電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第6回

「コネクティッド・カー」が変えるクルマの世界


車両1台あたりの半導体搭載金額はさらに上昇へ

2013/8/9

 自動車業界では、燃料電池の開発を巡って国内外の自動車大手が相次いでアライアンスを組み、トヨタ&BMW、ホンダ&GM、日産&ダイムラー&フォードという3グループに分かれての開発競争が始まった、というニュースが大きな話題となっている。シェールガスブームの影響で、一時冷めていた燃料電池車(FCV)への関心に再び火がついたことが背景にあるが、自動車大手が本腰を入れ始めたことで、FCVの本格離陸がいよいよ視野に入ってきたと言える。

 しかし一方では、その足元で自動車に求められる役割が大きく変革しつつあることも見逃せない。とはいっても、電気自動車(EV)の蓄電池に貯めた電気を非常時に家庭で使う、いわゆる「V2H」(Vehicle to Home)のことではない。一言でいえば、クルマが単なる移動手段という顔だけでなく、ワイヤレスで常にネットとつながっている「コネクティッド・カー(接続された車)」という顔も持つようになるというものだ。言い換えればクルマがスマートフォン(スマホ)やタブレットと同じ、情報発信・受信拠点になるということだ。

本質はクルマならではの情報発信・受信

 インターネットはさらに進化し、将来はモノとサービスがインターネット化する「IoTS(Internet of things and services)」の時代が到来すると言われているが、このIoTSでは、エネルギーや移動手段、都市生活、産業などあらゆるものがインターネットでつながる。移動手段の1つであるクルマもその構成要素になるのだ。
 その場合、端末としてのクルマが果たす具体的な機能として、まずはドライブ時に目的地周辺の情報やガソリンスタンド・充電施設の位置・空き情報を収集するというものが真っ先に思い浮かぶだろう。しかし、それはクルマでなくても、スマホやタブレットでも十分できることであり、「コネクティッド・カー」が果たすべき本質はそこにはない。

 その本質とは、クルマならではの情報の発信・受信である。他のクルマや周辺施設などとネットでつながり、単に情報の受け手だけでなく発信元にもなる。これがいわゆる「C2X」(Car-to-X)であり、「コネクティッド・カー」への第一歩だ。それによって、これから走る道路の混雑状況、道路状況を把握するだけでなく、得られた情報を活かした効率的な運行計画の立案や、緊急時の警報発動による衝突事故などの防止、さらには災害時の救援物質運搬などにも役立てることができる。
 実際、自動車からの情報から得られた交通情報が災害時に役立ったという事例はすでに存在する。ホンダは、東日本大震災発生後に顧客のカーナビから得られた情報を元に被災地の道路状況をリアルタイムでマッピングし、それを顧客にフィードバックするサービスを行った。これが被災地での救援物資輸送に大いに役立ったという。

ADAS搭載で究極の「コネクティッド・カー」

 「コネクティッド・カー」実現には、半導体など電子デバイスが大きな役割を担うことは言うまでもないが、車載用半導体メーカーの間では、最先端のIT機器向けデバイスをいかに早く車載に展開させるかが大きな戦略課題となっている。これまで、IT機器向け最先端半導体を車載に水平展開するには1年程度の時間を要していたが、最近はその半分以下のタイムラグで展開させることが必要となっている。つまり、車載インフォテインメント用半導体は、もはや「型落ち」では対応できなくなっている。
 実際、TIはIT向け最先端デバイスを3~4カ月程度というタイムラグで車載機器に展開する方針を打ち出している。また、第4世代(4G)モバイル通信規格であるLTEを自動車にも採用しようという動きも出てきた。アルカテル・ルーセントは、LTE接続対応車をトヨタと共同開発しており、それ向けのデバイス開発をフリースケールが請け負っているという。

 さらに、「コネクティッド・カー」実現に向けた動きは、将来の搭載義務化が有力視されているADAS(先進運転者支援システム)にもつながる。ADASは、最先端IT技術を駆使して事故が発生する可能性を事前に検知し、事故防止に貢献するためのシステムであり、車間距離制御システム(ACC)システム、車線逸脱警報システム、車線維持支援システム、前方衝突警報(FCW)システムなどいくつかのシステムが含まれる。これらはミリ波レーダーや準ミリ波レーダー、赤外線レーダー、ECU、画像処理用マイコン、プロセッサーなどが必須となっており、複数のADASを搭載したクルマは、究極の「コネクティッド・カー」と言えるものになるだろう。

 ただ、コネクティッド・カーにはまだまだ課題もある。通信機会の増加により電磁波公害を増長させる懸念があるほか、セキュリティーの脆弱性の増加にもケアする必要がある。また、大衆車への普及拡大のためにはコストダウンが必要になることは言うまでもない。

「コネクティッド・カー」の経済効果

 さて「コネクティッド・カー」が半導体産業に与える経済効果はどうなるか。まず考えられるのが、クルマ1台あたりの半導体搭載金額の上昇である。米国の調査会社、ICインサイツによると、車両1台あたりの半導体搭載額は、11年の350ドルから12年には380ドルに上昇、以降も平均成長率11%で伸び続けて15年には495ドルに達すると予測している。また、半導体メーカーのNXPも、車両1台あたりの半導体平均搭載額が12年の323ドルから、15年には344ドルに達すると予測している。ICインサイツとNXPの予測には開きがあるが、いずれにしても半導体搭載金額が上がっていく見通しに変わりはない。
 また、先述のADAS用デバイスの市場規模については矢野経済研究所が予測しており、調査によると、12年の世界市場は982億円に達したという。そして12年から20年まで年平均成長率は19.4%で推移し、20年には4045億円に達すると予測している。

車両1台あたりの半導体搭載金額予測

半導体産業新聞 編集部 記者 甕秀樹

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