電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第543回

調整長引くシリコンウエハー市場、回復は24年後半から


購入量と投入量にギャップ、顧客在庫は過去最高レベルに

2024/3/8

 シリコンウエハー市場の在庫調整が長引いている。最終製品および半導体デバイス市場の在庫調整は一巡したが、川上にあたるシリコンウエハー市場は依然として調整局面のなかにあり、特に2024年1~3月期が調整幅としてはもっとも厳しい状況になるとの見方が出ている。半導体メーカーの一部ではまだ減産措置(ウエハー投入枚数のカット)を続けているところもあり、本格的な市況回復は24年後半以降になりそうだ。

LTAが仇に

 SEMIによれば、直近の23年10~12月期のシリコンウエハー出荷面積は、前四半期比0.5%減の約30億平方インチ。出荷面積は22年7~9月期をピークに減少傾向が続いている(グラフ参照)。業界全体の口径別の動きとして、信越化学工業によれば300mmは同2%増/同12%減、200mmは同6%減/同28%減となった。200mmは民生・産業機器分野での需要減を背景に厳しい状況が続いており、最終需要の弱さから顧客企業のウエハー在庫の削減も思うように進んでいないという。


 最終製品やデバイス市場の調整が一巡しているのに対して、シリコンウエハー市場はいまがまさにボトムという状況。サプライチェーンの特性上、川下から順に調整が始まり、最後に川上に調整がくるため、最終製品やデバイス市場に比べて、やや時間軸が遅く調整の波が押し寄せている。

 ただ、調整が長引いているのは、顧客企業とシリコンウエハーメーカーで結ばれてきたLTAが要因となっている側面も否定できない。原則価格と数量を固定するため、市況悪化時で顧客が稼働を調整していても、何もしなければ在庫が積み上げられてしまう。LTAは好況時にはウエハーを確実に確保できて、機会損失を避けることができるというメリットがある反面、不況時には在庫が過度に積み上げられてしまうというデメリットが存在する。

 300mmはまだ投入量と購入量にギャップが生じている状況だとして、24年1~3月期は顧客側でどこまで在庫を削減するかが重要なポイントだと指摘する。現状、業界全体で顧客在庫は3カ月程度を抱えているとみており、適正水準とされる2カ月程度に削減する動きが予想される。ただ、300mmは数量ならびに価格が固定されたLTAが主流。価格は維持しながら、数量の繰り延べなどの調整に応じるかなど、「ウエハーサプライヤーがどこまで協力姿勢をみせられるか」(信越化学工業の半導体部材関係担当 轟正彦取締役専務執行役員)が4~6月期以降の需給バランスを左右すると見ている。

 ウエハー供給各社にとって、大きな誤算となっているのがメモリー分野の大幅な減産だ。足元ではメモリー価格が上昇し、市場好転との見方も出ているが、極端な減産措置による供給減で生み出されたものであるとの見方もできる(特にNAND)。メモリー各社が減産幅を緩めれば、再度価格が下落する可能性も十分にある。DRAMはスマートフォンなどモバイル分野での容量増やHBM(High Bandwidth Memory)など高付加価値領域の台頭により、見通しに明るさが出つつあるが、NANDはまだ厳しい状況が続く。

 今後の需要回復のタイミングは、口径サイズあるいは用途で異なりそうだ。300mmウエハーのうち、主にロジックで用いられるエピタキシャルウエハーは先端プロセス向けを中心に底堅い需要が続いているほか、顧客にとっても調整幅にばらつきがある。SUMCOはエピウエハー需要の回復時期を24年中ごろと予想する。ただ、成熟プロセス向けは在庫水準が依然として高く、需給改善には時間を要しそうだ。

 一方、メモリーを中心とするポリッシュドウエハーは、「過去最高のレベル、これ以上買えない」(SUMCO会長兼CEOの橋本眞幸氏)と言われるほど厳しい状況。大幅な減産を行っているため、顧客側での在庫消化が進んでいない。24年後半以降の需要回復が見込まれており、当面は低空飛行を続けることになりそうだ。

グリーンフィールド投資を実行

 足元では厳しい局面が続くが、中長期的にはシリコンウエハーの需要が伸びるのは確実で、供給各社はグリーンフィールド投資を含む増産投資を実行している。シリコンウエハーの増産は製造装置のリードタイムなどを考慮すると、意思決定から実際に生産能力として寄与するまで1.5年~2年かかると言われており、中長期需要を見越して設備投資を行う必要がある。

 信越化学は具体的な増産投資計画を明らかにしていないが、シリコンウエハーが含まれる電子材料事業の23年度9カ月累計(4~12月)設備投資額は前年同期比41%増の1528億円。このなかにはグリーンフィールド投資も含まれているものと見られる。グループ企業の三益半導体企業も、23年7月に高崎市に新工場を建設すると発表。竣工は25年7月を予定しており、信越化学向けにウエハーの研磨・加工能力を増強していく。

 SUMCOも佐賀県伊万里市の久原工場で、先端ロジック向けエピタキシャルウエハーの新棟立ち上げを進めているほか、長崎県大村市の生産子会社(SUMCO TECHXIV)でも建屋の増築投資を実施。台湾子会社のFST(Formosa SUMCO Technology)でもポリッシュドウエハー向けの新工場建設が進められている。

 また、同社は佐賀県伊万里市および佐賀県神埼郡吉野ヶ里町における300mmシリコンウエハーの設備投資計画が、経済産業省の「供給確保計画」にも認定されている。これにより、SUMCOは伊万里および吉野ヶ里の投資計画において、最大750億円の助成金が交付される予定。

 同社は23年6月に佐賀県神埼郡吉野ヶ里町内の佐賀県営産業用地の土地(約22万m²)を新工場建設地として、佐賀県に譲受申込書を提出しており、今回それに助成金が交付されることとなった。

 この支援は、加工工程を担う吉野ヶ里新工場のほか、結晶工程を担う佐賀県伊万里市の久原工場も対象となっている。経済産業省に提出された資料によれば、吉野ヶ里新工場は、29年10月の供給開始で月産10万枚を予定。久原工場も同じく29年10月の供給開始を予定し、月産20万枚相当を見込んでいる。これら投資計画の総投資額は2250億円を見込んでおり、その3分に1にあたる750億円が最大助成額として、SUMCOに交付される予定だ。


電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉 雅巳

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