料)、シンヤン(新陽半導体材料)、B&C(博康信息化学品)、シネーバ(欣奕華)、コーナーストーン(基石科技)などが開発を進めている。ルイホンは液晶パネル用のフォトレジストではJSRから技術ラインセンスを得て生産している。

新陽半導体材料の
フォトレジストに関するパネル展示
 これらの企業のほとんどはすでにフォトレジストの開発に必要なi線やKrF、ArFに対応した露光装置を購入して自社で保有している。半導体製造用フォトレジストでもレガシー領域のローエンド側から徐々に国産品への置き換えが始まろうとしている。

米パーツ企業のサイマーは出展

 米中半導体デカップリングが起きたこの3年間、米国政府の主導で半導体装置やパーツ、材料などの対中輸出規制が加速した。そんな時代背景も影響し、日本の装置大手がSEMICON Chinaに出展していたのとは対照的に米装置メーカーのブースはほぼ皆無といった状態だった。

米装置が出展取り止めの中であえて出展を選んだ米サイマー
米装置が出展取り止めの中であえて
出展を選んだ米サイマー
 露光装置最大手の蘭ASMLは昨年(23年)は出展していたが、今年(24年)は出展を取りやめた。そのかわり、昨年ASMLと共同出展していた光源大手の米サイマーは、今年も出展を継続した。サイマーは22年以前は出展しておらず、むしろ対中輸出規制が強化された23年から2年連続で出展している。「あえて出展することで、中国ビジネスから身を引くことはない姿勢をアピールする狙いがある」(サイマーのスタッフ)そうだ。

 訪中ビジネスビザの取得がしやすくなったため、日本の装置メーカーのブースには、昨年とはうって変わり日本人スタッフの数が大幅に増えていた。しかし、日本人駐在員の数は減少傾向が見受けられる。帰任者がいても後任者は来ない、現地スタッフに業務移管していく企業が多くなった。現地顧客企業との意思疎通を深めるには、やはり日本人では限界があるということなのだろう。

 SEMIによると、中国の半導体装置市場は27年まで世界最大シェアが続くという。地政学要因による対中輸出規制、買えるうちに海外装置を発注しまくる中国の半導体工場、急成長する中国の国産製造装置や材料メーカー、相変わらず増える半導体新工場計画(最近も広東省では深セン3兄弟の弟妹分の案件が登場した)など、日本から実態把握が困難なことばかりだ。今回のSEMICON Chinaに参加して、これらの疑問に対する自分なりの答えが見えてきた。約70人との情報交換とヒアリングに明け暮れた中国半導体の熱い3日間となったが、ノートと写真の整理には例年以上の時間が必要そうだ。


電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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