電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第81回

2014年の中国デバイス業界ニュース TOP10


新時代の夜明け前 ~業界再編と技術開発、グローバル化

2015/1/30

上海支局長が選ぶ「中国デバイス業界ニュース TOP10」

 2014年のエレクトロニクス業界を牽引したのは、誰が何と言おうと「スマートフォン(スマホ)」の世界的な普及拡大だっただろう。その生産と消費の中心地である「中国」は、今まで以上にエレクトロニクスやデバイス業界の注目を集めた。その中国で2014年に起きたデバイス業界のTOP10ニュースを集計した。


■第1位 中国IC産業ファンド発足
SMICは28nmの試生産中(IC China展でのSMICブースにて撮影)
SMICは28nmの試生産中
(IC China展でのSMICブースにて撮影)
 中国政府は14年9月、IC産業専門の金融ファンド運営会社を設立した。ファンドの運用総額は1200億元(約2.3兆円)とよく言われているが、実は具体的な発表はまだない。ただし、中央とは別に、地方政府もこれに準じたファンドを設立し始めている。これらを合算すると数兆円規模に発展するものと予測される。融資対象はIC設計やチップ製造(前工程)、組立・検査(後工程)、製造装置、部材メーカーなど。最重要の融資先はチップ製造と明言された。15年以降、IC産業ファンドの資金を利用した設備投資や海外企業の買収が活発化し、中国のIC産業は世界との技術格差を解消するペースを速めていく。

■第2位 中国スマホの大躍進
ファーウェイは世界出荷3位にランク
ファーウェイは世界出荷3位にランク
 14年の世界のスマホ市場は約25%成長となった。しかし、スマホが普及した先進国市場は微増にとどまり、中国を筆頭とする新興国が市場の成長を牽引した。中国のスマホ市場は4億台、中国ブランドの生産は5億台弱に達したもようだ。その中でも、スマホベンチャーのシャオミーは6000万台を超える急成長で、中国のメジャー企業に躍進した。シャオミーは14年、インドネシアやインド市場への進出、スマホと連動したスマートテレビや空気清浄機の販売、スマート家電やヘルスケア家電メーカーへの出資、スマホ用ICの内製化など矢継ぎ早に事業を展開している。

■第3位 中国OSATの海外企業買収
 中国OSAT(半導体組立検査受託会社)のJCET(長電科技)はSTATSチップパック(シンガポール)を7.8億米ドル(約146億円)で買収しようと交渉している。また、天水華天科技は14年12月、米フリップチップ・インターナショナル(FCI)を4060万米ドル(約47.5億円)で買収した。中国政府は先端ICの国産化のため、中国の大手OSATに資金支援してチップサイズパッケージ(CSP)やウエハーレベルパッケージ(WLP)、Si貫通電極形成(TSV)などのプロセス開発を加速しようとしている。

■第4位 SMICとBOEオルドスの量産の遅れ
 SMICは北京の300mmファブ(B2)に新規装置を導入し、28nmプロセスのスマホ用ICを開発、14年12月の生産開始を目指した。14年中期に米クアルコムの技術支援を受けたが、顧客企業の量産認定がとれず、14年末時点ではまだ試生産の状態が続いた。上海のAMOLEDメーカーのエバーディスプレイ(和輝光電)は14年9月、4.5G工場で5.6型(FHD、394ppi)AMOLEDパネルを開発。15年2月から中国スマホメーカーや台湾HTCなど向けに量産を始めるもようだ。その一方で、オルドスの5.5G工場でAMOLEDパネルを開発しているBOEは、量産開始の時期が未定。中国メーカーの先端デバイス製造は、装置を購入してもすぐには量産できない「産みの苦しみ」を味わった。

■第5位 太陽電池業界の再編劇
14年の中国の太陽光発電市場は当初予想を下回る結果になった
14年の中国の太陽光発電市場は
当初予想を下回る結果になった
 14年の中国太陽電池(PV)業界は、「過剰設備」や「欧州市場の縮小」、「欧米政府の反ダンピング制裁」など厳しい一年となった。中国の国内市場が10GW規模に成長したため、中国の大手メーカーはフル稼働で対応し、大型の設備投資を再開する企業も登場した。しかし、順風光電によるサンテック買収、GCLによるチャオリソーラーの買収、ジンコによるトッポイントPVの買収、TWソーラーによるLDKのモジュール工場買収などのように業界再編が劇的に加速した。ポリシリコン(多結晶シリコン材料)、インゴット、ウエハー、セル、モジュールのどの分野でも、メジャーでなければ生き残れない時代に様変わりした。

