電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第512回

加速する内視鏡手術支援ロボットの普及


さらなるがん医療の均てん化推進を

2023/7/21

ダビンチは世界で7500台、850万件の手術実績

 内視鏡手術支援ロボット「ダビンチサージカルシステム」は、インテュイティブサージカル社(米カリフォルニア州)により1990年代に開発され、米国で2000年に、日本では2009年に薬事承認を受けた。

 日本では、12年4月に初めて前立腺がんに対する手術が保険適用され、16年11月に腎がん、18年4月には縦隔腫瘍、肺がん、食道がん、心臓弁膜症、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、子宮筋腫に対する手術が一気に保険適用され、続いて21年10月に膵がん、22年6月に結腸がんが保険適用された。

 ダビンチは23年1月までに、世界で約7500台、日本では世界第2位の保有台数となる570台以上が導入されている。20年末時点の全世界のダビンチは約6000台で、そこから2年間で1500台が増加したことになる。

 また、薬事承認以前の期間を含む20年末までの26年間で、世界で約850万件のダビンチ手術が行われたが、22年の1年間で、世界で約180万人にダビンチ手術が行われており、ダビンチの導入台数とその手術件数の増加が加速している。

神経温存など多大な恩恵

 ダビンチによる手術は、開腹手術に比べ、術中の出血が少ない、術後合併症のリスクが低い、術後の疼痛が少なく、回復も社会復帰も早めることが可能とされ、執刀医をはじめ医療スタッフのストレスも軽減されるという。また、例えば、腹腔鏡下による直腸手術を始めたが、患者腹部の脂肪などで患部が見えていても鉗子が届かない場合、また、遠方ほど精緻な鉗子操作が困難となることから、開腹手術に移行せざるを得ないこともあるが、ダビンチでの前例はないという。

 しかし、何より、ダビンチのメリットとして、まるで自らがその術野に入り込んだようなと表現されるリアルな拡大視野、3D映像と自在に動く多種多様な鉗子により、大幅な切開範囲の縮小および精密・正確な切除が可能となる。搭載されたモーションスケールは2対1、3対1、5対1の設定が可能で、3対1なら手を3cm動かしても、鉗子は1cmしか動かないため、より、精緻な処置が可能である。医師が緊張に見舞われたとしても、手先の震えを鉗子の先に伝えない手ぶれ補正機能も備えている。それらの利点は、直接的ながん切除に留まらず、神経温存など多大な恩恵をもたらす。

 日本で最初にダビンチが保険適用となった前立腺がん治療、前立腺全摘除術は、排尿や性機能を担う神経叢を傷つけずにそれら機能温存に威力を発揮することを期待したものであり、そのほかのがん治療においてもダビンチのメリットに期待してのものである。

 今回、自らが体験することとなったダビンチによる直腸がん手術においては、女性に比して狭い男性の骨盤内のそれら神経叢や周囲のリンパ節、血管、内括約筋、外括約筋などの温存に、その機能を余すところなく発揮してくれた。幸いなことに、手術後の病理検査の結果、リンパ節転移などはなく、ステージ1が確定した。

 なお、インテュイティブサージカル合同会社(東京都港区)によれば、「Da Vinci」の正式表記は「ダビンチ」としている。

「hinotori」は26年に国内225台へ

 川崎重工業(株)とシスメックス(株)が設立した(株)メディカロイド(神戸市中央区)では、20年に手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」の製造販売承認を受け、第一症例を実施した。

 「hinotori」は、独自デザインで、オペレーションアームをコンパクトにセッティングできることにより、清潔野の医師の操作スペースを広く取ることが可能、8軸で構成されているオペレーションアームは、人の腕のようになめらかに動き、アーム同士、清潔野の医師とアームの干渉を軽減する、ソフトウェアによるインストゥルメント動作支点の設定、フルハイビジョン3Dシステムの高精細画像といった特徴を備えている。

 また、「hinotori」の操作ユニットや手術ユニットをそれぞれ離れた場所に設置しネットワークで接続して操作を行う、遠隔操作の検討を進めており、「遠隔でのロボット手術支援・指導(=教育・トレーニング)」から開始し、将来的には「遠隔ロボット手術」の実現を目指し、実証実験に取り組んでいる。

 メディカロイドでは、23年3月末の累計出荷台数は35台となっているが、26年3月期までの中期経営計画において、累計出荷台数300台(国内225台、海外75台)を目標に掲げている。海外においては、5月にシンガポールで製造販売承認を受けており、シンガポールをはじめ、アジア市場から展開する方針である。

「Saroaサージカルシステム」が製造販売承認

「Saroa サージカルシステム」外観
「Saroa サージカルシステム」外観
 東京工業大学と東京医科歯科大学の研究成果の実用化を目指して創業したリバーフィールド(株)(東京都港区)は、5月31日、「触覚」を有する手術支援ロボットシステム「Saroa サージカルシステム」が製造販売承認を取得したと発表した。

 リバーフィールドは、14年に設立され、空気圧超精密制御技術を活かした世界初の空気圧駆動型手術支援ロボットの開発を進めてきた。この空気圧駆動技術によって、手術に使用する鉗子にかかる力を検出し、執刀医に触覚(力覚)をフィードバックできる。従来にはなかった触覚(力覚)を有することにより、自分の手で直接手術しているような感覚が得られ、手術の精度がより高くなると期待されている。

 また、空気圧駆動の採用で、軽量・小型なデザインを実現した。これにより、手術室間・施設内の移動もしやすく、より柔軟な運用が可能である。さらに、オープンプラットフォームとしたことで、さまざまなメーカーの内視鏡、モニタおよび電気メス装置を組み合わせて使用することができる。病院ですでに保有している装置を使用できるため、導入コスト低減が可能となる。

 今後は、東京医科歯科大学病院をはじめとする医療機関において臨床使用をスタートする予定。対象となる診療科は、胸部外科(心臓外科を除く)、一般消化器外科、泌尿器科、婦人科としている。

同じ都道府県でも歴然とした医療格差が存在

 手術支援ロボットの導入台数が増え、保険適用症例が拡大されたが、それだけで全国一律、手術支援ロボットによる最先端手術が受けられるわけではない。今回受けた手術支援ロボットによる直腸がん手術は、18年4月の保険適用からすでに5年が経過しており、大学病院であれば可能であろうと訪れたものの別の術式を提案されたたため、セカンドオピニオン制度を利用し別の医療機関のその分野の第一人者であるドクターを頼り、望む術式を施してもらった。

 今回の経験を踏まえても、同じ日本いや同じ都道府県でも医療格差が歴然としてあることから、国が進めるがん医療の均てん化のさらなる推進などが必要である。


電子デバイス産業新聞 編集委員 倉知良次

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