電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第180回

実用化進むFC船


FCV、FCVバス・トラックに続き期待

2017/1/13

 家庭用燃料電池「エネファーム」、燃料電池車(FCV)の実用化に伴い期待の高まる水素社会。いち早く商用FCV「MIRAI」を投入したトヨタ自動車(株)は、燃料電池(FC)技術を「ゼロ・エミッション」実現に向けた本命と位置づけており、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京都を中心に100台以上のFCバスを導入する予定だ。それに先立ち、17年初めにはFCバスを日本で初めて販売する。さらに米カリフォルニア州において、これまで培ってきた技術を応用して大型トラック(セミトレーラー・トラック)へFCを搭載するフィジビリティースタディ(技術・事業化調査)も進めている。

 そうしたなか、車両と並んで期待を集めているのが、FCを船舶に組み込んだFC船だ。CO2、NOx、SOxなどの排出がゼロで、かつエンジン騒音がないことなどが大きな特徴だ。環境負荷の小さい次世代船舶として大いに注目されている。

 14年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、水素社会の実現に向けたロードマップを着実に実行すべきとしており、FC船の導入も今後取り組むべき方向性として明記している。

 FC船の開発では、環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」の「小型船舶の低炭素化(燃料電池)の技術開発・実証」として戸田建設(株)(東京都中央区)らの「長吉丸」が先行している。これは「海洋再生可能エネルギー実証フィールド」として選定された5県7海域(岩手県釜石市沖、新潟県粟島浦村沖、佐賀県唐津市加部島沖、長崎県五島市久賀島沖、長崎県五島市椛島沖、長崎県西海市江島・平島沖、沖縄県久米島町)のうち、椛島沖で進められているプロジェクトの1つ。戸田建設を筆頭に岩谷産業(株)、ヤマハ発動機(株)、学校法人 長崎総合科学大学など11者が参加し、15年8月から実証実験を開始している。燃料は椛島沖で実証事業を行っている浮体式洋上風力発電による電力で生成した水素を活用している。

 長吉丸は長さ12.5mで、固体高分子形燃料電池60kW(30kW×2基)、蓄電池132kW、モーター440kW(220kW×2基)、水素タンク450Lを搭載。航行速度は20ノット(時速約37km)。1充填あたりの航行時間は約2時間。

東京海洋大らが開発したFC船「らいちょうN」
東京海洋大らが開発したFC船「らいちょうN」
 また、16年10月からは国立大学法人 東京海洋大学(東京都港区)と野村不動産グループのNREG東芝不動産(株)(東京都港区)が開発した「らいちょうN」の実証実験が開始された。国土交通省 海事局が推進しているFC船の安全ガイドライン策定に向けて実施しているもので、東京オリンピック・パラリンピックの海上交通の補完的な交通手段として活用することが視野に入っている。

 らいちょうNは、長さ12.6m、重量9.1t。(株)東芝製の固体高分子形FC 7kW(3.5kW×2基)およびリチウムイオン電池145kWh(13.2kWh×11パック)を搭載する。満載時最大航行速度は11ノット(時速約20km)。試験水域は東京都江東区の東京海洋大学から半径10海里(約19km)以内。なお、FCは(株)東芝製を採用している。

 実証実験では実運用船の建造を視野に入れながら、海上での使用における課題抽出を行っていく。成果は国土交通省が策定を進めているFC船の安全ガイドラインに活用される予定だ。

 東京海洋大学は船舶の低炭素化を目指し、10年から「急速充電器対応型燃料電池船」の開発に取り組んできた。これまで3隻の「らいちょう」シリーズを建造している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

サイト内検索