電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第166回

有機ELだけじゃない。iPhoneの17年モデル


Mid Cellにサファイアコーティングも

2016/9/30

 アップルの新型スマートフォン(スマホ)「iPhone7 / 7Plus」が発売された。発売前から喧伝されていたとおり、前機種からのマイナーチェンジにとどまったという印象が強く、販売の出足は好調なようだが、思いのほか早く息切れするのではないかと心配する声も聞かれる。余談だが、個人的にはiPhone7Plusに買い替えたい。

10周年を迎える17年モデルは外観が大きく変わる?(写真はiPhone7 / 7Plusジェットブラック)
10周年を迎える17年モデルは
外観が大きく変わる?
(写真はiPhone7 / 7Plusジェットブラック)
 ただし、次の2017年モデルは、iPhone発売から10周年にあたるということもあり、大幅な刷新が図られるのではないかという、期待にも似た憶測が数多く飛び交っている。少し気が早いが、17年モデルで想定される変更点を期待も込めてまとめてみた。

有機ELを最上位モデルに採用

 最も大きな変更点と目されるのが、ディスプレーに有機ELを採用するのではないかという点だ。ディスプレー各社の有機EL量産体制を考慮すると、17年モデルに供給できるのは韓国サムスンディスプレー(SDC)のみ。SDCは、韓国牙山の6G「A3」ラインを継続的に増強しており、15年末時点で月間1.5万枚だったガラス投入能力を、17年初頭には12万枚まで増やすといわれている。

 サムスンも自社のスマホに有機ELを搭載するうえ、アップル以外のスマホメーカーにも有機ELを供給するため、当然アップルに供給できる量は限られる。このため、17年モデルは、発売10周年を記念してということもあるが、従来の4.7インチ、5.5インチに加えて「(仮称)iPhone Pro」として5.8インチモデルが加わる3モデル構成となり、有機ELはこの5.8インチモデルにのみ採用されるとの見方がある。ディスプレー業界関係者によると、12万枚=1.5万枚×8ラインのうち、アップル向けは3~4ライン分になるとの話もある。ちなみに、SDCは将来の旺盛な需要に備え、今のところ18万枚(1.5万枚×12ライン)まで有機ELの生産体制を増強する計画を持っているようだ。

 ただし、サムスンとアップルはスマホでライバル関係にあるし、1社単独供給ではiPhone全量をカバーできないため、18年には有機ELのサプライヤーに韓国LGディスプレー(LGD)が加わる。LGDは現在、坡州の4.5G工場に月間4万枚の生産能力を持つが、サムスンと同じ6Gラインが亀尾工場で立ち上がるのが17年上期。場合によっては17年モデルに供給できる可能性も残すが、立ち上げ当初は月間7500枚と投入能力が限られるため、LGDのサプライヤー入りは18年モデルからになると考えられる。

 また、iPhone向けがサムスンと同じパネルにならないようにするため、アップルはRGBの配列をサムスンのペンタイルと異なる配列にする可能性もある。その場合、蒸着に使用するメタルマスクだけはアップルが別に用意し、ディスプレーメーカーに支給するかたちになるかもしれない。
 さらに言うと、バックプレーンに用いるTFT基板は、現行のLTPS(低温ポリシリコン)TFTではなく、酸化物TFT(IGZO)とLTPSの長所を取り入れたLTPO(Low Temperature Polycrystalline Oxide)になる可能性があると指摘されている。

タッチ技術はMid Cellか
LGDは有機EL量産ラインの構築を急ぐ(写真は亀尾工場E5への搬入式)
LGDは有機EL量産ラインの構築を急ぐ
(写真は亀尾工場E5への搬入式)
 有機ELの採用に伴い、タッチ技術も大きく変わる。現行のiPhoneに搭載されているLTPS液晶にはインセル技術が採用されているが、現行の有機ELではオンセル技術が一般的であり、技術が異なるためだ。

 サムスンがスマホに搭載する有機ELと差別化するため、アップルが採用すると目されているタッチ技術が、日本写真印刷が開発しているMid Cellと呼ばれる技術だ。日本写真印刷のホームページによると、Mid Cellとは透明導電膜からなるセンサーを偏光板(位相差フィルム含む)上に形成することで、センサー基材自体を省略するという究極の薄型・軽量化技術だ。低反射で視認性にも優れているという。ただし、これをもし採用するなら、有機ELディスプレーとタッチパネルを別々に作って貼り合わせ、しかもタッチパネルの製造には偏光板メーカーとタッチパネルメーカーが絡むという、従来にない非常に複雑なサプライチェーンを経なくてはならない。

