電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第540回

XRデバイスで需要高まるOLEDoS


中国新興企業がシリコン12インチ工場を建設

2024/2/16

ソニーがXRHMDを発表

 毎年1月初旬に米ラスベガスで開催されるCESに合わせて、今年もさまざまなXR(VR、AR、MRの総称)デバイスが発表された。アップルの“空間コンピューター”Apple Vision Proに、高画質なシリコンベースの有機ELディスプレー(OLEDoS)を供給しているソニーが、4KのOLEDoSを採用し、ビデオシースルー機能を搭載したXRヘッドマウントディスプレー(HMD)を発表した。コンシューマー向けではなく、映画製作現場などで使われるプロ仕様となるようで、3Dオブジェクトの精密な操作に最適化したコントローラーを備えた、高度な空間コンテンツ制作に対応する「没入型空間コンテンツ制作システム」としており、2024年中の発売を予定している。

中国大手TV製造大手のTCLも新機種を発表

 中国の大手TVメーカーのTCLは、最新のARグラスのRayNeo X2 Light AR Glasses(Light)を発表。同社は、20年にフルカラーのマイクロLEDを搭載したARグラスのコンセプトを公開して以来、コンスタントにXRデバイスを発表している。今回の新モデルは23年に発表したRayNeo X2(X2)の後継機。とはいえ、X2は23年1~3月期での開発者プロジェクトを経て24年2月に発売される予定で、Lightの価格や発売時期などは未定だ。

 同社では、ARグラスのRayNeoシリーズや、NXTWEARシリーズを展開している。すでに23年1月に発売した「TCL NXTWEAR S」では、ソニー製のOLEDoS(1080P)を両眼に搭載し、4m先に130型大の高精細な映像を映したり、独自の音響フェーズキャンセルモードにより映画館のようなオーディオビジュアル体験ができる仕様になっている。RayNeoがマイクロLEDを採用して翻訳機能やAIによるアシストを搭載するなど実用的であるのに対し、RayNeoは映像や音を楽しむなど、よりエンターテイメント性が強いデバイスコンセプトとなっている。

中国ARグラスメーカーのXrealも新発表

OLEDoS搭載のXREAL Air 2 Ultra
OLEDoS搭載のXREAL Air 2 Ultra
 ARグラスの開発と販売を手がける中国のXreal(旧Nreal)では、開発者向けARグラス「XREAL Air 2 Ultra」を発表。手頃で充実した機能を搭載し、空間コンピューティングの未来を活性化させるとして、9万9000円(税込み)で1月8日から予約販売を開始し、3月に出荷予定だ。購入は一般消費者も可能。両眼でフルHDの高精細な視聴体験を提供し、ディスプレーは22年に発売したXREAL Airから継続してソニー製OLEDoSを採用している。解像度は1920×1080ピクセル(各眼)で、4メートル先に154インチ相当のバーチャル2Dスクリーンキャスティングが利用できるという。

XrealがAR市場を牽引

 またXrealは、23年末までに35万台のARグラスを出荷し、23年7~9月期にはAR市場で世界シェア51%を獲得した(IDC調べ)と発表した。これにより世界シェアが45%近くに達する見通しという。IDCによると、Xrealは23年7~9月期にシェア51%を獲得し、出荷台数は前年同期比で58%増加した。世界のAR市場は22~27年に年率平均89%で成長すると予測しているが、Xrealは21年9月~23年9月の2年間で320%の成長を達成している。
 同社は、ARグラスとして19年にNREAL Light、22年にXREAL Airを発売。Airは視野に最大330インチ相当の映像を表示することができ、コンシューマー用ARデバイス市場の形成に貢献してきた。また、23年10月に発売したXREAL Air 2およびAir 2 Proも、ソニー製のマイクロ有機ELディスプレーを搭載し、現在、米国、欧州、アジアで販売中だ。24年はより多くの国へ提供する予定だ。
 なおCES2024では、クアルコム、BMWグループ、Nio、Quintar、Forma Visionとのパートナー提携を発表した。クアルコムとは、AR、AI、およびワイヤレスデータ接続(5G)の分野で協力してきており、両社で目的別デバイスとフィットネスやスポーツなどの体験カテゴリー、人工知能統合のカテゴリーなどの分野でも協力できないかを模索していくという。BMWとは、自動車における次世代の最先端スマートAR体験を探求するためにパートナー企業となった。BMWは、ARグラスが将来の運転体験をどのように豊かにするかについて同展示会で発表していた。

SDCは独自OLEDoSを発表

 こういった、XRデバイスでOLEDoSの採用が拡大する動きなどを見て、サムスンディスプレー(SDC)や中国の新興企業などがOLEDoSへの投資を進めている。特に中国ではシリコン基板の12インチ化が進められており、これにより大量生産が可能になることで高精細なOLEDoSが安価になり、普及拡大へと進んでいきそうである。

