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GEヘルスケア、在宅看護/介護のフォーラムとセッション開催(上)


武藤真祐氏、「超高齢社会の社会システムの実現」へ4ステップを実践中

2013/12/24

フリーセッションの武藤真祐氏(左)と川上潤氏
フリーセッションの武藤真祐氏(左)と川上潤氏
 GEヘルスケア・ジャパン(株)(東京都日野市旭が丘4-7-127、Tel.042-585-5111)は、11月20日に第26回GEヘルシーマジネーション・フォーラム ライブセッションを開催した。
 開催の挨拶に立ったGEヘルスケア・ジャパン(株)代表取締役社長兼CEOの川上潤氏によると、GEヘルスケアは「Silver to Gold」(シルバー世代からゴールド世代へ)の戦略を掲げている。これは超高齢化社会をネガティブに捉えるのではなく、より良い社会の構築のため、高齢者がより生き生きと暮らせる社会の実現に貢献しようというもので、実現のためには、(1)医療機器、(2)シルバー機器、(3)プライマリー・ケア/ホームヘルスの3つがキーワードになる。同社も、アルツハイマーの早期発見技術、肝硬変のプロセスのモニタリング技術などさまざまな開発に取り組んでいる。今日のフォーラムとライブセッションは、在宅での看護/介護をテーマに設定、今回は初めて事前に「高齢者とそのご家族の健康意識に関する調査」を実施しており、これをもとに医療界、メディア、患者、産業界の方々が自由に意見を出しあって、医療課題の解決策が生まれる場となればと期待を込めた。
 今回の調査は、同社が日経BPコンサルティングに委託してまとめたもので、「あまり前例のない」(川上氏)、貴重な調査結果である。
 川上氏の挨拶に続いて、(医)社団鉄祐会および一般社団法人高齢先進国モデル構想会議の理事長、武藤真祐氏の講演、その後、武藤氏、川上氏と当日の参加者とのフリーセッションが行われた。
 武藤氏は、1996年に東京大学医学部卒業、2002年に東京大学大学院医学系研究科博士課程終了、東大病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事した後、宮内庁で侍医を務める。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、10年1月に祐ホームクリニックを設立。11年には、高齢者の健康・生活を包括的に支える社会システムの構築を目指し、高齢先進国モデル構想会議を立ち上げて、産学官民のコンソーシアムにおいて、超高齢社会の社会システム構築に取り組む。米国医師国家試験合格、米国公認会計士、MBAの肩書きも持つ。
 鉄祐会は、東京都文京区の祐ホームクリニックで4年前から在宅医療を開始、11年9月から宮城県石巻市の祐ホームクリニック石巻でも在宅医療を開始しており、常勤医6人、非常勤27人、看護師など医療専門職8人、事務職19人のスタッフが24時間365日の在宅医療に対応している。13年11月現在の累計患者数は1600人。
 講演は、1.高齢者とその家族の健康意識に関する調査結果、2.超高齢社会の社会システムの実現(高齢先進国モデル構想への4ステップ、(1)在宅医療体制の確立、(2)在宅医療・介護情報連携の確立、(3)健康・生活支援体制の確立、(4)超高齢社会における社会システムへの進化)の構成で進められた。
 1の高齢者とその家族の健康意識に関する調査結果に対する武藤氏の評価およびGEヘルスケア・ジャパンの分析は次回に伝える。

◆超高齢社会の社会システムの実現に向けた在宅医療体制の確立
 2の「超高齢社会の社会システムの実現」に向け、武藤氏はメンバーが50者に上るコンソーシアムを組織して、先進的な取り組みと成果を上げている。その実現のための4ステップでは、ステップ(1)「在宅医療体制の確立」において、まず、在宅医療診療所の開設があり、次いで在宅医療を支えるICTシステムを構築した。
 システムは、電子カルテ(在宅医療対応電子カルテ、クラウド型電子カルテ)、ステップ(1)に関連が強い在宅医療クラウド、ステップ(2)で重要な多職種連携クラウドで構成、加えて、入力などの事務代行やオペレーション支援を担うコンタクトセンターを設置している。
 このうち、ステップ(1)では、医師が診療に専念するために構築した在宅医療支援システム(在宅医療クラウド)がカギで、訪問の準備(訪問ルートの作成、訪問スケジュール作成、訪問前の注意事項確認)、患者宅までの移動(カーナビとの自動連携、駐車場/患者宅の行き方をナビゲート)、診療中や診療後の情報連携(診療状況の確認、PC/携帯の即時連動、業務書類作成の補助、診療情報の分析機能)といった、在宅医療に不可欠な機能を装備した。