 もちろん、まだ採用が確定したわけではないが、そう受け取れる布石はある。日本写真印刷は現在、15~17年度を期間とした中期経営計画を進めており、その3カ年の全社設備投資額として更新投資を中心に180億円を計画していたが、16年度に入って計画値を260億円に増額した。この増額分の詳細は公表していないが、有機EL向け製品への対応という観測が流れている。

 加えて、日本写真印刷は、グループ会社であるナイテック工業の津工場をディバイス事業の生産拠点に転換する計画を進めている。同工場は産業資材事業の量産工場として10年4月に稼働し、ノートPCなどに使われるプラスチック成形品を生産していたが、需要の変化に伴い、ナイテック工業の甲賀工場(滋賀県甲賀市)に機能を集約。17年4~6月をめどにディバイス事業の生産拠点に転換していく予定という。これがMid Cellの実用化に備えたものではないかといわれている。


サファイアコーティングも有力

 かねて噂されてきたサファイアの採用が、サファイアコーティングというかたちで実現するのではないかと見る向きもある。アップルは、透明基板上に酸化アルミニウムなどの薄膜を形成し、これをレーザーアニールによって加熱・結晶化して、サファイアの薄膜にするという技術の特許を申請しているようだ。

 アップルは、以前からサファイアをiPhoneに搭載すると噂され、実際にカバーに化学強化ガラスではなくサファイアを採用することを真剣に検討した。サファイアは、ガラスに比べて誘電率に優れ、タッチセンサーの高感度化に利くためだ。また、ガラスよりも硬いため、スマホ表面の耐擦傷性が高まるという利点もある。

 実際に、アップルは13年11月にサファイア結晶製造装置メーカーの米GTアドバンストテクノロジーズ(GTAT)とサファイア供給契約を結び、アップルは太陽電池メーカーがアリゾナ州に保有していた工場を買い取り、これをGTATに貸与した。同時に、GTATに5.78億ドルを提供し、これをもとにGTATはこの工場に自社製の結晶成長炉「ASF」を導入してサファイアそのものの製造に参入し、アップルに供給する計画だった。

 当初はc軸成長させたサファイアでカバーの作製を試みたが、iPhone5発売前のボール落下試験で割れてしまった。その後、安価に製造できるようになったa軸成長させたサファイアでも採用を試み、GTATで量産化を進めるつもりだったが、最終的にうまくいかず、GTATは14年10月にチャプター11を申請するという結末になった。当時は、化学強化ガラスのコストが3ドル前後であるのに対し、サファイアカバーは20~30ドルと高価になることも採用を踏みとどまらせた要因になった。ちなみに、GTATは16年3月にチャプター11からの回復を宣言し、事業活動を再開している。

 iPhoneの17年モデルには、アルミニウム筐体ではなく、ガラス筐体を用いるのではないかという話がある。見た目を大きく刷新することで、買い替え意欲を促進する狙いがあるとみられるが、真偽のほどはともかく、透明な何かを外見に用いるつもりなら、サファイアコーティングの出番が増えていい。Mid Cellを採用した場合、サファイアの優れた誘電率がタッチ技術に寄与するのか分からないが、サファイアを採用したい理由の1つとして「将来的にアップルはGaNなどをベースにした化合物半導体太陽電池をスマホに組み込むつもり」という話も耳にしたことがある。

 すでにサファイアコーティングの事業化を進めているのが、サファイア結晶・ウエハー大手の米ルビコンテクノロジーだ。現在はLED用サファイアウエハーの需要低迷と価格下落で厳しい決算が続いているが、業績回復への一手としてサファイアコーティング技術「SapphirEX」の実用化を進めている。社長兼CEOのBill Weissman氏は「16年後半にはSapphirEXを量産へ移行できるとみており、すでに製品に関心を持ってもらっている」と述べている。

 ルビコンによると、SapphirEXはシリケートガラスやセラミック、プラスチックや金属など、あらゆる材料に皮膜でき、化学強化ガラスの3倍以上、石英ガラスの2倍以上の強度を実現できるという。膜厚は100nm~5μmで調整可能。これが次期iPhoneにつながる技術かは全くもって定かではないが、サファイアの採用はiPhoneの見た目が大きく変わったと思わせるのに一役買うのは間違いないだろう。


電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏

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