電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第3回

2012年の国内医療機器市場は2.6兆円に拡大


薬事工業生産動態統計の年報・月報から

2013/7/19

 昨今、半導体・FPD製造装置メーカーが次世代の成長分野として医療機器市場に注目している。まるでジェットコースターのような受発注の波に振り回される電子デバイス業界と違い、医療機器は毎年緩やかに成長を遂げていく堅調な市場として、非常に魅力的に映る。そこで今回は、厚生労働省が取りまとめている薬事工業生産動態統計の年報および月報をもとに、日本の医療機器市場について考えてみたい。

 図1は、年報をベースに作成した、1997~2011年の国内医療機器市場の規模である。2003年までは2兆円弱をうろうろしていたが、2004年からは緩やかな右肩上がりで推移し、2011年は約2.4兆円まで拡大した。これは1997年実績比で23%増となる。近年は国内生産額も緩やかに伸びてはいるが、それを上回る伸びを示しているのが輸入額。2005年以降、毎年1兆円以上を安定して輸入している。
 この「輸入」の定義だが、あくまで「海外から輸入された製品」を対象にしているため、日本企業が海外で生産した製品も含まれていると思われる。だが、2011年ベースでみると、国内向けの生産額1.3兆円(輸出分を除く)に対し、輸入額は約1.1兆円にのぼっており、国内需要の実に44%を輸入に頼っている計算になる。


 薬事工業生産動態統計では、医療機器を以下の14項目に分類している(図2)。(1)処置用機器、(2)生体機能補助・代行機器、(3)治療用または手術用機器、(4)鋼製器具、(5)画像診断システム、(6)生体現象計測・監視システム、(7)医用検体検査装置、(8)画像診断用X線関連装置および用具、(9)歯科材料、(10)家庭用医療機器、(11)眼科用品および関連製品、(12)歯科用機器、(13)施設用機器、(14)衛生材料および衛生用品である。この14項目のうち、その用途によって(1)~(4)を治療系機器、(5)~(8)を診断系機器、(9)~(14)をその他と分けることができる。


 2011年の国内生産額1.8兆円(輸出分を含む)でもっとも大きな金額を占めているのが処置用機器だ。約4400億円の規模があるが、これは処置用機器に分類されているカテーテルでテルモなどの日本メーカーが大きなシェアを持っていることに由来する。一方で、2011年には2350億円を輸入しており、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど海外メーカーの製品も数多く国内市場で流通している。
 処置用機器に続き、年間1000億円以上を生産しているのが、画像診断システム(2680億円)、生体機能補助・代行機器(2660億円)、生体現象計測・監視システム(2280億円)、医用検体検査機器(1450億円)、歯科材料(1180億円)の5分野だ。特に歯科材料は年々生産額が伸びており、2005年の840億円から2011年には40%も伸びたことになる。生体現象計測・監視システムには、オリンパスや富士フイルムら日本メーカーが得意としている内視鏡が含まれているため、輸入額は2011年実績で570億円とそれほど大きな金額になっていないが、生体機能補助・代行機器は毎年3000億円以上を輸入している「輸入超過」分野である。これは、人工心臓やペースメーカーをほぼ100%輸入に頼っていることや、人工血管や人工関節、人工骨なども大幅な輸入超過であることが要因だ。

 では、2012年の医療機器市場はどうだったのか。2012年の年報は2013年8月中に公開される予定だが、一足早く、毎月アップされている月報を集計し、2012年の市場がどうだったのか検討してみた(図3)。ちなみに、年報にアップされる数値は、単に月報の数値の積み上げではないそうなので(年報作成時に調整値が入る)、年報の数値とは若干の違いが出ることを承知いただきたい。月報ベースで比較するため、2011年と2012年の月報を改めて集計して比較してみた。


 14項目の合計値は、生産額が2011年1.7兆円 → 2012年1.9兆円となり、前年比11.5%も伸びた。輸出額は、2011年4400億円 → 2012年4900億円で10.6%の増加。しかし、やはり一番伸びたのは輸入額で、2011年の1.06兆円から2012年は13.8%増の1.2兆円となった。つまるところ、2012年の国内医療機器市場は、2011年の2.3兆円(年報ベースでは2.4兆円)から2.6兆円へ、前年比で13.1%拡大したことになる。一方で、輸入比率もわずかではあるが高まり、45.8%となった。
 2012年に前年比で生産額がもっとも大きく伸びたのは、14項目のなかで施設用機器だった。実に前年比95%増の460億円と、ほぼ2倍の規模に拡大した。施設用機器に分類されるのは、手術台や診療台、医療用照明、滅菌器や消毒器などである。生産額の伸びが大きかった順に挙げると、画像診断システム19.4%増、生体機能補助・代行機器17.7%増、医用検体検査機器15.1%増、眼科用品および関連製品13.5%増となった。
 一方、輸入額が前年比で大きく伸びた分野を挙げると、生体現象計測・監視システム61.7%増、画像診断用X線関連装置および用具48.8%増、医用検体検査機器31.8%増、画像診断システム24.8%増、衛生材料および衛生用品19.4%増となり、診断系機器に該当する項目で輸入額の伸びが高かったことが分かった。輸入額が前年比でマイナスだったのは、歯科用機器 -3.4%と家庭用医療機器 -6.3%の2項目だけであった。

 日本メーカーはもともと診断系機器に強く、世界でそこそこのシェアを獲得できているとされる。抜群のシェアを持つ内視鏡などがあるほか、検査機器でも高い技術力を誇っている。だが一方で、治療系機器では欧米メーカーに大きく水をあけられているとされ、手術用ロボットの実用化などで技術力に格差も見受けられる。

 これまで電機業界に携わってきた企業は、「人の命に関わる分野」への参入・事業化にはきわめて消極的だ。これは、電気製品に求められる製造物責任法(PL法)から来ているという指摘がある。万が一、人命に関わる事故を起こせば、莫大な賠償金が伴うためだ。こうした意識の改革や、場合によっては何らかの法整備が医療産業への参入を促すきっかけの1つになるかもしれないが、一方で、日本初の技術であるiPS細胞によって再生医療が実用化されれば、細胞の培養や滅菌といった機器の需要はさらに高まる、といったビジネスチャンスも必ずある。多くを輸入に頼っている機器・製品の国産化から医療ビジネスに着手するという方法もあるだろう。
 半導体産業新聞では、こうした医療機器市場の分析や解析、取材をさらに進め、本紙を通じて情報発信していきたいと考えている。

半導体産業新聞 編集長 津村明宏

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