■第6位 4G(LTE)通信スタート
14年後半に中国でLTEサービスが本格化
14年後半に中国でLTEサービスが本格化
 中国は13年末から4G(LTE)通信サービスを開始した。14年は4G対応スマホの買い替え需要が市場の起爆剤になると、年初から期待が高まった。しかし、買い替えが本格化したのは年後半からだったため、14年前半は一時的にデバイス在庫がだぶつく事態となった。15年の中国4Gスマホ市場は3.3億台と予測され、日米など先進国と同様の普及水準に達する見通しだ。4G通信の基地局は14年末、中国の主要都市のほぼすべてがカバーされる全国300都市にまで広がった。4Gスマホの買い替えは、14年よりもむしろ15年の方が活発化するといえる。

■第7位 中国ファブレスの28nm製品投入
 中国のICチップ製造(前工程)は、世界のトップクラスと比べて2世代遅れのままキャッチアップできないで苦戦している。しかし、IC設計は1世代遅れまで挽回した。中国スマホ最大手で通信基地局設備でも世界トップクラスであるファーウェイ(華為技術)のグループ傘下企業、IC設計のハイシリコン(海思半導体)は14年6月、オクタコア(8コア)でLTE通信に対応したアプリケーションプロセッサー(AP)の「Kirin(麒麟)920」(28nm、クロック周波数は2GHz)を発表した。アクションズ・セミコンダクター(炬力集成電路設計)は14年10月、タブレット端末など向けに28nmプロセスを採用したAPを発表、15年初めにUMCが量産を始める。中国ファブレスも続々と28nm製品を市場に投入し始めた。

■第8位 中国IGBTサプライチェーン化
中国の高速鉄道(中国版新幹線)は内陸都市にまで運行している
中国の高速鉄道(中国版新幹線)は
内陸都市にまで運行している
 14年6月、IGBTの生産を始めた南車時代電気(CSR)を中心に、電気自動車(EV)製造のBYDやエアコン大手のグリー(格力電器)など20以上の企業や研究機関が「中国IGBT産業連盟」を発足させた。中国のIGBT製造は今のところ、鉄道車両向けではなく、工業用のアーク溶接機や家庭用IHクッキングヒーター(電磁調理器)向けが中心である。15年初めに南車時代電気の親会社で鉄道車両製造大手の中国南車集団は、競合の中国北車集団との合併を発表した。政府主導の大型国有企業の合併により、新興国向けの高速鉄道や地下鉄の車両販売を強化する。中国のIGBTメーカーがいつの時点で移動車両用のIGBTを製造し始めるか注目だ。

■第9位 三安光電のMOCVD装置100台導入
 LED業界は最大手を中心にMOCVD装置の過剰設備が解消した。また、2インチから4インチへのサファイア基板の大口径化が一般的になり、これに伴う設備更新が進んだ。最大手のサンアンオプト(三安光電)は14年9月からMOCVD装置50台の導入を開始。12月はさらに50台の追加導入を始め、計100台のMOCVD装置を導入した。これに伴い、厦門(アモイ)市火炬高新技術産業開発区から6億元近い補助金を受給したもようだ。その一方で、中国政府は地方債務バブルの抑止や過剰設備による産業停滞、国際貿易上のトラブル解消などの理由で、地方政府に対してMOCVD補助金の給付を中止するよう求める方針だ。

■第10位 エコカー補助金の本格化、EV&LiB工場が拡大
中国でエコカーのトップセールスとなったBYDのPHV「秦」
中国でエコカーのトップセールスとなった
BYDのPHV「秦」
 14年の中国におけるEVとプラグイン式ハイブリッド車(PHV)の市場は5.6万台で、世界2位に浮上した。エコカー補助金の運用が本格化したことで、前年の3倍以上に急拡大した。中央政府が規定する補助金と地方政府の補助金を合わせると、エコカー補助金は最高で10.8万元(約202万円)、最低でも6.3万元(約118万円)が支給される。エコカー最大手のBYDは14年1~11月期、1.3万台のEVとPHVを販売した。主力PHVの「秦」は中国で最も売れているエコカーとなった。BYDは14年末、深センにエコカー用LiB工場を稼働させた。中国政府は15年、エコカーの累計販売台数を50万台にする目標を掲げている。

 14年は「中国スマホの大躍進」と「中国政府のIC産業ファンドの発足」が目玉ニュースとなった。中国は単なるセット機器の組立工場から、中国ブランドが海外でも売られる時代に様変わりした。中国政府のIC産業ファンドの発足により、中国のデバイス業界はまさに「新時代の夜明け前」に位置することになった。15年はさらに業界再編と技術開発が加速し、20年ごろにはグローバルプレーヤーの仲間入りする企業が誕生しているかもしれない。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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