電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第2回

日本の強みのサーミスター、グローバル市場で健闘


自動化推進が収益向上のカギを握る

2013/7/12

 我が国のエレクトロニクス産業の低迷が叫ばれて久しい。半導体、液晶、そして太陽電池までもが、グローバル企業の後塵を拝している。かつて、太陽電池は世界シェアの上位を独占するほど強かった。半導体と同じ轍を踏むなという警告も幾度となく囁かれた。が、多くの装置産業の末路を見るように、残念というか、当然というか、今では太陽電池生産量の上位は中国、台湾勢が独占している。業界関係者からは「技術の劣るアジア勢に対し、参入障壁を築けなかったのが敗因」といった負け惜しみの声も聞かれるが、今のご時世、技術力だけではグローバル競争に勝てないことぐらい、誰でも知っている。

 世界市場で競争力が低下するエレクトロニクス産業において、日本の優位性が残る分野もある。代表例がデジタルカメラだ。ニコン、キヤノンに代表される日の丸ブランドは、銀塩フィルムの時代から世界市場を席巻してきた。カメラ業界は、この十数年の間に、イメージセンサーと半導体メモリーの登場で大きなイノベーションが起こった。長年、フィルム業界の巨人として君臨してきた米コダック社は、その変化に対応できず、ついには市場から姿を消した。一方の雄、富士フイルムは、機能性材料に活路を見出し、新たな成長に向かって歩み始めている。

 イメージセンサーとフラッシュメモリーがカメラの中枢部品となった。つまり、業界のルールが大きく変わった。日本勢が総崩れになってもおかしくない状況である。実際、ミノルタはその後、カメラ事業から撤退している。しかし、業界全体で見れば、その優位性は変わっていない。もちろん、フラッシュメモリー、イメージセンサー、液晶パネル、そして光学レンズといったキーテクノロジー自体を日本が押さえていたという理由もあるだろう。そして何よりも、日本メーカー自身が率先してデジタル化を推進したという背景もあるだろう。ハイエンドの一眼レフは、今でも世界トップのキヤノン(実はキヤノンは2003年から10年連続でシェアトップを堅持している)と2位のニコンの2社で9割近くのシェアを占めている。さらに、ミラーレスカメラでも、ニコン、キヤノンに加えて、オリンパス、パナソニック、ソニー、ペンタックスリコーが上位を独占するなど、まさに日本勢の独壇場である。

日本の強みを守れるか(写真は大泉製作所の各種サーミスターセンサー)
日本の強みを守れるか
(写真は大泉製作所の
各種サーミスターセンサー)
 サーミスターも、グローバル競争の中で健闘している数少ないエレクトロニクス製品の1つである。サーミスターは、温度により抵抗値が変わる現象を利用して、温度を測定するセンサーとして広く利用されている。素子の材料としては、温度によって抵抗の値が変化する酸化物半導体材料が広く使われている。サーミスターには様々な種類があるが、一般的には、温度が上昇すると抵抗値が下がるNTCサーミスターセンサーが温度測定用として使われている。国内では、芝浦電子、大泉製作所、SEMITECといった専業メーカーが、各種サーミスターセンサーを製造・販売している。

 サーミスターは、小さな電子部品である。かと言って、10nmオーダーの最先端プロセスが必要なわけではない。8G、10Gといった大面積のパネルも不要だ。コンマ数%の変換効率を競っているわけでもない。さらに言うなら、市場規模も決して大きくない。そもそも単価自体が低いため、過度な価格競争もない。基本的には、薄利多売のビジネスである。主戦場は日本、中国を含むアジア地域だ。技術的な障壁もそれほど高くはないが、現実には、新規参入(中国のローカルメーカーを除いて)はほとんどない。今のところ、上記3社で世界シェア6~7割を占めていると推測される。また、決して大きくはない市場規模だが、サーミスターの需要は今後も増えると期待されている。電子機器の省エネや安全性を高めるには、厳密な温度管理が不可欠で、そのためには、これまで以上に多くのサーミスターを搭載する必要があるからだ。また、最近では1000℃近い高温領域に対応できるサーミスターも登場しており、高価な熱電対の代替として期待されている。

 生産については、各社いずれも日本にマザー工場を構え、中国をはじめとするアジア各国で最終製品の組立を行っている。芝浦電子は、福島、青森、岩手など東北地区にサーミスター素子およびセンサーの組立工場があるほか、海外では、タイと中国に組立工場がある。大泉製作所も、青森に素子およびセンサーの組立工場を持っており、中国(広東省東莞市)にもセンサーの組立工場がある。海外ではこれまで中国で集中生産してきたが、リスク分散の観点から、新たな生産拠点としてタイ・バンコクに新工場を建設中だ。SEMITECは、国内のマザー工場(千葉)で素子を製造し、中国、フィリピン、韓国にある各工場でサーミスターセンサーの組立を行っているが、バルクサーミスターについては全生産工程を中国に移管し、国内では独自技術である薄膜サーミスターの製造に特化している。

 販売比率もやはりアジアが中心となる。芝浦電子の場合、売上高の85%が日本で、残る15%がその他アジアとなっている。大泉製作所も全体売上高の7割弱を日本が占めている。SEMITECは日本の比率が3割程度にとどまり、中国を含めたその他アジアが7割となっている。分野別では、大泉製作所は半分以上が自動車向けで、SEMITECはOA機器が強い。芝浦電子は自動車、空調機器、家電、住宅設備、情報機器、産業機器など、幅広い分野をカバーしている。

 もっとも、サーミスタービジネスにも課題はある。サーミスターセンサーの生産は、今でも人間が必要な工程が多く残されている。従って、人件費の安い中国で最終組立を行う、というのがこれまでの各社の戦略だった。ところが近年では、中国の人件費が上昇しているため、戦略の見直しに迫られている。チャイナリスクを回避するため、中国以外に工場を建設するケース、または、生産ラインの自動化を推進するケースなど、対応は様々だ。自動化については、樹脂充填やはんだ付け、さらには、レーザーによる刻印などが自動化の対象となっている。こうした自動化を進めることで、生産性を向上させ、製造コストを低減していくことが、今後の成長のカギを握っている。

半導体産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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