電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第72回

APEC北京で見えてきた中国のエコデバイス市場


太陽光発電、IGBT、エコカーに追い風

2014/11/21

青空のために手を組む米中両大国

 11月中旬に北京でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開催された。世界中のメディアは見事な北京の青空を映し出した。この季節には珍しい晴天を、北京市民は「APECブルー」と呼んで喜んだ。例年であれば、11月はPM2.5の濃度が高い日が続く。1m3あたり200μg(マイクログラム)以上という日もざらだ。今年の11月は4日の140μgを除いて、連日100μg以下。APEC閉幕日の12日にいたっては40μgと、屋外での運動にも全く問題のないコンディションだった。

遠くの景色が霞んで見える上海の街並み
遠くの景色が霞んで見える上海の街並み

 APECのPM2.5対策のために、中国政府は10月から「青空作戦」を展開してきた。APEC開催前から工事を停止、周辺の工場の生産稼働を制限、APEC期間中は政府機関や企業を休みとし、車はナンバーの数字が奇数か偶数かで走行を規制した。APEC期間中の交通規制は、北京だけでなく天津や河北省、山東省にまで及んだ。青空を手に入れることがいかに大変かよくわかったことだろう。

 APECで訪中した米オバマ大統領は習近平国家主席との首脳会談後、「中国政府が温室効果ガスの排出量を鈍化させ、削減に転じる約束をしたことを称賛する」と発表した。米国は二酸化炭素(CO2)排出量を20年に05年比17%削減の目標を掲げていたが、2025年までに05年比26~28%削減する新たな目標を表明した。中国は30年ごろをピークにCO2を減らし、全エネルギーに占める原子力や風力、太陽光発電など非化石燃料の比率を20%にする目標を打ち出した。

中国大手太陽電池メーカーのJAソーラー
中国大手太陽電池メーカーのJAソーラー
 中国と米国は石炭による火力発電比率が高い点で共通し、同じ悩みと課題を持っている。米国は大国化の道を歩み出した中国とは競争関係にあるが、環境問題では協業する姿勢がある。米国が得意とするシェールガスの採掘技術や薄膜太陽電池、新エネルギー車などの分野で両国の歩み寄りが進むことになるだろう。

世界最大のエコデバイス市場となる中国

 APEC開催にあわせ、中国の国家発展改革委員会(発改委)は11月4日、クリーンエネルギーの利用促進方針を示した。20年までに風力発電の設備容量を14年の100GWから200GWに引き上げる。また20年に水力発電を350GW、原子力発電を58GW、太陽光発電を100GWに拡大させる目標を掲げた。中国の太陽光発電市場は今後6年間、年平均10GW以上の導入が続く世界最大のマーケットとなることが約束されたわけだ。

 エコカーの導入計画では、中国政府は20年に500万台の普及目標を掲げている。今後は年平均90万台以上の導入が予測される。年間数万台の導入レベルという中国の現状は、今後数年でガラリと変わる。中国の環境部門の政府高官は、「大気汚染対策にはあと20年かかる」とコメントしている。PM2.5とCO2を削減して青空を手に入れるには、政府主導で業界が長期間にわたって大きなビジネスに育てていくことが必要になる。

 中国ではまもなく「中国IGBTイノベーション産業連盟」が発足しようとしている。200mmファブでIGBTを製造する南車時代電気(湖南省株洲市)を中心に、20以上の中国の企業と大学が中心メンバーとなる。パワー半導体のIC設計や電気自動車(EV)を製造するBYD(広東省深セン市)、エアコン大手のグリー(格力電器、広東省珠海市)などが参画予定だ。IGBTを使ったインバーター技術やスマート技術を使うことで、エネルギー効率は15~30%改善できるとし、中国の電機機器で約20%の省エネ化が推進されれば、三峡ダム約20カ所分の発電量を節減できるという試算もある。

IGBT製造の200mmファブを運営する南車時代電気
IGBT製造の200mmファブを運営する
南車時代電気
中国エコカー販売トップのBYD
中国エコカー販売トップのBYD
 クリーンエネルギー発電の太陽電池、省エネデバイスのIGBT、エコカーに使用されるリチウムイオン電池(LiB)などは今後、巨大市場に成長することが約束されている。該当企業は長期的な展望にたって、政府の資金支援を受けながら技術開発に取り組むことができる。今後もっとこれらの業界の動きが活発化していくだろう。

■空気清浄機もビジネスチャンス

 PM2.5が社会問題となってから、空気清浄機の販売が中国で急増している。中国の空気清浄機市場は約250万台(13年時点)。中国の世帯数の4億世帯からすると、普及率は1%にも満たない。日本の普及率は45%といわれているから、大きな隔たりがある。日本の10倍の人口の中国で普及率が1%以下とすると、数百倍の潜在市場があると理解することもできる。まさに大きなビジネスチャンスだ。

 中国の空気清浄機市場は17年に500万台へと拡大が予測され、空気清浄機の製造に新規参入する中国企業が急増している。中国最大のオンラインショッピングサイトの「天猫商城」では、200ブランド(約1000モデル)の空気清浄機が売られている。昨年の77ブランドから3倍も増加した。

空気清浄機の売り場が増えた上海のショッピングセンター
空気清浄機の売り場が増えた
上海のショッピングセンター
 この分野では、環境先進国である日本や欧州メーカーの市場シェアが高い。中国メーカー比率は10%もないだろう。中国で一番売れている空気清浄機は欧州メーカーのフィリップス(市場シェア33%)、以下はシャープ(20%)、パナソニック(14%)、ダイキン(6%)、サムスン(4%)となっている。合計すれば日本勢がトップを占めている。巨大市場の潜在性を考慮し、日本の空気清浄機メーカーは各社ともさらに中国市場の戦略強化を発表している。日本のエコデバイス、関連の部材メーカーにとっても、大気汚染の改善に取り組むことを公言した中国は有望な市場に違いない。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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