電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第7回

“四面楚歌”のサムスン スマホビジネス


オバマ政権がITCに拒否権行使

2013/8/16

 韓国サムスン電子の特許を侵害したとして、米アップルのスマートフォン(スマホ)製品の輸入禁止を勧告した国際貿易委員会(ITC)決定に拒否権を行使した米オバマ政権。これを受けた韓国政府が「遺憾の意」を表明し、米韓企業同士の特許紛争が政府間の駆け引きに飛び火する様相を見せている。事実上、死文化した拒否権が26年ぶりに蘇ることになったとして、韓国メディアは一斉に米国政府の「保護貿易主義」を強く非難している。今回の拒否権行使は、米韓における経済的波長とともに、アップルとサムスンとの今後の特許協商にも少なからぬ影響を及ぼす見通しだ。

特許協商で優位に立つアップル

サムスン電子の最新スマホ「Galaxy S4」
サムスン電子の最新スマホ「Galaxy S4」
 米貿易代表部(USTR)は8月3日(現地時間)、ITC委員長宛てに送った書簡で「貿易政策実務協議会と貿易政策検討グループなど、関連当局や当事者との協議を経た結果、ITCの輸入禁止決定を承認しないことにした」といい、「今回の決定は、米国経済の競争環境に与える影響と、米国消費者に及ぼす影響など、多方面の政策的考慮に対する検討内容をベースにした」と説明している。今回の拒否権行使でアップルは、iPhone4とiPad2など、中国で生産する製品を引き続き輸入できるようになった。とりわけ、依然として米国スマホ(普及型スマホ)市場で売れているiPhone4を継続的に輸入して販売することができる。

 アップル側は「このような重要事案で革新を支持したオバマ政府に拍手を送る。特許体制を濫用するのは間違ったことだ」とコメントした。サムスン側は「アップルが当社の特許を侵害したうえ、ライセンス協商に誠実に臨まなかったことを認めたITCの勧告に相反する結果について、非常に遺憾に思う」といい、控訴の構えを崩さない。
 オバマ大統領の拒否権行使によって、アップルとサムスンとの特許戦争は、現状としてはアップルが優位を保ったといえよう。拒否権行使の以前にも、アップルはクロスライセンスに積極的ではなかったことから、当分の間、アップルが強気に出る可能性が高くなった。

非メモリー事業は大打撃

 アップルとサムスンは過去2年余り、スマホの特許権を巻き込んだ訴訟合戦を世界中で繰り広げている。「スマホの市場シェア(グラフ)をサムスンに掌握されたアップルの焦りが、両社の特許戦争を引き起こした」(韓国メディア)ともいわれている。サムスンに圧力をかけるため、アップルはスマホに採用するアプリケーション・プロセッサー(AP)の生産をサムスン以外に発注しようとしている。なかば既成事実化している台湾TSMCへの次世代iPhoneのAP発注がそれだ。TSMCとアップルは向こう3年間のAP生産委託で契約を結んだとされている。

Apple/Samsungのスマホシェアの推移

 サムスンの2012年ファンドリー売上高のうち、約7割に相当する4兆1000億ウォン(約3628億円)程度がアップルとの取引分と推定される。アップルへの供給量がなくなると、サムスンの非メモリー事業は大打撃を受けざるを得ないわけだ。このような影響を受けたからか、ここにきて、サムスンの非メモリー事業が失速するという懸念が浮き彫りになっている。ライン稼働率の低下と営業利益の目減りが著しい。同社の非メモリーライン(12インチ)の稼働率は、「12年末の97%から現状は70%水準に急落した」(韓国半導体専門アナリスト)と指摘されている。

 両社が訴訟を開始した11年当時、アップルと争うサムスンは、どんな結果になっても損はしないという見方も存在していた。いわゆる「ノイズ・マーケティング」でサムスンのブランド価値はむしろ高まるという論理であった。しかし、近い将来、アップルが全面的に取引先を変える場合は、机上の空論に終わる公算が大きくなりそうだ。

9日のITC判定はアップルに軍配

 ITCの勧告どおりに輸入禁止措置が施行されれば、アップルの企業イメージに大きな打撃になると予想されていた。その間、アップルはサムスンを「コピーキャット(Copycat)」と非難してきたが、アップルも特許技術を無断使用したことが明らかになるためだ。拒否権行使でアップルの面子は、一応保たれた。だが、「米国政府のパワーを後ろ盾として、不公正競争を強いっているという非難は避けられない」(韓国IT専門アナリスト)。
 ITCは9日、サムスンがアップルの特許を侵害していたとして、主張していた4件のうち2件の特許侵害を認める判定を下した。サムスンはこの決定に対し、特許侵害を否定したうえで、特許侵害があったとしても製品の販売禁止は公共の利益にならないと主張した。

 9日の判定はアップルに軍配が上がったものの、サムスンが受ける直接的な被害は大きくない。輸入禁止の対象が旧型スマホ製品であるからだ。ただ、サムスンの企業イメージには大きなダメージが予想される。さらに、今後のアップルとの特許権協商にも悪影響を及ぼしかねない。アップルが特許料協商に積極的に出る理由づけがなくなるためだ。サムスンのスマホビジネスが「四面楚歌」になっていくゆえんである。

半導体産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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