電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第5回

中国政府の半導体産業育成ロードマップ


2014年に28nmの量産ラインを立ち上げへ

2013/8/2

 中国の半導体市場はこの約10年で約7倍の規模に拡大した。これに対して、半導体チップ製造は市場の伸びを上回り、約8倍に成長した。量的な拡大には目覚ましいものがある。

 この10年間に誕生した工場を振り返ると、300mmファブでは大連インテルや無錫SKハイニックス、北京SMIC、武漢XMC、上海ホワリーの工場が稼働した。今年はサムスンが陝西省西安市にNANDフラッシュ工場を立ち上げる。200mmファブでは、上海HH-NEC(ファブ2)や上海TSMC、無錫CSMC、成都TI(旧センション)が立ち上がった。今年9月にはCSR(中国南車集団)が湖南省株州市にIGBT工場の立ち上げを開始する。


中国のIC製造と市場の発展
中国のIC製造と市場の発展

世界の最先端は20~10nmへ

 中国ではこの10年で約10工場が誕生したのだから、毎年1つ工場が建設されていた勘定になる。日本では逆に多くの工場が閉鎖された。日本の半導体産業は成熟し、中国は発展途上といえるのだろう。中国のこの10年間の量の拡大は見事なものであったが、技術水準は世界の半導体トップメーカーになかなかキャッチアップできないで苦戦している。

 世界のトップを行く半導体メーカーの微細化水準は、量産レベルで20~10nm台の水準に入っている。NANDフラッシュメモリーは今年から来年にかけて、1Y(18~15nm)で量産が進行する。スマートフォンに使われるアプリケーションプロセッサー(AP)では、TSMCは11年末から28nmの量産を開始。13年末から15年半ばころまでは20nmでの量産を予定している。これと前後して16nmの量産にも入り、17年には10nmのデザインルールに突入するものとみられる。



【どうして微細化するのか?】
半導体の内部に多くのトランジスタを集積すればするほど、半導体の性能を向上させることができる。半導体回路の配線の幅を細くすれば、トランジスタの大きさ自体を小さくすることができ、1つのチップにたくさんのトランジスタを積み込むことができる。「回線幅の微細化=トランジスタの集積数の増加」という関係から、回線幅の微細化水準が半導体の性能を表す指標として使われている。



SMICの微細化は2年の遅れ

 それでは、中国の半導体製造の微細化水準はどうなっているのだろうか?
 DRAMを生産中の無錫SKハイニックスやNANDフラッシュを生産予定の西安サムスンは、韓国で量産確立した先端技術を大胆にも中国の工場に移植して量産している。これらのメモリー製品は、先端プロセスで大量生産してコストメリットを出せないと、ライバルメーカーに売り負けてしまう。だから、韓国の2社は技術の出し惜しみをせずに、勝負しに来ているのだ。

 海外から中国にやって来た韓国メーカーも含め、中国にある工場という意味でくくれば、世界最先端の半導体工場が中国にもあるともいえる。しかし、中国資本の半導体メーカーに限定すると、中国メーカーの技術水準は世界の最先端から2世代くらい技術が遅れているのが実態だろう。
 世界のトップファンドリーと競争を繰り広げている中国のトップ企業はSMIC(中芯国際集成電路製造)だ。SMICは上海の300mmファブ(Fab8)で28nmの技術を開発し、試作をしている。2014年初めに立ち上げる北京の300mmファブ(B2)に28nm対応の量産ラインを構築する。TSMCが28nmの量産を始めたのが11年末~12年初めのことだから、SMICはおよそ2年の遅れでTSMCを追いかけている。

SMICとTSMCの微細化ロードマップ ※一部推定
SMICとTSMCの微細化ロードマップ ※一部推定

中国政府の微細化目標

300mmファブの上海ホワリー(HLMC)の工場内の様子
300mmファブの上海ホワリー(HLMC)の
工場内の様子
 中国政府は、第12次5カ年計画期(2011~15年)に半導体市場を1.4倍に、半導体製造を2.3倍に成長させようとしている。市場の伸びよりも製造の力を伸ばそうというのだから、政府が国産化推進に力を入れてようとしていることがよくわかる。
 第12次5カ年計画の文書を読むと、2015年までに32nmの微細化で量産、28nmで開発、22nmでIC設計の技術を確立する目標値が定められている。これは、SMICの技術ロードマップとほぼ一致している。サムスンとSKハイニックスの中国メモリー工場はこの微細化を超える水準であるが、どうも中国政府が定める半導体育成計画のなかには、中国に進出してきた外資メーカーは対象としていないようだ。

液晶パネル、太陽電池などに技術応用

 半導体の技術は、IP(知的財産権)でガッチリと守られていて、容易にまねができないようになっている。しかも、ロジックファンドリーのように多品種を少量生産する場合は、中国の量産メリットも出しにくい。これらの事情が強く影響し、中国の半導体製造の技術キャッチアップがなかなか進まないと考えられる。今後の期待の星はSMICやホワリーなどの300mmファブの開発動向だ。

 その一方で、中国の半導体のデバイスや製造装置、部材の製造技術や人材は、液晶パネルや太陽電池、LEDなどの分野に応用されていった。液晶パネルではBOE、太陽電池ではインリー、LEDではサンアンオプトなどの大手メーカーが誕生し、中国のトップメーカーに成長している。10年近く前からインドやロシア、ブラジルにも先端半導体工場の投資計画があると囁かれてきたが、結局のところSMICクラスの工場はできなかった。米日韓台と比べると中国の半導体製造はまだ遅れているが、この10年で中国はかなりのキャッチアップを見せたといえる。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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