電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第10回

時代はハイブリッドへ、技術の補完でパフォーマンス向上


車もメモリーも太陽電池もハイブリッドを目指す

2013/9/6

 近年、ハイブリッドという言葉を耳にすることが多い。ハイブリッド(Hybrid)とは、元々は動物や植物の交配種を指す言葉らしいが、今では主に電気・機械工学分野において、2つの異なる技術や材料を融合する表現として使われるケースが多い。

 例えば、自動車分野では、内燃機関とモーターを組み合わせたトヨタのプリウスがハイブリッドカーとして有名だ。自動車はガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関の発明で、この100年間で大きな技術発展を遂げた。自動車のコア技術はエンジンであり、高性能なエンジンの有無が自動車会社の評価に直結している。

ハイブリッドはイノブタ(ラテン語でヒュブリダ)がその語源だが…
ハイブリッドはイノブタ(ラテン語でヒュブリダ)がその語源だが…

 今、その自動車業界に「電動化」の大波が押し寄せている。「石油は無限、二酸化炭素は温暖化の原因ではない」ということであれば、電動化の必要性は低い。が、残念ながら、石油は有限だし、二酸化炭素が温暖化に大きく関与していることも分かっている。もちろん、自動車を放棄すれば、この問題は即座に解決する。しかし、駅の階段もろくに上ることができない、足腰の退化した現代人が、自動車を放棄できるはずがない。そこで、内燃機関に代わる動力源として、モーターと電池が注目されている。

 ただ、内燃機関と電動車両のパフォーマンスの差は依然として大きい。モーターの出力もさることながら、最大のネックは電気エネルギーの貯蔵、すなわち蓄電池である。内燃機関と同等の航続距離、コストを実現するには、さらなる電池技術のブレークスルーが不可欠である。電池に頼らない燃料電池(Fuel Cell)という選択もあるが、これも燃料となる水素のインフラ整備、さらには発電装置であるスタックのコストなど、まだまだ発展途上の技術である。

 そこで、ハイブリッドカーである。通常は性能および信頼性に優れた内燃機関を使い、低速かつ大きな負荷がかかるところだけモーターでサポートしましょう、という仕組みである。最近では、モーター&電池だけで10km程度は走行できる「プラグインハイブリッド」という技術も登場している。

 エレクトロニクスの分野でも、ハイブリッド技術の採用が始まっている。現在、デジタルデータの記録装置としてHDD(ハードディスク装置)が広く使われている。HDDはガラスやアルミの薄い円盤上に形成した微小な磁性材が、磁気の作用で極が反転するメカニズムを利用して、0、1のデータを記録・再生する仕組みだ。現在の記録密度は垂直磁気記録方式(円盤の平面に対し、垂直方向に磁石が反転)で600~700Gビット/平方インチと言われているが、さらなる高密度化(10Tビット/平方インチ)を目指して、熱アシストやビットパターンといった技術の開発が進んでいる。

 HDDの最大の要求性能は言うまでもなく記録容量だが、もう1つ無視できないのが、書き込みと読み出しの速度である。円盤の回転、磁気ヘッドの移動といった機械的な動きが多いHDDは、例えば、半導体メモリーであるSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)に比べてデータへのアクセスに時間がかかる。しかし、ビット単価(容量に対するコスト)では、SSDに対して依然として有利である。できれば、HDDとSSDのいいとこ取りをしたい。そこで、ハイブリッドHDDである。

 ハイブリッドHDDは、メーンの記録媒体である磁気ディスクに加えて、NANDフラッシュをキャッシュメモリーとして搭載することで、大容量と高性能を両立したドライブである。高頻度で使用するデータをNANDフラッシュに保持することで、読み出しの高速化が可能になる。すでに東芝やWD(ウエスタンデジタル)が市場投入を開始している。もっとも、SSD自体もNANDフラッシュとDRAMによるハイブリッド化が一般的となっている。DRAMをキャッシュとして活用することで、SSDの高速化を実現している。

 また、Appleのように、SSDとHDDを複合したフュージョンドライブ(Fusion Drive)を採用するPCメーカーも増えてきた。SSDの容量も128GBと大容量で、OSやアプリといった負荷のかかるソフトをSSD内に入れることで、起動や処理速度が格段に向上するという。これもハイブリッドである。

ハイブリッドで太陽電池の効率向上

 再生可能エネルギーとして普及拡大が進む太陽電池でも、様々なハイブリッドのアイデアが採用されている。カネカはトップ層にアモルファスシリコン、ボトム層に微結晶シリコンを積層したタンデム型薄膜太陽電池をハイブリッドと称して販売している。トップ層とボトム層で異なる波長を吸収するということで、カネカでは、これをハイブリッドと呼んでいるが、こうしたアプローチは、化合物系や有機系の太陽電池でも広く採用されている。

 パナソニックが誇る高性能単結晶シリコン太陽電池「HIT」もハイブリッドである。HITはn型単結晶ウエハーの両面にアモルファスシリコン層を形成した、いわゆるヘテロ接合と呼ばれる構造の太陽電池である。同じシリコンでも、結晶とアモルファスという異なる材料を組み合わせ、それぞれの利点を引き出していることから、ハイブリッド型と呼ばれる。

 有機系太陽電池においても、感光材料に有機金属のペロブスカイト結晶(CH3NH3PbX、X=ハロゲン)を用いたハイブリッド型太陽電池の研究が加速している。ペロブスカイトは当初、Ru錯体色素などに代わる増感材料として提案されたが、近年では、これを光吸収材料として利用した全固体型の開発が注目されている。

 2012年に桐蔭横浜大とOxford大のグループが変換効率10.9%を報告したが、2013年に入って韓国のグループが12.3%、スイスのグループ(EPFL)が14.1%の効率を相次ぎ達成するなど、効率改善が急速に進んでいる。さらに、EPFLは13年7月に15.4%の効率を実現したことをNature誌で発表している。ペロブスカイト結晶は高いVoc(解放電圧)が期待できるのが大きな特徴で、1.2VのVocが達成できれば、17%の変換効率が狙えるという。また、全固体塗布型なので積層構造も可能だ。タンデム型にすれば、20%超の変換効率も見えてくる。

NREL(米国再生可能エネルギー研究所)が発表する「Best Research-Cell Efficiencies」の最新版にもペロブスカイトが登場
NREL(米国再生可能エネルギー研究所)が発表する
「Best Research-Cell Efficiencies」の最新版にもペロブスカイトが登場

 高効率を実現しているペロブスカイト型ハイブリッド太陽電池は、色素増感太陽電池(半導体ナノ多孔膜を集光に使う)とは異なる発電メカニズムで動作するため、これまでのような色素増感太陽電池の派生技術という位置づけから、最近では、独立した技術として認知されつつあるようだ。そして、これまで、シリコン太陽電池に比べて変換効率で大きく見劣りしていた有機系太陽電池が、性能面でもシリコン太陽電池に比肩する可能性が出てきた。

 無機であろうが、有機であろうが、ハイブリッド型であろうが、結局のところ、ユーザーにとってはどうでもいいことである。安くて、丈夫で、安全で、よく発電する太陽電池であれば、それが一番いい。

半導体産業新聞 編集部 記者 松永新吾

サイト内検索