 SDCは、CES2024においてRGB方式で形成したOLEDoSを発表。既存のOLEDoSよりも高精細なマイクロディスプレーを実現し、人気が高まるXRヘッドセット用途への展開を狙う。このSDCのOLEDoSは現在入手可能なものの中で、最高解像度のRGB OLEDoSになるという。大きさは1.03型で、4Kテレビに匹敵する3500ppiの画素密度を実現した。なお、23年にSDCが買収した、マイクロディスプレーなどの開発を手がける米eMaginも、同展示会でOLEDoS対応の軍用ヘルメットや暗視ゴーグルなどを展示した。

 現状のOLEDoSの構造は、有機EL発光層が白色で、RGB(赤緑青)はカラーフィルター(CF)などで表示するWOLED(Wはホワイト)方式しかない。スマートフォンなどの中小型サイズで使用される有機ELディスプレーは、蒸着でRGBの各色を塗り分ける方式が主流だ。画素形成にはFMM(ファインメタルマスク)を用いることから小型化や大型化が難しいとされ、テレビ用などの大型パネルでは、LGディスプレーが手がけるWOLED方式が主流となっている。


SDCがCES2024で発表したOLEDoS
SDCがCES2024で発表したOLEDoS
 これをSDCでは、スマホと同様に蒸着を用いたRGB方式で実現するとして、パイロットラインで研究開発を進めていた。CES2024で披露した開発品は、おそらくeMaginのdpd(ダイレクトパターニング)技術を応用しているとみられる。このdpd技術の詳細は明らかになっていないが、かつて同社では、有機EL発光材料を直接パターニングし、発光の約80%を吸収してしまうCFを不要にできる技術、と説明していた。これにより21年に1万ニットの輝度を達成ており、23年半ばにはフルカラーで2万8000ニットを達成するというロードマップを明らかにしていた。

中国で12インチ工場の建設の動き

 中国では、OLEDoSの新興企業の投資が盛り上がっており、12インチ工場の建設が始まっている。16年に設立された中国SIDTEKは、安徽省に8インチラインの工場を持ち、総額60億元を投じて12インチラインの新工場の建設を進めている。24年5月から量産稼働を開始する予定だ。新工場は延べ床面積約19万m²の規模で、月産の生産能力は6000枚となる。同社は中国のスマートグラス向けで多数の実績を持ち、高品位な4KOLEDoSを実現できることから業界上位に位置するという。茶谷産業(株)が日本市場の販売を担っており、スマートグラス向けやEVF向けで提案を進めている。

 同じく中国BCDTEKは、20年9月に広東省深セン市で設立され、総額65億元を投じて安徽省にOLEDoSの工業団地を整備する計画を進めている。淮南市に建設したK1工場は23年3月に稼働を開始し、フレキシブルOLEDモジュールを生産している。安徽省で建設中のK2工場は、23年12月に上棟式を執り行った。同工場は23年6月に着工し、25年上半期に完工して稼働開始する計画だ。12インチウエハー4000枚/月のOLEDoS生産拠点であり、投資額は15億元。量産稼働により、年間35億元の売り上げを生み出せるとしている。

 K2工場整備は2期に分けて行われ、生産工場、研究開発棟、総合棟、発電所などの主要建物を含む建築面積は9万4000m²、敷地面積は約80万m²を有し、主にAR/VR/MR分野で使用されるOLEDoSを生産していくという。同プロジェクトは、安徽省の23年重点プロジェクトリスト(クラスA)に認定されている。

 このほか、16年に上海市でチップ設計会社として設立されたルミコアも、このほどシリーズA投資ラウンドで1億ドルの資金調達を完了したと発表した。米国の主要ヘッドセットブランドから受注を得たためという。同社は19年にエンジェル投資家を確保してから2年ほどで8インチのOLEDoS生産ラインを構築しており、現在は0.2~1.32インチを展開している。同社によれば、現在4KOLEDoSディスプレーを開発中で、「当社の技術によりコストを業界平均の半分に抑えることができる」という。

 XRデバイスのなかでも、主にARグラスに搭載されるマイクロディスプレーとしてOLEDoSが台頭してきているが、現在液晶ディスプレーが主流のVRデバイスでもOLEDoSが活用できることから、その伸びしろはさらに大きいものと期待されている。ARグラスはまだ発展途上であり、普及期に入るには少し時間がかかりそうだが、高額な高精細ディスプレーが安価になれば、さまざまなグレードのARデバイスが市場展開され、多くの人が手にすることができるようになるだろう。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

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