電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第513回

半導体設備投資、23年は19%減の1300億ドル規模


24年は回復緩やか、生成系AIはパッケージ工程で恩恵

2023/8/4

 2023年の半導体設備投資(CapEx基準)は、年初想定とほぼ変わらず前年比19%減の1300億ドル規模となる見込みだ。市場・業界の関心はすでに24年に移り始めているが、TSMCやメモリー分野の投資計画に勢いがなく、緩やかな回復にとどまる。上ぶれ要素となるのは、やはり中国と成熟世代の投資動向となりそうだ。前工程投資は23~24年と低調に推移する見込みだが、生成系AIの拡大によって、パッケージ分野で新たな事業機会が多く生まれることになりそうだ。


メモリー投資は厳しさ続く

 23年はマクロ景気や最終製品の需要低迷によって、総じて投資計画は低調に推移した。インテルはパソコンおよびデータセンター市場の低迷、ならびに技術開発の遅れなどが響き、前年比で3割超の減額。TSMCも320億~360億ドルの年初に打ち立てたガイダンスレンジを維持しているものの、先の株主総会や決算説明会でも言及しているとおり、ガイダンスの下限近くにとどまる見通しだ。

 それ以上に厳しいのはメモリー分野で、主要企業はいずれも投資金額を大幅に引き下げている。WFE(Wafer Fab Equipment)基準で見ても、23年はDRAMが前年比3割減、NANDが同5割減の水準となっている。特にNANDは収益性の観点から投資が全面ストップといってもよい状況で、投資水準はメモリーバブルで盛り上がる直前の16年当時まで逆戻りしている。

 こうした状況で、23年は中国勢の投資および成熟世代の投資がその落ち込みをカバーしている。中国では成熟ロジックやパワー半導体、CMOSセンサーの投資が活況を呈しており、中国ファンドリー最大手のSMICも23年投資金額は約60億ドルと前年並みをキープしている。また、YMTC、CXMTといったメモリー企業も米国半導体規制という逆風下においても、中国現地の装置メーカーの積極採用や日欧米系装置メーカーでも最新機種の採用を避けるなどの対応を図り、設備投資を継続している。

 また、テキサス・インスツルメンツやインフィニオン、STマイクロといったパワーやアナログに強みを持つ欧米企業も40億~50億ドル規模の投資を敢行。過去にない投資水準となっている。

SEMIは前回予測から下方修正

 業界団体のSEMIも、23年7月に23年の半導体製造装置(新品)の世界販売額が前年比19%減の874億ドルになるとの最新予測を発表している。前回予測(22年12月)から40億ドル程度下方修正を行った。

 前回予測では、23年の販売額は同16%減の912億ドルと予想していたが、メモリー分野を中心とした投資停滞によって、予測が見直された。工程別ではWFE(Wafer Fab Equipment)が同19%減の764億ドル、テスト装置は同15%減、組立装置は同21%減が見込まれており、いずれも前回予測から引き下げられた。

 WFEのアプリケーション別予測では、半分以上を占めるファンドリー/ロジック分野は、最終市場の軟化を反映して同6%減の501億ドルと予測。先端向けの需要は停滞するものの、成熟ノードへの投資増加により比較的安定しているという。一方でメモリー分野は落ち込みが大きく、DRAMは同28%減、NANDは同51%減と大幅な縮小が見込まれている。

 現状で、24年は同14%増の1000億ドルと回復が見込まれている。それぞれWFEが同15%増、テスト装置が同8%増、組立装置が同16%増と予想されている。過去最高を記録した22年の水準には戻らないものの、2桁台の回復をSEMIでは予測する。

 23年については、1~3月の販売高実績が前年同期比9%増だったことから、4~6月以降は2桁台の減少が予想されている。本紙集計でも、半導体製造装置主要4社の1~3月売上高は、同23%増で推移。装置需要の先行指標となる半導体製造装置向けのパーツ・部材を手がけるサプライヤー企業の1~3月売上高も同18%増で推移している。一方で、サプライヤー企業の1~3月期受注高は同23%減と2四半期連続で20%以上の落ち込みを見せており、装置メーカーの部材調達ペースが落ちていることがうかがえる。

