電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第8回

ITは成熟化しても、半導体は伸び続け40兆円の巨大市場に


~環境、医療、自動車などにビッグアプリ~

2013/8/23

スマートフォン市場の寿命

 さしものアップルも成長神話が崩れてきており、パソコン各社は成長鈍化に頭を抱えている。唯一元気なのがサムスンであるが、スマートフォンの帝王になったとたんに大きな怯えを感じ始めているという。その怯えの原因は、サムスンを追撃してくる各社や中国勢の台頭ではない。サムスンは頭の良いマーケティング担当を多く揃えているだけに、スマートフォンの限界時期に怯えているのだ。

 「スマートフォンは昨年で6億5000万台に達し、実に2010年の3億台から倍増以上というすさまじい成長を果たした。2013年についてもこの爆発的な勢いは止まらず、9億5000万台を上回ることも充分に予想される。しかしながら、通常の携帯電話のピークが12億台であったことから、さすがのスマートフォンも3~4年後にピークアウトする可能性が出てきた」

 こう語るのは、半導体アナリストとして著名な南川明氏である。南川氏によれば様々な電子機器の半導体搭載量を見れば、明らかに1台あたりの半導体消費金額が下がり始めたという。ノートブックPCについては2000年がピークであり4億ドルであったが、なんと2012年段階ではこの半分の2億ドル以下に急落してしまった。デジタルカメラについても2000年がピークであり、2.3億ドル程度の半導体搭載金額があったものが、2012年においてはこの4分の1の5000万ドルに急降下している。モバイルフォン3Gタイプもまたピークは2000年で、半導体搭載金額は8500万ドル、これが2012年には5000万ドルを切るところまできている。

 簡単に言えば、半導体の出口の90%を占めるIT機器における1台当たりの半導体搭載金額は、12年前に比べほぼ半分になってしまったのだ。パソコンが4億台をピークに下がり始め、来年には3億台前後まで落ち込んでくる。液晶テレビも2億5000万台がピークでやはり急速に減少してきた。とにもかくにも、半導体業界にとって大きな期待を寄せられるアプリは今やスマートフォンとタブレット端末しかないのだ。
 しかして、この両者が限界成長率を迎える3~4年後にはITの成長は間違いなく止まってしまうだろう。何しろ、世界人口72億人のうち、電気を持っている人は50億人しかなく、まともな電子機器を買える階層の人口はその半分の25億人しかない。どんなマジックを使ってもIT産業が長い踊り場状況を迎えてくるのは間違いない。

次に来る巨大アプリケーションは

 それではITの成熟化に伴い半導体産業も止まってしまうのか。それは明確にノーである。半導体の最大の特徴は、知的財産の塊であり、新たな市場を作っていける心臓部分を担っているということだ。液晶は要するにCRTの置き換えであり、太陽電池もまた既存エネルギーの置き換えなのだ。半導体は何かを置き換える製品ではなく、あらゆる電子デバイスの中で最も創造性の高い代物だ。それゆえに、新たに開発された半導体は、人類の未来の産業および市場を呼び覚ましていく。

 これはあくまでも推定であるが、現在の半導体の世界市場は25兆円前後であり、少なくとも2015年ごろまでの10年間は行ったりきたりしているだけで事実上ほとんど伸びない。しかしながら、少し先のことになるが2030年段階における世界半導体産業は40兆円の巨大市場を構築すると考えたい。ただし、その時点において現在半導体アプリの90%を占めるIT機器の比率は60%まで落ちるだろう。これに代わって、医療関連、環境エネルギー関連、次世代自動車関連が30%以上を占めると思われる。残る10%は機械産業、重化学工業関連、その他ということになる。

 医療産業は現状で医療機器25兆円、医薬品60兆円と見られるが、2030年段階では医療機器は40兆から50兆円に跳ね上がるだろう。医薬品も100兆円は間違いない。となれば、医療関連産業はIT産業の120兆円を超える150兆円のビッグマーケットになってくる。最先端がん治療装置、iPS細胞による再生医療、カプセル内視鏡やメディカル端末などの世界が開花してくるわけであり、ここには膨大な半導体が使われていく。

 環境エネルギー関連は、再生可能エネルギーの太陽電池や風力発電、さらに地熱発電にパワー半導体やマイコンが多く搭載されていく。世界の既存エネルギー市場は約600兆円と推測されており、このうち20%を再生可能エネルギーが取ることになれば120兆円のビッグマーケットが生まれる。太陽電池のパワコン、風力発電のギア、地熱発電のヒートポンプなどに多くの優秀な半導体が搭載されていくだろう。

 次世代自動車関連も半導体の出口としては大いに注目される。突然衝突防止装置はここ数年のうちに法制化の方向にある。これが実現すれば1台の車に大量のCMOSセンサーが使われることになり、これとつながる多くのロジックICが搭載されることになる。ハイブリッドやEVなどの次世代環境車においては、パワーIGBTが重要な位置を占めてくる。
 世界的なシェールガス革命も半導体にとっては追い風だ。LNG基地やプラントに使われる機械装置にはやはりタフな半導体が要求される。また、シェールガス革命によって巨大化する航空機産業は、300兆円まで拡大し、多くの高性能半導体を必要とする。高速鉄道もまた成長産業であり、ここにも半導体の搭載比率は上がっていく。

 「IT機器の半導体搭載金額が少なくなっていく現状において、インフラ系や車載向けは全く搭載金額が減少していない。ハイエンドのルーターの半導体搭載金額は現状においても2000年当時とほぼ同じだ。また、自動車における半導体搭載金額は2000年の2億ドルから直近においては3.5億ドルに迫る勢いだ。半導体はその出口のアプリを多彩に変化させながら、この先も人類の未来を切り開く夢の扉となっていくだろう」(南川氏)

ノートブックPC向けの半導体搭載は激減している

自動車向けの半導体搭載は急増している

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷 渉

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