電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第168回

中国巨大メモリー工場誕生のカウントダウン


~紫光グループ、XMC、IC産業ファンドが武漢に集結~

2016/10/14

政府主導の3D-NAND&DRAMプロジェクト

 中国は政府主導でDRAMや3D-NANDなどのメモリーを国産化する国家プロジェクトを推進している。こうした中国の新たな動きを私が電子デバイス産業新聞の紙面で最初に報道したのは、約1年半前の2015年4月のことだった。当時、中国の液晶パネル製造大手のBOE(京東方光電、北京市)が3月末に開催された役員会で半導体製造への参入を役員会決議したことを報じた。この計画は、BOEが台湾のパワーチップと協業して安徽省合肥市にDRAM工場を建設するという構想だった。

 パワーチップは過去にエルピーダメモリと合弁で台湾にレックスチップを設立し、DRAMを生産していた。その後、サムスンやマイクロンとのDRAM競争に敗れ、DRAM製造から撤退して主力製品をLCDドライバーICに変更していた。当初はパワーチップが過去のDRAM保有技術を持って合肥に進出してくると思われたが、合肥のDRAMプロジェクトは中国の中央政府の認可が取れず、LCDドライバーICの製造に計画は変更された。

 しかし、合肥政府はDRAM工場の夢を捨て切れず、元エルピーダメモリの坂本社長が立ち上げたサイノキング(DRAM設計・製造の技術コンサル企業)の技術導入によるDRAM工場計画を推進した。このほかにも、中国の複数の都市でメモリー国産化プロジェクトが計画されるようになり、武漢市政府(湖北省)は中国最大のファンドリーのSMIC(上海市)を担ぎ、DRAM工場の立ち上げを計画した。紫光グループは深セン市で、厦門市政府(福建省)はUMCを引き込んで、巨大メモリー工場を建設しようと競い合った。

武漢・長江ストレージ誕生!

武漢メモリー工場プロジェクトの式典の様子(16年3月末開催)
武漢メモリー工場プロジェクトの式典の様子
(16年3月末開催)
 国家メモリー基地プロジェクトは16年夏、最終的に武漢市に白羽の矢が当たった。武漢政府は3月に1600億元(約2.4兆円)を投資する武漢メモリー基地プロジェクトの起動式典を開催。DRAMや3D-NANDの量産を想定し、20年に月産能力30万枚、30年に100万枚の巨大メモリー工場の建設計画をぶち上げた。7月末に紫光グループがこのプロジェクトに合流し、中央政府と武漢市政府のIC産業ファンドなどの豪華な顔ぶれで3D-NAND&DRAM製造の「長江ストレージ(長江存儲科技、武漢市)」を設立した。これが事実上、中国の国家メモリー基地プロジェクトの本命ということになり、この発表のあと、合肥のサイノキングなど他都市で計画されていたメモリー工場の建設計画は話題に上らなくなっていった。

XMCの技術開発は大差の遅れ

 サムスンは16年、48層の第3世代の3D-NAND(3bit/セルのMLCを採用、記憶容量256Gbit)の量産を拡大している。NANDの競合メーカーが第2世代の3D-NAND(記憶容量128Gbit、32層)でまごついている間に、サムスンは他社を頭一つ引き離して独走してしまった。

 一方、ロジックファンドリーのXMCはこれまで、スパンションからの技術導入でNORフラッシュを製造してきた。14年にスパンションからNANDの技術供与も受け、15年に9層の3D-NANDを試作開発に成功した。XMCは18年を目標に32層の3D-NANDの開発も進めている。

 しかし、NAND大手(サムスン、ハイニックス、東芝、インテルとマイクロン)との技術格差には歴然としている。18年にXMCが計画どおり32層製品の試作を完成させた時に、NAND大手は96層クラスに到達しているだろう。パソコンやモバイル端末での利用が多いNANDフラッシュの価格は、量産規模と歩留まりに直結するため、「XMCのように2~3周も遅れた技術では到底勝ち目がない」(半導体業界アナリスト)。

XMCの工場外観
XMCの工場外観
 ただし、その一方で、型落ちメモリーでもローエンドクラスのサーバーやデジタル家電などでの用途があり、市場規模の大きな中国ではそれなりの需要量が見込める」(別の半導体業界のアナリスト)という意見もある。市場競争での優位性が低いのは分かっていても、中国としてはできるところから始めていくより仕方がないのだ。

過剰な期待で、近視眼的な営業計画に要注意

 中国の半導体メーカーの現在の保有技術からすると、3D-NANDや先端DRAMの量産工場をすぐに立ち上げることはできない。いま中国で稼働している先端メモリー工場は、サムスン西安(陝西省、3D-NAND製造)とハイニックス無錫(江蘇省、DRAM製造)、インテル大連(遼寧省、3D-NAND製造)といった外資企業の3拠点に限られる。中国資本による先端メモリーの製造、つまり純国産化はまだ達成できていない。この大役を担うのが、8月末に設立された長江ストレージなのだ。

 しかし、長江ストレージの工場建設は10月初め時点でもまだ敷地の造成工事段階で、杭打ち工事も始まっていない。量産技術が確立していないうえに、海外のメモリー企業との技術提携もできていないので、「納得できる具体的な事業計画書がまだなく、中国政府はゴーサインを出せない」(中国の半導体業界関係者)。

 日本の製造装置や部材メーカー(特に日本の本社サイド)は、中国で巨大工場の計画が浮上し、数年内に売り上げに貢献してくれるスター格の案件になると熱い期待を寄せている。現地側で武漢政府やXMCの関係者、XMCに営業している装置・部材メーカーの営業担当者に話を聞いているが、実際はいつまでたっても具体的な数字での計画が聞こえてこない。装置や部材メーカーにとって営業ベースの話が動き出すには、まだ時間がかかるのだろう。勇み足で本案件に対峙していると、途中のどこかのタイミングで息切れしかねない。多くの企業は16年に何か始まると感じていたようだが、本気ベースの投資計画がまとまって大きな営業案件として動き出すのはまだ先のこと。18年あたりが勝負の年になるのではないだろうか?

中国政府は本気! NANDは情報インフラ設備の一部品

 中国政府は経済成長の牽引役となるインフラ投資で打つ手がなくなってきている。すでに中国全土に高速道路を開通させ、高速鉄道網も全体計画の3分の2くらいまできている様子だ。今後は情報ネットワーク網を全国に敷設することが、中国の巨大インフラ事業の根幹になる。そのためには全国規模でのデータセンターの建設が必要で、これらには国産サーバーを導入し、いずれ国産サーバーには政府の規定割合の国産部品を搭載することが義務づけられる。

中国の地方都市まで高速鉄道駅が普及した。次は情報インフラ投資の順番だ
中国の地方都市まで高速鉄道駅が普及した。
次は情報インフラ投資の順番だ
 最近は、サーバーの記憶媒体としてハードディスク(HD)から3D-NANDを使ったSSDに置き換えが始まっている。中国政府にとって3D-NANDは、情報ネットワーク設備に必要な1つの記憶部品という捉え方もできる。世界最大のデータサーバーを保有するようになる中国には、膨大な数の3D-NANDの需要が控えており、いずれは輸入に頼らないで済むようにしなければならない。中国政府にとって先端メモリー国産化の道のりはまだまだ険しいが、どうしても避けては通れない道なのだ。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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