電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第515回

パワー半導体で飛躍するアイクストロン


Compound Semiconductor goes mainstream

2023/8/18

 SiC/GaNパワー半導体の本格的な量産展開に向けて、世界中で増産計画が相次いで具体化している化合物半導体業界。そうしたなかで大きな成長を遂げつつあるのが、SiC用CVDエピタキシャル成長装置、GaN用MOCVD装置を展開するドイツの大手製造装置メーカー、アイクストロンだ。同社の直近の動きを解説する。

 アイクストロンの業績が好調だ。先ごろ発表した2023年4~6月期業績に際して、23年の通期見通しを上方修正した。旺盛な受注と遅れていた輸出ライセンスの発行が進み始めたことを受け、売上高を当初想定の5.8億~6.4億ユーロから6億~6.6億ユーロ、受注高を6億~6.8億ユーロから6.2億~7億ユーロへ、それぞれ引き上げた。これは4年前に比べて2.4倍以上の規模になる。


 23年4~6月期の四半期業績も好調だった。売上高は前年同期比69%増の1億7340万ユーロ。輸出ライセンス発行の遅れで、3月末時点で未出荷だった約7000万ユーロのうち、5000万ユーロ以上が出荷されたことも収益に貢献した。受注高も同17%増の1億7780万ユーロと好調で、特にSiC用CVDエピ成長装置の新型機「G10-SiC」が牽引した。受注残高は4億1250万ユーロとなり、高水準を維持した。

売り上げの8割以上をパワーが占める

 23年上期(1~6月)の装置売上高のうち、83%をパワーエレクトロニクス向けが占めた。SiC/GaNのパワー半導体向けが引き続き好調で、世界中でSiC/GaNパワーの増産計画が相次いでいるため、この勢いは26年ごろまで続くとの見方を示している。

 SiC用CVDエピ成長装置は、ここ数年で生産性を高め、スループットを2倍にした。最新機種のG10-SiCは8インチウエハーにも対応し、23年に同社で最も売れた装置になる見通し。パフォーマンスの向上によって、SiC用CVDエピ成長装置の市場シェアでトップ2にランク入りすることができるとみている。

 GaN用MOCVDについては、GaN on Siliconパワー半導体向けの新型機「G10-GaN」を年内に正式発売する。6インチはもちろん、8インチにも対応が可能。すでにテキサス・インスツルメンツ(TI)からサプライヤーエクセレンスアワードを受けており、23年1~3月期の受注高約1.4億ユーロの1/3以上をGaNパワー向けが占めた。顧客の過半がGaN on Siliconのウエハーサイズを6インチから8インチへ移行しており、24年にはGaN向けの収益の50%以上をG10-GaNが占める見通しという。

出荷台数はシリコン半導体並みに

 かつての化合物パワー半導体市場は、装置が売れたといっても、その製造規模から1工場あたり2~3台がいいところだった。だが、SiCがウエハーの大口径化に伴って量産フェーズに入り、GaNもシリコンウエハーを用いるGaN on Silicon技術の進展で量産拡大期を迎え、必要とする装置台数が急増する段階に入った。つまり、生産量や生産性、スループットに「シリコン並み」が求められつつあることから、1工場あたりに導入されるCVDエピ装置やMOCVD装置はこれから数十台クラスになってくる。

 アイクストロンのフェリックス・グラヴァートCEOは、電子デバイス産業新聞の取材に対して「大量生産が前提になっている現在、50~100台という受注に対応していく必要がある」と述べている。グラヴァート氏は、マッキンゼーで半導体をはじめとするハイテク分野のコンサルタントを経験した後、13~17年までインフィニオンでパワー半導体事業を担当。当時のインフィニオンはコストダウンに向けてシリコン300mmで量産を本格化する決断を下したあとだったが、グラヴァート氏はシリコンMOSFETの売り上げを倍増してシェアを上げ、SiCとGaNデバイスの事業化を立ち上げて、パワー半導体市場でインフィニオンの地位を高めることに貢献した経歴を持つ。

パワーの次はマイクロLEDに期待

 SiC/GaNパワー半導体向けに続き、アイクストロンはマイクロLED向け装置の需要増にも期待を寄せている。23年初頭には、最大8インチ対応のGaAs/InP向けMOCVD装置「G10-AsP」を発表済みで、この装置はマレーシア・クリムに8インチのマイクロLED新工場を新設中であるams OSRAMから生産の認定を受けた。

 ams OSRAMは、アップルが25年に発売予定のアップルウオッチ新モデルに搭載予定のマイクロLEDディスプレーに、マイクロLEDチップを供給すると目されており、ここにGaAsウエハーを供給する見通しである米AXTは「すでにウエハーのパイロット生産&サンプル出荷を行っており、需要が増加し始めるのは24年後半、本格的な収益寄与は25年から」と述べている。

 G10-SiC、G10-GaN、G10-AsPで構成される新型機「G10」シリーズは、市場導入後の最初の1年で年間収益の40%以上を構成するとみている。新型機および次世代機の開発能力を強化するため、アイクストロンは5月、独ヘルツォーゲンラートの拠点に最大1億ユーロを投資し、1000m²のクリーンルームを備えたイノベーションセンターを新設することを明らかにしている。

化合物が投資のメーンストリームに

 日本の半導体製造装置は世界で約30%のシェアを持ち、高い競争力を長年維持しているが、シェアを伸ばしているとは言えない。この要因の1つに、ALD(原子層堆積)装置など近年市場規模を拡大している装置市場に参入メーカーが少ないことがあるといわれ、化合物パワー半導体向けもそうした市場の1つかもしれない。

 SiC/GaNパワー半導体への投資が継続すれば、アイクストロンの売上高は早晩1000億円を突破しそうだ。パワー半導体市場で投資の主流がシリコンからSiC/GaNへシフトしていく(Compound Semiconductor goes mainstream)なか、この市場で大きな成長を遂げる装置・部材メーカーが日本からもたくさん出てくることを期待したい。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏

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