電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第516回

いよいよテイクオフする「4680」


ずば抜けた性能誇る円筒型LiB、24年に本格量産へ

2023/8/25

 電動車などで使われる円筒型リチウムイオン電池(LiB)の最新技術「4680」がいよいよ本格化する兆しだ。もともと2020年開催の「Battery Show」でテスラが公開し、会場の注目を集めたものだ。同社の生産パートナーであるパナソニック エナジーをはじめ、韓国のLGエナジーソリューション(LGES)やサムスンSDI、中国のEVEエナジーらも研究開発や生産投資を積極的に行っており、業界の注目度は極めて高い。

テスラ製EV向けが中心

 円筒型LiBは、もともと電動工具、家電、電動自転車といった民生機器を中心に使われてきたが、テスラが電気自動車(EV)に搭載したことから車載での活用が始まった。汎用的で安価な円筒型LiBを活用することで、価格競争力のあるEVを製造することが狙いだった。現在ではテスラ以外にも、BMW、ルシード、カヌーなどの電動車でも採用されている。ただし、現段階ではテスラ製EV向けが圧倒的に多い。

 円筒型LiBの供給メーカーは、テスラ、パナソニック エナジー、LGES、サムスンSDI、EVEエナジー、CATLなどが挙げられる。供給関係をみると、テスラ製EVにテスラ、パナソニック エナジー、LGESらが供給している。なお、LGESは主に中国市場向け。また、BMW製EVにサムスンSDIおよびCATL、ルシード製EVにLGES、カヌー製EVにパナソニック エナジーがそれぞれ供給している。加えて、パナソニック エナジーはSUBARUおよびマツダとも円筒型LiBの供給を協議中。SIBARUは20年代後半投入のEVに4680を搭載する見込みだ。

ずば抜けた性能

左から1865、2170、4680
左から1865、2170、4680
 4680は直径46mm×長さ80mmの円筒型LiBセル。初期の「1865」(直径18mm×65mm)、現行の「2170」(直径21mm×長さ70mm)に続く最新技術となる。テスラによると、2170と比較して4680はエネルギー密度で5倍、出力密度で6倍の性能を有し、充電1回あたりの航続距離が16%向上する。加えて、製造コストを10~20%削減できるとしている。

 エネルギー密度と出力密度が向上した理由は、負極活物質にシリコンを含有した黒鉛(グラファイト)を採用しているため。黒鉛の容量は370mAh/g程度であるのに対し、シリコンの容量は4200mAh/gと、黒鉛の10倍以上で、実は2170でもシリコンが5%程度含有されているが、4680では50%まで引き上げる。これにより、大幅な性能向上を実現する。

 ただし、シリコンは充放電の際に膨張・収縮(最大4倍)を繰り返し、劣化が起こるという致命的な課題があり、この課題克服が実用化のハードル。具体的な対策は負極活物質へのコーティングや、イオン伝導ポリマーの活用などが挙げられる。なお、50%というのは将来目標とみられる。

 一方、製造コストの削減は「ドライ電極」を活用していることが大きな理由だ。ドライ電極はテスラが19年に買収したマクスウェルの技術。LiB電極製造プロセスでは長時間の乾燥プロセスを経る必要があるが、有機溶媒を排除することで同プロセスを簡素化し、かつ有機溶媒の回収・廃棄を不要とした。これにより電気代を大幅に削減し、かつ省スペース化を実現した。

北米で生産拡大のテスラ・パナ陣営

 次に各社の生産計画について述べる。テスラ・パナソニック エナジー陣営は北米市場における生産を拡大中だ。テスラは、フリーモント工場(米カリフォルニア州)のパイロットラインでいち早く試作を開始し、小規模ながらも同社製EV「Model Y」に搭載している。1月にはパナソニック エナジーと共同運営の「ギガファクトリー1」(米ネバダ州)を拡張し、4680を生産する新工場の建設を発表した。生産能力は年産100GWhで、小型EV200万台分に相当する。設備投資額は36億ドル。将来的には同500GWhまで拡張することも視野に入っている。

 パナソニック エナジーは、4680の生産設備を和歌山工場(和歌山県紀の川市)に導入し、23年度中に生産性検証および生産を開始する。また、同社は米カンザス州デソトに円筒型LiBの新工場を建設する計画を進めており、24年度内の生産開始を目指している。新工場では2170とともに4680も生産する見込みだ。初期生産能力は同30GWh、設備投資額は40億ドル。

 LGESは5800億ウォンを投じ、梧倉第2工場内にテスラ向けの4680生産ラインを構築中。初期生産能力は同4GWhで、23年内にも生産を開始する計画だ。

 サムスンSDIは、中国の天安工場に同じくテスラ向けとなる4680生産ラインを構築している。性能は良好で、サンプル出荷の準備中という。一方で、報道によると長さを少し短くしたタイプも開発中で、今後BMWに供給していくという。

 このように4680はテスラ製EVで一部搭載されており、23年内にも量産フェーズに入るとみられる。最も早いのはテスラやLGESとみられ、24年からパナソニック エナジーやサムスンSDIらが追従していく見込みだ。

電子デバイス産業新聞 東哲也記者

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