電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第147回

ロボット企業が持つ電子デバイスへの要望


日系ロボットの中身は多国籍化?

2016/5/20

 ロボットメーカーに取材をした際に、ロボット用の電子デバイス製品に関する要望を毎回聞いている。そのなかで問題点や課題、共通性が見つかればと思っているのだが、これがなかなか難しい。工場で使用される産業用ロボットと、家庭や店舗で使用されるサービスロボットの企業では、使用している電子デバイスの種類がかなり異なり、要望もまるで違う。同じ種類のロボットを手がける企業同士であっても異なることが多く、正直、「これだ!」といえる共通の要望や問題点などはあまりない印象だ。そういった状況ではあるが、本稿ではロボットメーカーが電子デバイス業界に対して持つ要望を、個人的な意見も交えて記してみたいと思う。

最大の課題、ディスコン

 ディスコンとは、中断、中止、廃止といった意味を持つ英単語「discontinued」を短縮した用語で、工業製品の製造・販売終了(本稿では電子デバイス製品の供給・サポートの打ち切り)などを意味する。冒頭でなかなか共通性がないと述べたが、これはロボットメーカーに電子デバイス製品への要望を聞いた際にほぼ100%出てくる項目である。

ロボット市場拡大には電子デバイスの対応力強化が不可欠
ロボット市場拡大には電子デバイスの
対応力強化が不可欠
 ロボット製品は一般的に10~15年使用される。長いものでは20年以上というケースも珍しくない。そのため定期的なメンテナンスが不可欠で、電子デバイス製品の安定確保も重要な要素になる。しかし近年、商品のライフサイクルが短いスマートフォン市場の拡大により、電子デバイス製品のディスコンも早まる傾向にあり、この対応策にロボットメーカーは頭を悩ませている。

 電子デバイス製品の在庫を多く持つといった対策を基本に、別の電子部品で同じ機能を再現するノウハウを構築している企業もあれば、下取りした製品から製造中止となった部品を回収することで対応する企業もある。ただ、いずれも根本的な解決には至っていない印象だ。

 そこで個人的に期待しているのがミニマルファブだ。0.5インチのシリコンウエハーを用い、幅30cmサイズのミニマル製造装置群を多数並べて生産する手法で、電子デバイスの多品種少量および変種変量生産ニーズに適応できる。16年1月には、このミニマルファブを活用するファンドリー会社の(株)ネイタスが設立され、注力分野の1つにロボット市場を挙げている。今後、ロボット×ミニマルファブという組み合わせが両市場の活性化につながるかもしれない。

SiCやGaNなどに期待

 次世代パワー半導体には期待している――、これは産業用ロボットメーカーで多く聞かれた意見である。製品開発において、ロボットの低消費電力化が大きなテーマとなっており、「SiCやGaNの採用を検討している」といった話はよく聞かれる。

 しかし、コストや技術的な部分でのハードルが高いようで、従来のシリコン系パワー半導体からの置き換えを考えたときに「SiCはシリコン系から置き換えやすいが、コストが課題」という意見があり、その一方で「GaNはSiCに比べコストは抑えられるが、技術的な置き換えが少しチャレンジングになる」といった話も聞かれた。総合するとSiCやGaNが産業用ロボットに本格的に採用されるのはまだ少し先で、自動車などでの採用が広がっていくなかでロボットでも採用が徐々に広がっていくと思われる。

モジュール化への対応力

 ある電子デバイスメーカーにロボットについて尋ねると「ロボット全体の市場は間違いなく拡大していくが、ロボットは分野が細分化され、それぞれ求められるものが違っており対応が難しい」という答えが返ってきた。確かにロボットといっても様々なものがあり、その種類は年々増え続けている。例えばサービスロボットだけでも、コミュニケーションロボット、介護用ロボット、掃除ロボット、建設現場用ロボットなど、形も用途もばらばらだ。

 この問題点をあるロボット工学の専門家に投げかけたところ「異なるように思えてもロボットはロボットであり、搭載する電子デバイスも単体でなく、モジュール化することで違う種類のロボットでも共通化できる」と言われた。そして「ロボット用モジュールとしてデファクトスタンダード(事実上の標準)をいち早く確立することが、ロボット向けの電子デバイスで勝つために必要なこと」とも語っていた。

 近年、一般電子部品メーカーが半導体技術を取り込み、モジュールに関する取り組みを強化しているが、この流れとロボットに求められる要素は見事に合致しており、今後の大きなポイントになるのではないかと思っている。

外資系メーカーの攻勢

 ロボットメーカーに「電子デバイスメーカーからアプローチはありますか」と聞いた際、外資系メーカーの名前が出てくる割合が圧倒的に多い。大手の産業用ロボットメーカーでは日系企業の名前も出てくるが、ロボットベンチャー企業から出てくる企業名の大半は外資系メーカーで、日系企業は「商社の方が少しずつ関心を持ち始めている」(サービスロボットメーカー担当者)といったレベルだ。

 日系電子デバイスメーカーからみると「ロボット向けの製品は高い性能が求められるが、出荷量が多くない」という意見があり、ベンチャー企業などではその数量はさらに少なくなる。実際、ある新興のサービスロボットメーカーに取材をした際に「当社のようなベンチャー企業では、大手の電子デバイスメーカーからサポートは受けられないですよ」と話していた。しかし、この新興メーカーにも外資系半導体メーカーからはアプローチがあったという。

 筆者が外資系電子デバイスメーカーに話を聞くと「数量が少なくても、100社集めればビジネスとして充分成立する規模になりますから」と返された。現段階では事業として利益は出なくても、日本のロボットメーカーが持つ可能性、関連企業数の増加、市場の拡大などを見据え、現時点から連携する必要性を強く感じているようだ。

 iPhoneに搭載されている部品の5~6割が日系企業のものと言われているが、今後、日本製ロボットが成長していった際に、搭載されている部品の大半が海外製といったことにならないかと今から少し心配している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

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