 半導体製造装置向けに真空パーツの加工事業などを手がけるマルマエ(鹿児島県出水市)も、23年6月末に23年8月期通期業績の下方修正を発表。売上高を68億円(従来予想87億円)、営業利益を7.3億円(同16.8億円)に引き下げており、「装置部品における在庫調整の影響が大きく、受注残を消化した23年5月以降の半導体分野売上高が大幅に減少する見通し」だという。半導体分野における受注高も第3四半期累計(22年9月~23年5月)ベースで前年同期比48%減と大きな落ち込みとなっている。

 他のサプライヤー企業も一部企業を除けば、明らかにピークアウトの傾向が見て取れる。装置メーカーはこれまで安定在庫を確保するために、顧客である半導体メーカーの投資計画見直し後も部材調達のペースを落とさずにきた。しかし、23年後半もメモリーや先端ロジックを中心に投資意欲が停滞するなかで、22年秋以降、調達ペースを落とす意思決定を行っていると推定される。

24年投資額は4%増の見込み

 24年半導体設備投資金額は現状で、前年比4%増の水準になるとみられる。メモリーは生成系AIの拡大に端を発して、サムスンを筆頭に一部でDRAM投資再開の動きが出ているものの、NAND投資は依然低調に推移する見込みだ。価格動向もまだ不安定であり、設備投資が本格的に回復するのは25年にずれ込みそうだ。

 TSMCの24年投資金額も前年比で減額となりそうだ。生成系AIなどHPC(High Performance Computing)分野での需要増はあるものの、スマートフォンなどボリュームゾーンはまだ不透明な状況が続く。最先端のN3世代の投資も既存のN5ラインを一部リユースするかたちで投資を抑制する考えであるほか、次世代のN2もナノシートやバックサイド・パワーレール(裏面電源供給)など新技術を多く盛り込むことから開発の遅れが一部で指摘されている。

 緩やかな市場回復が見込まれるなかで、引き続き上ぶれ要素と期待されているのが、中国投資だ。ロジックを中心とする先端プロセス投資に制約がかかるなか、成熟世代に活路を見出した投資戦略は24年も高い水準が維持される可能性が高い。

 先ごろ4~6月期決算を発表したASMLもEUVの売上高見通しを引き下げる一方、液浸などのDUV装置の売上計画を引き上げた。4~6月期においても中国向けの売上高は過去最高を記録しており、投資の持続性についても強気のコメントを残している。大手半導体メーカーの慎重な投資スタンスが続くなか、24年も中国半導体投資が市場を支える、そして盛り上げる構図は続きそうだ。

ディスコも大型案件獲得を公表

 また、生成系AIに絡んだ投資拡大も一部で期待できそうだ。生成系AIによってGPUやDRAMなどの需要拡大が期待されているが、ウエハープロセスなど前工程分野の波及効果は実はそれほど大きくないと指摘されている。エヌビディアの「H100」「A100」などの生成系AI向けGPU製品はダイサイズが非常に大きい一方で、数量インパクトはそれほど大きくなく、ウエハー換算で見た場合大きな消費量にはならない。

TSMCは先端パッケージ投資を積極的に行う
TSMCは先端パッケージ投資を積極的に行う
 一方で、パッケージ分野はCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)に代表される先端パッケージ技術が用いられるほか、DRAMもHBM(High Bandwidth Memory)などの積層タイプの採用が増えることから、組立装置へのプラス要素が大きくなるとみられている。TSMCはCoWoSの生産能力を23年中に前年比で倍増、24年もさらに倍増する考えを明らかにしており、23年6月に、3D実装技術「3DFabric」に対応した先端後工程拠点「Advanced Backend Fab 6」(AP6)を新竹市の南に位置する竹南サイエンスパークに開設した。さらに、苗栗県の銅鑼サイエンスパーク内にも新たな後工程拠点を建設すると現地メディアが報じている。

 サムスンもHBMの生産能力を24年に前年比で倍増させる計画であるほか、SKハイニックスも23年のHBMを含むハイエンドDRAMの出荷量が前年比で倍増する見通しであることから、今後需要増に対応した増産投資に着手するものとみられる。

 こうした需要拡大はすでに装置メーカーにも波及しており、加工装置大手のディスコは23年4~6月期決算発表にあわせて、生成AI関連で大型の投資案件を獲得、早ければ2023年10~12月期以降、業績に寄与してくることを明らかにした。CoWoSやHBM向けにブレードダイサーやレーザーソー、グラインダーなどの出荷拡大が見込まれている。


電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉 雅巳

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