電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第162回

運転支援機能の進化と課題


2016/9/2

 この夏、自動操舵機能はついていないが、衝突回避や前車追跡、自動駐車機能付きの乗用車に乗せてもらう機会があった。自動運転車が国内外各地で数多く走る時代、それほど驚くことではないが、何せ13年以上前の自動車に乗り慣れている身としては、感心したり心配したりの連続であった。

 高速道路で時速100kmに巡航速度を設定すると、当然ながら、車線前方に走行する車がなければ100kmを維持する。この機能は、20年以上前から高級車には搭載されていたが、現在では100km以下で走行する前方の車に追いつく、あるいは100km以下の車が同一車線に進入してくると、一定の車間距離を保ちながら、その前方の車の加速、減速にピタッと合わせて追跡する。

オートクルーズはランプウェイで自動加速

 高速道路を降りようと、追い越し車線から走行車線、さらにランプウェイへと進んだところでは、本来であれば減速するところであるが、前方に車がいなくなったことで100kmのオートクルーズ機能が再作動し、いきなり加速し始めるため、ドライバーは慌ててブレーキペダルで減速することになる。ランプウェイの緩やかなカーブを減速しながら料金所へアプローチしていくのだなと通常なら思い描くが、いきなりエンジン回転が上がり、速度が増すのには驚くとともに、その機械の忠実さに苦笑してしまう。カーナビのデータと連動して、ランプウェイに入ったらオートクルーズが解除されればと思うし、技術的には可能であろうが、車検であったり、容易にはできない理由があるのかもしれない。

 ほとんどの車に前車追跡機能がついていて、先頭を走る車が高速道路の渋滞に気付くのが遅れ、渋滞で停車中の車に追突した場合、後続車の列が次々と多重追突を引き起こさないのかとの危惧も生じる。ここでも、ナビの渋滞情報とリンクさせれば、事前に自動減速が可能であろうし、すでに公道の走行試験ではなされていることであろう。

 斜め後ろを走る車は、ドライバー席のバックミラーの死角となるが、どの位置に車が近づいているか警報とともにミラー上で他車の位置が表示され、また車線認識などでうるさいほど警報がなり、一体いくつのセンサーが搭載されているのかと呆れてしまう。ドライバーは、アクセルペダルを踏み続けることから解放されるだけでも運転のストレスが相当減るというが、いったんは慣れた機能がついてない車に乗った時には意識の切り替えが重要となろう。

意識喪失などの既往症にこそ衝突防止機能を

 今年の春、大阪梅田と神戸三宮の両繁華街で自動車が暴走する事件があった。個々の事故原因は解明中であるが、少なくとも衝突防止などの機能が付いていれば、ドライバーの意識が途切れた場合でも重大事故は回避できたと関係者は口を揃える。既往症のあるドライバーには、そういった装備を義務付けることで、事故の発生を防ぎ、多くの悲しみを減らすことができるであろう。

自動運転車で初の死亡事故

 電気自動車メーカーのテスラは6月30日、5月7日に自動運転機能付きの自動車で初の死亡事故が発生したと発表した。事故原因の調査中であるが、左折しようとしていた大型トレーラーに直進走行する自動運転車が衝突したもので、トレーラーの背後の空が明るく光り、白色のトレーラーの側面を自動車もドライバーも認識しなかったという。前方の障害物をイメージセンサーのみに頼り、ミリ波レーダーなどが付いていなかったということなのだろうか。

 また、09年から53台の自動運転車で延べ224万kmの走行テストを続けてきたグーグルは、今年2月14日に発生した事故で初めて一部の原因がグーグル側にあることを認めた。それ以前に17件の事故が発生していたが、すべて相手の過失および自動運転車のドライバーの運転ミスによるもの。ところが、2月14日のバスとの衝突事故は、けが人はなかったものの、自動運転車のドライバーと車は「バスがこちらに気付いて衝突回避をとるはずだと」判断した結果の接触ということで、初めてグーグル側にも一部の原因があると認め、ソフトウエアの一部を改良したことを公表した。

難しい緊急回避システムとドライバー判断の優先順位

 (株)ZMPの取締役の西村明浩氏は、NHTSA(米国運輸省)に基づく自動運転のレベル分け――自動化なしのレベル0、特定機能の自動化(加速・操舵・制動のいずれかを自動車が行う)レベル1、複合機能の自動化(3つの操作のうち複数の操作を協調的に自動車が行う)レベル2、半自動運転(3つのすべてを自動車が行い、機能限界になった時にドライバーが対応する)レベル3、完全自動運転(3つの機能すべてを自動車が行い、ドライバーが全く関与しない状態)のレベル4について説明した。

ZMPのロボカー(ゴールド)
ZMPのロボカー(ゴールド)
 そのうえで、自動車メーカーが目指しているところはレベル3で、ZMPはレベル4の完全自動運転によるロボットタクシーの実現を目指している。西村氏によると、レベル3では、例えば自動車の緊急回避システムと、緊急事態に気付いたドライバーの判断では、どちらを優先させるか、どちらが安全なのかは実はとても難しく、レベル4ではこの問題がないという。

全自動運転車で交通弱者救済を

 そのうえで西村氏は、全自動運転によるロボットタクシーの実現により、過疎地での買い物、通院に不便な高齢者を助けたいとの考えで、国や自治体と実証試験に取り組む。

 自動運転車は、自動車メーカーをはじめ、関連メーカー、IT企業、運輸・ロジスティクス企業など様々な企業がそれぞれの目的をもって開発を進めている。また、実証試験とともにインフラも整備され、例えば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、羽田空港から選手村までの送迎に制限付きで自動運転車を走らせる目標である。現段階では、自動操舵などの各種機能はあくまでも人の運転を支援する機能であるが、ハードウエアとともにAIやソフトウエアが進化し、徐々に山積する課題をクリアし、事故が起こらない、高齢者や乳幼児など交通弱者が救われる、全自動運転車が走行する時代になればと願う。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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