電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第4回

燃料電池自動車、15年から普及なるか


次世代自動車の本命、水素ステーション整備がカギ

2013/7/26

 家庭用燃料電池「エネファーム」は、2010年末までに国内で約1万台が出荷された。11年は東日本大震災後に一気に需要が拡大し、同年度だけで1万8067台となったほか、12年度は12月までで1万4806台が出荷された(いずれも補助金申込受理台数)。

 一方で、今後は燃料電池最大のマーケットと言われる燃料電池自動車(FCV)に期待がかかる。11年1月、経済産業省、自動車企業、エネルギー企業らは合同で会見し、15年からFCVの商用化を開始することを正式にアナウンス。15年を「普及期」として導入を開始し、商用水素ステーションを4大都市圏(首都圏、中京圏、関西圏、北部九州)で100カ所設置するとともに、25年にFCV200万台、商用水素ステーション1000カ所の設置を目標に掲げた。これは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として、FCCJ(燃料電池実用化推進協議会)、自動車企業、エネルギー企業、装置企業、水素分野の研究者、コンサルタントなどが連携して作成したロードマップに基づくもので、業界のコンセンサスと言える。

 「15年目標」は日本に限ったことではない。米国ではエネルギー省を中心にFCVや水素ステーションの実証実験を行っているが、早くから15年目標を掲げてきた。
 ドイツでは、燃料電池の研究開発や普及を促進する「水素・燃料電池技術革新国家プログラム(National Innovation Programme、プロジェクト期間07~16年)を進めているが、FCV普及と水素ステーション導入を進めるコンソーシアム「H2 Mobility」が15年の普及に向けて積極的に活動している。韓国はFCVの実証実験(フリートプログラム)を実施しているが、15年からを量産段階と位置づけている。このほか、中国は環境対応車の実証プロジェクト「10都市1000台計画」を発表し、EV、ハイブリッド自動車、FCVなどを積極的に導入していくことを明らかにしている。

 FCVは、水素と酸素の電気分解と逆の反応により電気を取り出し、モーターを駆動させるEVの一種だ。走行時のCO2排出、NOX(窒素酸化物)、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)などがゼロな点もEVと同じだが、航続距離は一回の水素充填で600km以上を達成するなど、ガソリン車並みの性能を実現する。また、充電時間はEVが急速充電モードでも30分程度はかかるのに対し、FCVの水素充填は5分以内で可能だ。

ホンダのFCX CLARITY
ホンダのFCX CLARITY
 こうしたFCVは、「次世代自動車の本命」として大いに期待されている。これまでの累計出荷台数は全世界で約300台、国内で約60台と見られる。また、FCバスは全世界で約120台、国内で約10台。国内のFCバスは、羽田空港~都内間、名古屋空港~名古屋市内間を走行するシャトルバスとして使われている。 
 自動車企業はトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、BMW、GM、ダイムラー、フォード・モーター、現代自動車、上海汽車など。それぞれで研究開発が進められているが、トヨタ-BMW、ホンダ-GM、日産-ダイムラー・フォードの3陣営の共同開発も強固だ。

 FCV最大の焦点である燃料については、高圧水素、水素吸蔵合金、メタノールなどが提案されてきたが、世界的に70MPaの高圧水素で落ち着き、FCV、水素ステーションは同仕様に基づいて開発が進められている。また、水素ステーションで水素を製造するオンサイト型と石油系企業がステーションに水素を搬送するオフサイト型があるが、オフサイト型が主流になると見られている。ちなみに国内の石油精製所で生成される水素はFCV500万台分に対応できるなど、すでに水素燃料は十分に供給できるという。

水素ステーションの100カ所到達なるか

 前述のように15年度で100カ所の水素ステーションを設置する目標が掲げられているが、到達できるかどうか微妙な状況となっている。まず、4大都市圏のうち福岡県と佐賀県を中心とする北部九州以外は具体的な計画を立てていない。北部九州は人口過密地域、郊外などを中心に、15カ所以上の水素ステーションの展開計画を掲げている。これに対し、残りの3地域は策定中だ。

 また、水素ステーションの設置には約2年かかるが、高圧ガス保安法、消防法などに関連する16項目(路上充填、セルフ充填など)の規制緩和も完全に終わっていない。もともと、12年度中に規制緩和を完了し、13年度から水素ステーションの建設を開始するというスケジュールだった。

 現在の国内における水素ステーション設置数は19カ所。このうち最初の16カ所はHYSUT(水素供給・利用技術研究組合)が運営する実証実験がメーンで、残りの3カ所(海老名中央水素ステーション、神の倉水素ステーション、とよたエコフルタウン水素ステーション)のみが商用に対応する。いずれも今年オープンした。
 海老名中央水素ステーションと神の倉水素ステーションは、ガソリン計量機と水素充填機を並列設置したガソリンスタンド一体型だ。とよたエコフルタウン水素ステーションは、水素圧縮機からFCVへ直接圧縮水素ガスを送り込む直充填方式を採用することで、3~5分で水素充填を可能とする。

 水素ステーションの設置コストも足かせとなっている。ロードマップでは現状の5億~10億円に対し、15年で4億~3億円、20年で2億~1.5億円とコストを徐々に削減していくとしているが、投資費用は小さくない。
 一方で、政府は13年度から水素ステーション設置に向けた補助金制度「水素供給設備整備事業費補助金」を開始し、水素ステーションの設置を積極的に後押ししている。具体的には、13年度は総額45億9000万円を予算として計上し、新たに19カ所が整備される見込みだ。補助額は導入費用の約1/2。14年度は100億円規模となる見通しだ。なお、北米、ドイツでも同様の補助金制度を策定している。

 FCV自体の車両価格も気になるところだ。これに関しては価格帯を公表している自動車企業はないが、500万円以下となる見込みだ。この価格に補助金が適用されるのは言うまでもない。

半導体産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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