電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第144回

さらなる微細化進める韓国半導体


2016/4/28

 中国勢の台頭で緊張ムードに包まれている韓国半導体業界。中国政府は、2014年に「国家半導体産業の発展推進要綱」を打ち出し、1200億元(約2兆500億円)規模のファンドを設立した。
 韓国政府は、16年に産業コア技術開発事業の一環として、半導体装置向け部品・材料の国産化率アップを推し進める。半導体コア部品・材料技術を研究開発することによって、次世代市場を先取りし、国産化率を引き上げるという戦略だ。

中国の脅威を技術開発で乗り越えろ

 韓国の全輸出額の10%強を占める半導体。中国勢の台頭は韓国を焦らせている。中国向けの半導体輸出が減少すると、韓国経済に大きな打撃を与えるに違いないと分析されているためだ。16年1~3月の韓国輸出累計をみると、半導体が断トツで139億ドルを記録し、自動車(100億ドル)を大きく突き放している。

 半導体産業育成に対する中国政府の意志は強い。中国は年間2300億ドルに達する半導体を海外から輸入している。13年には石油を追い越して中国最大規模の輸入品目となった。中国としては「半導体立国」を成し遂げることが最優先の政策課題であるわけだ。

 メモリー半導体ビジネスは、「マネー戦争」と言われるほど莫大な投資が必要である。サムスン電子とSKハイニックスは毎年、半導体ラインに対する維持・補修だけで5兆ウォン(約4854億円)強の資金を費やしている。最新鋭ラインを1つ建設するためには、10兆ウォン(約9708億円)強が必要だ。しかし、中国政府が莫大な資金力で中国メーカーをバックアップすれば、状況は変わってくる。中国が目指す半導体産業育成策では、当面の目標は半導体の輸入規模を減らすところにあるため、韓国メーカーを一層焦らせている。

 このような状況を克服するには、ひたすら「技術開発」に尽きると、韓国の半導体専門家は指摘している。
 最先端技術を最も効率的に提供するために、韓国半導体メーカーは常に努力を重ねている。いくら優れた技術であっても、市場に供給できる適正な価格を形成しないと、その技術は理論に終わってしまう。韓国政府は、技術競争力と価格競争力すべてを備えるためには、半導体企業だけではない、半導体産業のエコシステム全体の協力が求められていると認識している。半導体の設計から素材や装置、後工程に至るまで、半導体全産業に対する革新が急務となっている。

サムスンは18nm DRAM量産へ

 サムスン電子は16年4月、メモリー技術の「魔の壁」といわれた10nm台のDRAM時代を切り開いた。同社が量産に突入した18nm DRAMは、20nm製品に比べて速度が30%速く、消費電力は10~20%少ない。また、ウエハー1枚から1000個のチップが取れる。

 サムスン電子はファンドリー業界でもTSMC(台湾)に先行している。その理由は「14nm FinFET」技術で先行して量産体制に入ったことにある。また、同社の非メモリー部門は、アップルとクアルコムのモバイル向けアプリケーション・プロセッサー(AP)の受託生産を大量に確保するなど、大手半導体メーカーにアピールし、競争力を高めた結果であろう。

 DRAM市場の減速にもかかわらず、同社は業界トップを堅持し、15年通年の半導体部門営業利益率は43%となり、改めてその強さを見せつけた。また、15年9月、ノートブックPCの速度を従来に比べて2倍速くできるSSDの新製品を公開し、韓国や米国など世界50カ国に販売している。ノートブックPCに搭載される「SSD 950PRO」は、既存のHDDより速度が20倍も速い。
 また、同社は、3D-NANDの早期事業化によって、付加価値の高いSSDと大容量メモリーカードの価格下落が影響しない体制作りを急ぐ。

サムスン電子が誇るV NAND SSD製品
サムスン電子が誇るV NAND SSD製品
 同社のNANDビジネスの場合、14年に1Xnm製品を生産するなど、微細プロセスの比率を順次高めてきた。16年の主力製品はサムスン電子が主導する36段の3D-NANDであろう。SSDなど高品質なNANDを必要とする製品向けを中心に積層技術を普及させ、16年末には3D工程がNAND市場の20%程度を占める見通しだ。同社は、これからも次世代大容量V-NAND SSDを適時に出荷し、革新的なコンピューティング環境作りを目指す。

SKは微細化に投資を集中

SKハイニックスの最先端半導体ライン(韓国利川)の内部
SKハイニックスの最先端半導体ライン
(韓国利川)の内部
 メモリー半導体大手のSKハイニックスは、16年の設備投資規模について、前年を上回る6兆ウォン(約5825億円)強を投じる。半導体市況が不透明感を増すなか、同社の投資額の大半は3D-NANDに集中させ、DRAM向けは減額する可能性が高い。具体的な投資先として、メモリー半導体業界最高水準の2Znmや1Xnm DRAM、3D-NANDの開発と量産に集中する計画だ。

 同社は12年に、多くの半導体メーカーが不況で新規投資を躊躇するなか、むしろ設備投資を増やす戦略で好調を維持した経緯がある。14年から15年10~12月期までの8四半期連続で営業利益1兆ウォン(約971億円)を達成したのは、その投資があったからである。

 しかし、16年のメモリー半導体市況は、全般的には茨の道が予想されている。PCに加えてスマホ市場の成長鈍化が顕在化することから、同社が得意とするDRAMとNANDの価格が予想より早く落ちているためだ。
 打開策として同社は今後、堅実に増加しているモバイルDRAM需要に適期対応しつつ、プレミアム製品のDDR4とLPDDR4製品に対する割合を継続的に増やしていく戦略だ。

 同社のDRAMプロセスは、15年下期から20nm工程を導入。同年上期までは25nmを主力に採用したが、次第に20nm工程の安定化と量産に向けてスピードアップし、18nmで先行するサムスン電子を追う。現状でモバイルDRAMの構成比は全社売上高の35%程度だが、サーバーとモバイル市場を中心にDDR4を先行して採用し、16年半ばごろにはDRAM製品のうち、DDR4の構成比を全体の50%まで拡大する。

 また、同社のNANDの売り上げ構成比は15年末時点で全体の22%を占めており、大半の製品には16nmプロセスを適用し、今後14nm工程への開発に邁進する。

 このように韓国半導体メーカーは、巨大な資金力を武器に猛追する中国勢に対して、技術開発を通じた微細化で迎え撃つ戦略だ。18nm DRAMや3D-NANDなどの新しいプロセスと製品を矢継ぎ早に展開し、「半導体強国」という威信を守っていく考えである。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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