電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第58回

特許取得国別ランクで日本は堂々の1位、企業別国際出願数もパナソニックが世界一


~しかして、日本の電機産業はこの10年で半分の規模の13兆円に一気後退~

2014/8/15

 「黄金特許といわれる絶対的価値を持つ知財権を確立すれば、その特許使用料だけで数千億円の売り上げをあげている例もあるのだ。かつて、ICの基本特許として有名なキルビー特許を擁していた米国半導体メーカー、テキサス・インスツルメンツ社の知財権収入は膨大なものであった」
 筆者が親しくする特許庁のある審査官の語った言葉ではある。

 さて、特許取得総件数の国別ランキングで世界180カ国の頂点に立つ国はどこだろう。それは、胸を張ってよいことであるが、わが国ニッポンである。グローバルノートによる最新の統計データ配信によれば、2012年の特許取得総件数において日本は34万3484件の取得数となり、2位のアメリカ(同22万8918件)に大差をつけてトップに君臨している。一般的な日本国民は、これほどまでにわが国ニッポンが知財権の塊の国であることをあまり知らない。いつだってどこだって「世界で初」を狙って、コツコツと地味な研究開発を続けている人たちがいかに多いことか、このことは日本人であるならばもっと誇りを持ってよいのだ。

 ちなみに、今やGDPで日本を抜いて世界2位となり、大国となってきた中国は、特許取得総件数においても15万2102件となり、世界第3位につけてきた。またサムスン、LG、現代などを擁する韓国は、スマートフォンで世界を席巻するなどの活躍を見せているが、特許取得数においても11万2090件となり、世界4位のポジションを獲得している。これに続く第5位はEUにおけるモノづくり大国のドイツであり、特許取得件数は7万7125件である。


 一方、特許の国際出願件数の2012年国別ランキングを見れば、少し違う姿が浮かび上がってくる。これは世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発表しているものだが、国別トップは米国であり5万1207件、前年同様世界トップとなっている。2位につけているのは、わが国ニッポンであり、4万3660件である。3位はドイツで1万8855件であり、4位につけた中国は1万8627件で、ドイツとの差を縮めつつある。

 さらに、5位の韓国(1万1848件)もドイツを激しく追い上げつつある。全体の出願件数は19万4400件であり、前年比6.6%も伸びているが、実に米国と日本だけで出願件数全体の48.8%を占めている。特許庁関連の仕事をしている筆者の友人は、こうした状況に対し次のように分析する。

 「日本という国は、確かに特許取得を重要と考え、ひたすら血道を上げている。しかし、米国の場合は取得するよりも出願することの方が大切になる。特許取得までには時間がかかるため、何でもいいから出願して知財での優位性を固め、国際訴訟などに持ち込む、という戦略が米国流なのだ。日本の場合は、特許取得に見られるような多くの素晴らしい発明が、なかなか金に結びつかないところに最大の問題があるだろう。世界一の知財大国があまり知財で儲けられないばかりでなく、世界の標的にされ、ひたすら知財でケンカを売られ、訴訟に負けていく姿は情けなくて見ていられない」

 ところで、WIPO発表の企業別の特許国際出願数を見れば、日本の家電大手であるパナソニックが、2013年に3年ぶりに首位に返り咲いている。パナソニックの出願件数自体は2881件と前年より4%減ったが、昨年まで2年連続で1位であった中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)が4割減となり2位に後退したため順位が逆転した。ベスト3の特許国際出願件数は1位パナソニック2881件(日)、2位中興通訊(中)2309件、3位華為技術(中)2094件となっている。4位には米国のクアルコム、5位にはインテルがおり、世界最強の米国半導体企業はやはり特許でも強いことを良く表している。ちなみに日本企業では前年に続きシャープ(6位)、トヨタ自動車(8位)がベスト10位に入っている。


 「パナソニックが特許国際出願件数で再び首位に返り咲いたとしても、素直には喜べない。なぜなら、知財権で先行しても量産で負けるからだ。いくら素晴らしい特許を多く持っていても、日本の電機産業の一人負けを見れば、知財権を生かしたビジネスが成立しているとはとても思えない」

 証券業界の有名アナリストの語った言葉ではある。何しろ日本の電機産業は、10年前の26兆円の規模から一気に後退し、現状ではほぼ半分の13兆円しかないのだ。アベノミクス経済効果で多くの産業が復活をとげ、史上最高の売り上げ・収益を上げているなかで、いわば電機産業だけほぼ一人負けという状況になっているのだ。最も得意とするテレビ、白物、オーディオなどの分野でアジア勢に叩き潰され、情報機器のパソコン、タブレット、スマホにおいても全く主導権が取れない。
 知財を儲けに生かせない日本の電機産業の体質を何としても変えねばならない、と切に思う。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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