電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第454回

「米韓半導体同盟」にかける期待


新大統領就任で変わる経済安保政策

2022/5/27

 ジョー・バイデン米大統領は、2泊3日(5月20~22日)の日程で韓国を訪問した。5月10日に韓国第20代大統領に就任したばかりの尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏との首脳会談の議題は、従来の米韓同盟を「軍事同盟→経済同盟→技術同盟」へと拡大、発展することを目指すものだ。

米韓経済安保の確保は不可欠

 バイデン大統領は、20日に米大統領としては初めてサムスン電子半導体工場(平澤)を訪れた。バイデン政府は、半導体をはじめとする先端産業の中国依存度を減らし、同盟国中心のサプライチェーンの見直しに取り組んでおり、サムスン半導体工場への訪問は大きな意味を持つ。

米韓首脳はサムスン平沢工場を訪問(5月20日) 写真:韓国大統領室
米韓首脳はサムスン平沢工場を訪問(5月20日) 写真:韓国大統領室
 サムスン側は、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子代表取締役副会長が直接、リハーサル(事前演習)まで総括指揮するなどし、米韓首脳を3nmプロセスを採用した平澤の最先端ファンドリーラインに招いた。この日の日程には、米クアルコムCEOのクリスティアーノ・アモン氏も同行し、関心を集めた。

 尹大統領は「韓国はメモリーの世界市場の70%強を占めており、サムスン半導体工場には多くの米国産の装置が導入されている」と述べた。バイデン大統領は「サムスンはテキサス州テイラー市に170億ドル(約2.16兆円)を投じる」と感謝の意を表しつつ、「我々と価値を共有しない国に、我が経済と国家安保を依存しないよう、コア部品のサプライチェーン確保は不可欠だ」と、中国を意識した経済安保観を力説した。

 キム・テヒョ韓国国家安保室第1次長は5月19日、ソウル龍山の大統領庁舎ブリーフィングルームにて「バイデン大統領のサムスン半導体工場訪問は、尹大統領も同行し、米韓の半導体パートナーシップ強化を図る」と説明している。

 サムスン電子平澤キャンパスは、最先端メモリーとファンドリーを手がける、世界最大規模の半導体工場である。敷地面積はサッカー競技場400個を合わせた規模の289万m²に達し、15年から建設が始まった。

 第1ラインは2017年6月から量産を開始し、第2ラインは20年に初めてDRAMを出荷した。現状では第3ラインの建設を急ピッチで進めており、22年内の稼働を目指す。また、第4ラインも建屋やクリーンルーム工事などをスタートしている。17年7月に訪韓していたトランプ前米大統領は、ヘリで平澤工場の上空を通過する際「ビッグファクトリーにサプライズ」と言及したことがある。

サムスンの米国投資に感謝の意

 バイデン大統領は常に、半導体産業に対する深い関心を表している。21年4月と5月、ホワイトハウス主催の半導体サプライチェーンの対策会議には、サムスン電子を招いたことがある。また、主要半導体関連企業の経営陣が参席した時には、バイデン大統領は自ら半導体ウエハーを持ち上げて、対米投資を呼び掛けた。以降、サムスン電子は米国現地工場建設を決定。バイデン大統領は、サムスンの米国半導体投資の発表を受けて、公に感謝の意思を表明した。


 バイデン大統領の平澤キャンパス訪問は、米韓半導体のパートナー関係が緊密だということを改めて確認する契機となった。韓国は台湾と共に、米国の半導体大口取引先かつパートナーでもある。とりわけ最近、グローバルな半導体供給の乱れにより、自動車や情報通信技術(ICT)など米国の主力産業が苦戦を強いられており、米国の立場としては半導体の安定的な供給が最重要課題となっている。

半導体技術の米韓同盟が具体化へ

 韓国も半導体製造装置需要の45%強を米国から導入しており、米国と協力しないと半導体は作れない。今回のサムスン工場の訪問を足がかりに、メモリー世界最強のサムスン独走体制を確固たるものにするうえ、非メモリー分野に対するさらなる発展を促す契機になる見通しだ。「両国は、半導体技術の同盟を考慮した論議が具体化しつつある」(キム第1次長)と予想されている。

 バイデン大統領の経済同盟のスケジュールは、米韓首脳会談以降、晩餐会にも続いた。21日に行った晩餐会にはサムスンの李副会長を筆頭に、崔泰源(チェ・テウォン)SKグループ会長、鄭義宣(チョン・ウィソン)現代自動車グループ会長、具光謨(ク・グァンモ)LGグループ会長など韓国4大財閥グループのトップが参加した。

米国首脳の共同内外記者会見(5月21日) 写真:韓国大統領室
米国首脳の共同内外記者会見(5月21日)
  写真:韓国大統領室
 バイデン大統領が訪韓初日に尹大統領と同行し、韓国最大手企業のサムスン半導体工場を訪問したということは、今回の米韓首脳会談の骨子は「経済安保」、「半導体同盟」という韓国大統領室側の説明と相通する。メモリー業界トップを長らく堅持するサムスンと、「半導体の超強国」への飛躍を打ち出す尹大統領との思惑が一致したといえよう。もちろん、半導体やバッテリーなど韓国先端企業の米国誘致を狙うバイデン大統領との利害関係もマッチしたに違いない。

 半導体はもはや、一国のインダストリーという概念を超えて、日米韓EUの西側と中露印北の東側との新しい秩序作りが進められている。ウクライナ・ロシア戦争からみられるように、米国は上述の西側にロシアへの半導体供給をやめるよう説得している。また、米中デカップリングの基本的なスタンスは、半導体などをはじめとするコア部品における中国牽制のための政策であろう。

 こうした観点から、今回、バイデン大統領の訪韓とサムスン半導体工場への訪問は世界へのビッグメッセージになろう。また、バイデン大統領は尹大統領に日韓関係に対する仲介役もほのめかしたようで、今後、日韓の氷解ムードも現実味を帯びる見通しだ。文前大統領時代には「安米経中(安保は米国寄り、経済は中国寄り)」であったとすれば、尹新政権は「安米経米」になる公算が大きくなってきている。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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