電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第535回

2024年配線板業界の10大事象を展望


産業の地殻変動につながる動きも

2024/1/12

 新年あけましておめでとうございます。

 2024年は半導体などエレクトロニクス部品業界にとって、市場環境の着実な回復をなにより期待したい。特に半導体業界は当初、23年下期からの目に見える復調を想定していたが、残念ながらそうはならず、足元も底這う状況が続く。プリント配線板業界も同様で、高成長を謳歌していた半導体パッケージ基板の急減速をはじめ、スマートフォン市場の成熟化によるFPCの停滞で本格回復とは程遠い状況だ。ガラス基板の開発が話題になったり、M&Aなど業界再編につながる事象も出てきている。今後の配線板業界に、技術革新や事業環境で大きな影響を与えそうな10大事象について考察する。


 微細化競争でも出遅れ、業績低迷に喘ぐインテルがムーアの法則を継続する策として打ち出したのが10大事象トップの(1)だ。ガラスコア基板を20年代後半にも採用して、次世代の高性能半導体デバイスを実現していくという。30年前後までに1兆個のトランジスタを集積化していくことで、1.5~2年で性能を倍に向上させるムーアの法則の継続が可能という。

■ガラス基板の開発加速か

 同社は米アリゾナ州チャンドラーの施設内に10億ドル超を投じてガラス基板をベースにした研究開発ラインをすでに導入済み。高性能サーバー向けCPUなどに搭載する考えで、ハイエンドコンピューティング向けの重要なパッケージ・ソリューションとして開発を加速していることが明らかになった。

 これに先立つこと、今から1年ほど前にも韓国のSKグループの事業会社であるアブソリックスが、6億ドルを投資して半導体パッケージ用ガラス基板の量産拠点を米ジョージア州コビントンに建設中だ。プロセッサーとメモリーなどを一緒にガラス基板上に実装する高度な2.5~3D実装の主要材料となり、既存の樹脂製パッケージ基板とSiインターポーザーを代替することを狙う。

現在の樹脂基板は、反りの問題や微細回路の形成で大きな壁に突き当たっている。このガラスコア基板技術が実用化に移れば、既存の樹脂中心のパッケージ基板業界のサプライチェーンを大きく揺るがす事態も想定される。

 (2)は、その大きな市場を形成しつつある樹脂パッケージ基板市場でインテル向けなどの主要サプライヤーとなっている新光電気工業を、政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)連合が買収しようというもの。新光電気工業が持つ技術力や大きなシェアを考えると買収金額8000億円も高くないとみているのだろう。買収に参画したDNPも、ガラス基板を巡る開発を強化しており、今後は樹脂基板との相乗効果を狙っていくものとみられる。

 (3)半導体市況の低迷をまともに食らって、イビデンをはじめ新光電気工業、京セラなど先端パッケージ基板を手がける国内勢が事業不振に喘いでいる。業界トップのイビデンは、23年度上期業績発表時に、24年3月期のパッケージ基板売上高を従来予想の2300億円から2100億円に、営業利益も同380億円から335億円へとそれぞれ下方修正した。1年前と比較すると売上高で16%強の2桁減収、利益はほぼ半減する見通しだ。

 今回、一般データセンターに搭載されるCPU向け高性能パッケージ基板が伸び悩んだため、その主力拠点と位置づけられていた次期主力工場の河間新棟の稼働を当初よりも1年以上先送りして25年末以降とする。一方、受注が急増している生成AIに対応するGPUなどの大野新工場の稼働を予定どおり立ち上げる計画だが、顧客からの引き合いが想定以上に強いことから稼働が早まることも想定される。

 新光電気工業も、関連する事業部門で今回業績を大きく下方修正しており、前年度比では3割近い減収を見込む。設備投資額(全社)も期初計画よりも3割強引き下げている。このように両社ともある特定顧客とのビジネス取引が偏っていたため、足元の事業環境に大きく揺さぶられており、今後はバランスの良い顧客構成など戦略的なマーケティングを展開する必要が出てきている。

 (4)は、世界的な地政学リスクの高まりによる影響を受けた事例の1つだろう。特にハイテク産業を巡る米中の衝突は、あらゆるエレクトロニクス製品に搭載される基板産業の供給網も揺るがしている。従来は中国大陸に集中していた台湾の基板業界がこぞって生産拠点をタイなどのASEANにも構築しようとしている。

 世界最大の基板メーカーである台湾ZDテクノロジーは、タイ進出をいよいよ具体化させる。コングロマリット企業であるタイのサハグループ(SPI)と組んで、同国で大型のプリント基板工場を建設する計画が明らかになった。このほど両社で投資に関する覚書を取り交わし、起工式を執り行った。早ければ2025年1~3月の稼働を目指す。

