商業施設に魅力的なトイレが増えている。広いパウダールーム、凝った内装など一昔前には見られなかった新たなムーブメントである。渋谷ヒカリエやキラリナ京王吉祥寺などが有名だが、新設の商業施設にいくと、広く快適なトイレが整備されていることが多い。ちなみに渋谷ヒカリエが開業した時、女性用トイレとパウダールームを取材したが、筆者の家全体より確実に広かった。筆者の家は便所以下である。

　便所以下の空間で寝食をする毎日だが、それでもかまわないと思っている。筆者はトイレが好きだからだ。商業施設の内覧会に行くと、トイレは必ずチェックする。便器やシンク、蛇口、せっけんの容器など各社・各施設とも工夫している。みんな良いトイレだ。

　思い起こせばトイレ好きになった理由は2つ。1つに、帝国ホテル（東京・有楽町）のトイレを初めて使ったときの感動がある。客室のトイレでなく、共用部にあるトイレだ。広くて綺麗で、格式高かった。東京に出てきたばかりだったので「噂に聞く有料トイレでは？」と心配しながら用を足した記憶がある。その後、ラグジュアリーホテルのトイレは豪華であると気づき、様々なホテルの門戸を叩いた。だが帝国ホテルを超えるトイレはいまだ現れない。仕事関連の懇親会などで帝国ホテルに行くことがあるが、用がなくともトイレに行く。“帝国”ホテルというくらいだから、帝国を治める王や皇帝がいるはずだが、それはトイレのことに違いない。

　もう1つの理由は実用的な事情である。筆者は腹が弱い。朝は腹の調子が悪い。食事をした後も腹の調子が悪い。緊張したときも腹の調子が悪い。要はだいたい腹の調子が悪い。そのため、外出するときは「この駅なら確かあそこのトイレは空いている確率が高い、あそこのトイレは綺麗なはず……」とトイレのことを気にしている。駅ビル、コンビニ、パチンコ屋、公共施設、いろいろな施設があるが、近くに百貨店があると一安心。婦人服売り場の男性トイレは空いている確率が高く、清掃も行き届いている。しかし、百貨店は夜遅くまではやっていないので要注意だ。

　先日、友人がキラリナ京王吉祥寺の女性用トイレが豪華であるという噂を聞いたらしく「なぜ女性トイレばっかり金をかける！」と義憤に駆られていた。気持ちは分かる。ただ、仕方ない側面もある。各施設がトイレにおいて注力するのはパウダールームだ。男性にパウダールームの需要はほぼなく、女性トイレを優先するのは仕方ないと考えている。友人にもそのように説明してなだめていたが、この「女性用トイレの優先整備」において、背筋が凍る懸念がある。

　最近、女性用トイレを拡大したり、新設するため、男性用トイレを女性用に改装することがあるという。もし、外出中に突如腹を下したとする。「確かあそこのトイレはいつも空いている！」とトイレにダッシュ。しかし、そのトイレが女子トイレになっていたらどうするか……。すでに括約筋は限界を迎え、別のフロアに行く余裕もなかったら……。考えただけで胃腸が痛くなる。