◆在宅医療・介護情報連携の確立
 ステップ(2)「在宅医療・介護情報連携の確立」では、ICTシステムの多職種連携クラウドによって、在宅医療・介護の多職種間での情報共有と医療・介護の質および、在宅患者のQOLを向上させ、安心感の醸成を図ることができる。患者本人や介護者(家族)、離れて暮らす家族も情報連携ネットワークに参加し、在宅ケアチームを構築する。こうすることで、患者・家族の健康状態に対する理解促進を図り、家族介護の負担軽減や高齢者の社会的孤立防止につなげることが可能となる。
 多職種連携クラウドは、セキュリティ対策に万全な備えを施したうえで、情報連携活用基盤+ICTサポーターを核に、在宅療養支援診療所、患者・家族、非同居家族、高齢者施設、訪問介護事業所(ヘルパー)、居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)、訪問看護ステーション、訪問薬局などをネットし、さらに在宅療養支援診療所は、地域医療情報連携(SS-MIX2)により、地域の一般病院、療養病床、診療所と結ばれている。
 このICTシステムの活用事例の1つとして、「共通指標」(バイタル(温度板)ほか共通項目の入力・蓄積/閲覧)、「メッセージ」(事業者および家族とのメッセージ機能)、「カレンダー」(多職種の訪問スケジュールを一元化)によるきめ細かい、効率的な情報共有とケア体制が実現した。

◆健康・生活支援体制の確立
 ステップ(3)「健康・生活支援体制の確立」では、被災地での在宅被災世帯の健康・生活の復興支援の取り組みを紹介した。被災者の居住場所別では、応急仮設住宅およびみなし仮設住宅では行政支援があるが、住宅が被災したが残った居住空間で住み続けている在宅被災世帯では、行政の支援が届かず、また居住状況が把握されていない。そこで、在宅被災世帯の2万世帯を訪問、1万世帯のアセスメントを実施。医療専門職人材を中心に、全戸訪問による健康・生活アセスメントを行った。アセスメントは1戸に付き1時間を費やした。
 収集した情報を専門職が精査し、要サポート者の抽出と専門職サポートにつなげ、これを受けた医療・福祉・生活面に関して適切な専門職が、個別のサポートを行った。3000世帯のサポートを実施した。
 また、ステップ(3)では、ICTを活用して住民と支援をつなぐ包括的なプラットフォームを構築した。武藤氏は、「訪問しないとわからない。行くしかない。行ってデータを集めることが必須」と強調しながら、東北・石巻モデルでは、その個別アセスメントにより健康・生活情報を聞き取り、データベースに集積、その情報を元に、官民および健康・生活に至るまでの包括的な適切な支援につなげた。
 プラットフォームは、1.訪問(要介護高齢者および介護者、虚弱化・認知機能低下や増加する単身・老老世帯および社会的孤立懸念がある自立高齢者など)、2.ニーズ収集、3.情報集積、4.その情報を地域行政サービス(社協、包括、保健師)、医療・介護サービス(在宅医療、在宅介護)、生活サービス(住まい、移動、買い物、金融・法律、見守り、生きがい・楽しみ)といったサービス事業者に提供し、事業者はサービスを提供するとともに、情報を集積する。

◆超高齢社会における社会システムへの進化
 ステップ(4)の「超高齢社会への社会システムの変化」は、医療・介護・生活を包括した新社会システムへと進化させるという大きなテーマで、高齢者の安心・自立・生きがいある生活のために、公的サービス外の多様なサービス事業者が連携し最適なサービス提供を図るプラットフォームを構築する、離れて暮らす家族の「親を思う気持ち」を経済活動に転換し、経済循環性(採算性)を確保する、世界的にもソリューションが少ない自立困難高齢者への包括サービスモデルを構築することを実現のための方法として挙げた。
 サービスプラットフォームは、公的サービス(在宅医療、在宅介護)と民間サービスで構成され、在宅医療(提供者:在宅医・病院医・訪問看護師・訪問薬剤師)、在宅介護(提供者:ケアマネジャー・訪問ヘルパー・介護施設・地域包括支援センター)、民間サービスは居住、移動、食、社会とのつながり、見守り、相談、情報提供など多岐にわたり、また、サービス提供者として民間企業、専門職団体、NPO、住民活動、シニア有償ボランティア組織など多彩に備える必要がある。
 武藤氏は週6日間の訪問診療を続けている。講演後、武藤氏に「循環器系の高度医療技術をはじめ、華麗な経歴をお持ちなのに、どうして在宅医療に専念なさるのですか」と尋ねたところ、「私は治療を施して、(回復、症状が軽くなった時の)おじいさん、おばあさんの喜ばれた顔を見るのが好きだからです」との返答が印象に残った。
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