 同社は良く知られたとおり、北米のスマホメーカー向けにFPCを大量に提供しており、中国国内に巨大な基板工場を展開している。今回生産するのは、FPCではなくサーバーやルーター向けの高多層基板とみられ、特に欧米の顧客から中国以外での供給網の強靭化を強く働きかけられていたようだ。

 さらに中国2番手の東山精密もタイへの進出を検討していると言われている。世界のトップ企業らが相次いでタイなどASEANへの進出を計画していることで、配線板業界もチャイナプラスワンの動きはもはや止めようもない段階にきた。足元では銅張積層板(CCL)メーカーの供給体制が整わないため、安定生産が危惧されるが、さらなる不安材料として人的資源の不足の問題も指摘されている。同国には日本CMKや日本メクトロンなど日系の基板メーカーも以前から稼働を行っており、今後は人件費の高騰など、人材確保を巡る熾烈な競争がますます激しくなることも予想される。

■車載・パッケージ基板は国内でも投資拡大

 (5)メイコーが国内で20年ぶりの大型工場を稼働させた。今回、170億円を投じて完成させた天童工場(山形県天童市)だ。国内では最大の車載基板を生産する。工事規模は3階建て延べ床2万7000m²(敷地6万5000m²)にのぼる。上から見るとL字型をしており、大きく生産棟と事務棟、自動化設備の開発や製造を行うスペースも確保した。基板の研究開発や製造プロセスを確立する研究開発部門も本社から一部移管する。今後、既存棟内には2期にわけて生産ラインが導入される。

 また同工場の最大の特徴の1つは徹底的に自動化・合理化が図られている点だ。基板投入・受取は、ほぼ人を介在さずにFA・多関節ロボットが行っている。工場内も無人搬送車(AGV)が縦横無尽に走行する。めっきなどの各種薬液の管理も自動化をベースに設計されている。車載基板ということで信頼性確保のためトレーサビリティーも徹底されている。この工場で製造される基板には、あらかじめレーザーマーキングにより2次元コードが刻印され、すべての製造履歴が残る仕組みだ。国内の労働力不足や安定した歩留まり管理を解決していく将来の基板工場のあるべき姿を映し出しているのかもしれない。

 (6)TOPPANは、有機ELディスプレーを手がけていたJOLEDの能美事業所(石川県能美市)の土地・建物を購入する。需要拡大が見込まれるFCBGA基板の次期主力工場と位置づける。能美事業所は新潟工場に次ぐ、中長期的な投資案件となる見込み。同社は海外への進出も計画していたが、当面国内での投資を拡大する。パッケージ基板の市況は低迷しているが、中長期的には成長領域であることが読み取れる。

 (7)中長期的な車載向け基板の需要増を見据え、日本CMKはタイ・プラチンブリで新工場を建設中。22年12月に着工、24年8月から順次稼働させる。投資額は250億円(第1期)に上り、ビルドアップ基板や多層板を量産する。26年3月期から数量ベースで寄与し始める見通し。直近では27年3月期までの中期経営計画数値を上方修正しており、老舗企業の復権が現実のものとなりそうだ。

 (8)PFAS(有機フッ素化合物)規制に関してEUは23年9月にパブリックコメント(パブコメ)を締め切った。プリント基板も対象製品になっており、現状の素材が規制対象となれば影響は決して無視できなくなる。半導体分野でも薬液配管やエッチング溶剤など多岐にわたっている。例外規定が設けられることも想定されるが、厳格に適用されれば関係各社は数年以内に安全性が保証された代替製品を見つけなければならなくなる。

 基板関連で欧州の環境事情に詳しい専門家は、パブコメが約2500件にも上ったと指摘。過去にここまで集まった事例はなかったという。RoHS指令やREACH規則などEUが先頭に立ち、厳しい規制をかけてきた経緯もあり今後の動静が注目される。

 (9)クラフト(東京都品川区)は、プリント基板メーカーのキョウデン(長野県箕輪町)に対して株式の公開買い付け(TOB)を実施、キョウデンは23年10月付で上場廃止となった。TOBを実施したクラフトの代表取締役社長である橋本浩氏は、キョウデンの創業者。臨機応変かつ機動的な投資をてこに、成長路線を加速しようとしている橋本氏の手腕が問われている。

 (10)ニッパツは、EV用パワーモジュール向けの金属ベース基板の生産能力を大幅に増強する。主力の駒ヶ根工場(長野県駒ヶ根市)の隣接地に新工場を建設し、早ければ26年5月に稼働を開始する。関連投資額は100億円を見込み、新工場の生産スペースは延べ1.3万m²を計画している。これにより生産コストを大幅に圧縮して競合するセラミック基板の本格代替も視野に入れる。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広
 
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