電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第73回

植物工場が本格化の兆し


食の安全、健康志向などが追い風

2014/11/28

 植物工場にひときわ注目が集まっている。専業メーカーをはじめLEDメーカー、化学メーカー、電機メーカーなど、参入企業は多種多様だ。その背景には、食の安全、健康志向、野菜価格の高騰、地産地消、雇用創出などがある。

 植物工場は、高度に栽培環境が制御された栽培施設だ。植物の周年・計画生産が可能なことから、施設園芸の究極の姿ともされている。日照の種類により、太陽光を利用する「太陽光利用型」、LEDや蛍光灯を使う「完全人工光型」に分類される。

 従来の土耕栽培と比較した場合の最大のメリットは安定生産だ。植物に最適な光波長、肥料を供給するとともに、きめ細かい湿温度管理により、生産量、形、味、栄養素でばらつきのない栽培が可能だ。

 設置場所も選ばない。工業団地、商店街の空き店舗など、さらには砂漠地帯、寒冷地などでも栽培できる。

 また、土を使わず、密閉された空間で栽培するため雑菌や害虫による被害が少なく、食の安全が担保される。野菜などは洗わずにそのまま食べることができるが、これを売りにしているケースも多い。

 栽培品目は、レタス、サンチュ、ルッコラ、春菊、セロリ、ミズナ、ターサイ、レッドオーク、レッドマスタード、エンダイブ、パプリカ、いちご、プチトマト、ほうれん草などだ。出荷先は、ホテル、レストラン、病院、学校などがメーンだ。一部のコンビニでも販売が開始されている。

 なお、農林水産省は植物工場を含む施設園芸の導入に積極的だ。2014年は次世代施設園芸導入加速化支援事業として約20億円を予算計上している。支援実施地区は北海道苫小牧市、宮城県石巻市、埼玉県久喜市、静岡県小山町、富山市、兵庫県加西市、高知県四万十町、大分県九重町、宮崎県国富町などだ。

 一方、植物工場の最大の課題が高い消費電力だ。土耕栽培では太陽光、土、肥料で育つ。それに対し、植物工場ではわざわざLEDや蛍光灯で光を照射し、かつ空調をはじめとした各種システムを稼働させるのだから、当然と言えば当然だ。しかも、原子力発電所がすべて停止した現在、電気料金は以前より高くなっている。

 加えて、販売先を確保できないなど「出口戦略」でつまずいているケースもある。植物工場事業に参入したのはいいものの、厳しいビジネス状況に直面している企業も多い。

海外への販売実績も

 以下参入企業の動向を示す。
 三菱化学(株)は植物工場事業として「Plant Plant」を提供する。Plant Plantは、栽培棚をはじめ、環境制御(空調、光、肥料、温湿度など)、オプション(水処理、太陽電池、栽培環境調査など)など植物工場全体の設備・サービス、さらにはコンサルティング、アフターサービスまでトータルソリューションで展開している。
 栽培品目は発芽後10~30日で収穫できるベビーリーフに特化している。ベビーリーフは栄養価が高く、サラダやピザといった数多くの料理に使われている。欧米では特に人気が高い。

三菱化学の植物工場システム
三菱化学の植物工場システム
 実績としては、08年のサンクトペテルブルク向けの第1号を皮切りに、国内外の複数のカスタマーに導入している。最近では(株)ローソンファーム秋田向けにシステム一式を導入した。同工場で収穫されるベビーリーフは、東北/関東地区のローソン各店舗にて販売されているほか、各店舗で販売するパスタやサラダの材料として使用されている。

 (株)キーストーンテクノロジーは、独自のLED照明を採用した植物工場システムの開発・製造・販売を行っている。特徴の1つであるLED照明においては、LED素子にAlGaInPの4元系を採用し、青、緑、赤の3色を植物の成長段階に応じて調光制御できる。調光制御により、土耕栽培よりも機能成分を多く含む野菜の生産が可能だ。コマツナを例に取ると、葉酸で約2倍、ポリフェノールで約1.7倍、ベータカロチンで約2.2倍という。

 また、自社で農産物を生産し、「ハイカラ野菜」として販売している。植物工場は同社と(株)アグリ王が運営する「新横浜LED菜園」だ。栽培している野菜は、リーフレタス、ルッコラ、セロリ、ミントなど20種類以上。出荷先は、横浜市を中心としたレストラン、ホテル、ワインバー、物産・観光プラザなどだ。

 富士通ホーム&オフィスサービス(株)は、完全人工光型植物工場(福島県会津若松市)で低カリウムのリーフレタスを生産している。半導体製造のクリーンルームを転用した植物工場で、腎臓疾患を持つ人でも生で食べられるカリウム含有率が低い野菜だ。産学連携により、大規模で高採算の工場を実証している。

半導体産業新聞 編集部 記者 東哲也

サイト内検索