AIインターフェースの役割獲得
メタ・プラットフォームズ(メタ)とサングラスブランドのレイバンがコラボした「Ray-Ban Meta」シリーズは、レイバンの親会社であるエシロールルックスオティカが、生産増強を発表するほど好調な売れ行きだ。しかし日本では未発売であり、シリーズの中でディスプレー初搭載となった「Ray-Ban Meta Display」も販売地域に入っていない。2025年は「ARグラス元年」になると言われていたものの、日本国内においては世界市場の熱が今一つ感じられないのが残念だ。
しかし、25年は明確な転換点であった。生成AIの進化によって、メガネ型デバイスの「AIへアクセスするためのインターフェース」という役割が前面に出始めたからだ。特にARグラスは「AIグラス」として再定義されつつある。実際には、まだ多くのメーカーがAIグラスという名称を使っているわけではないものの、製品設計の思想は確実にAI中心へと移行している。このため、今後の市場ではディスプレー非搭載型AIグラス(音声・カメラ中心)/ディスプレー搭載型AIグラス(AR表示対応)という二層構造で語られるようになりそうだ。
搭載されるディスプレーについては、マイクロLEDが主流になるとみられている。映像を重視するタイプのAR(AI)グラスでは、マイクロOLED(OLEDoS)がリードしているが、通知などをメーン用途とするタイプではオーバースペックなディスプレーになってしまう。加えて、屋外での視認性の高さやよりメガネに近い軽量さ、低消費電力性が追求されると、将来的にはマイクロLEDに軍配が上がるとみられている。
しかし、マイクロLEDはすでに開発も市場展開も進められているもののいまだ課題も多く、高効率なフルカラーチップの量産展開が待たれるところだ。このほか、レーザー光源にも注目が集まっており、数年後の次世代機ではレーザーによる表示方式をロードマップに組み込むメーカーもあるという。
グーグルは「AIグラス」を26年に発表か
グーグルは、25年12月に開催した自社カンファレンス「The Android Show XR Edition」において、同社のXR戦略とAIグラス構想を本格的に打ち出した。カンファレンスでは、同年10月にサムスンが発売したXRヘッドセット「Galaxy XR1」を取り上げつつ、グーグルがXRデバイス向けに開発したOSのAndroid XRプラットフォームが、サムスン製デバイスを含む複数のXRデバイスを支える基盤になることを強調した。また、中国・XREALが26年に市場投入を予定している新型ARグラス「Project Aura」についても言及し、XREALと共同で開発を進めていることも明らかにした。
さらにグーグルは、メガネ型デバイスそのものをAIの主要インターフェースとして定義する方向性を明確に示した。同社はGentle Monster(韓国)、Warby Parker(米国)といったグローバルなアイウエアブランドと共同で「AIグラスを開発している」とし、スクリーンフリー型(音声・カメラ中心)と、レンズ内ディスプレー搭載型(通知・翻訳字幕などを視界に重ねる)の2タイプのAIグラスを、26年に発表する計画を明らかにした。
グーグルは、Android XRとGeminiを軸に、スマートフォン以降の主要デバイスとしてAIグラスを位置づけ始めている。AIを中心に据えた新しいカテゴリーとしてメガネ型デバイスを再定義し、エコシステム全体の再編に踏み出したと言えるだろう。
また、XREALのProject Auraは、メガネ型デバイス本体と有線接続の小型処理パックで構成される次世代ARグラスになるとのことで、26年早期に発表されるもようだ。
メタはAIグラスにディスプレー初搭載
メタは、25年9月に開催された開発者向け技術カンファレンス「Meta Connect 2025」において、Ray-Ban Meta(第2世代品)のアップデート(AI機能の強化)とディスプレーを初搭載した新製品Ray-Ban Meta Displayなどをお披露目し話題をさらった。
また、手首に装着するAI入力デバイス「Neural Band」も発表した。これはRay-Ban Meta Displayを操作するデバイスで、空中で文字を書いたりするなど指の動きやジェスチャーを検出して、表示されたメッセージに返信したり、メニューを選択したりすることができるものだ。同社ではこれら2つの組み合わせを「AIとの最も自然なインターフェース」と位置づけている。
メタのMeta Ray-Ban Displayは日本未発売
さらに同社は、①カメラ付きAIグラス、②ディスプレー付きAIグラス、③拡張現実(AR)グラスの3つのカテゴリーに分類し、今後さらに進化させていくといとの事業方針も発表した。①では、レイバンやオークリーといった世界的に有名なアイウエアブランドと連携して、スタイルやブランドの拡充を進めつつ対応機能も強化していく。②では、Meta Ray-Ban Displayの高性能でさまざまな状況に対応できるディスプレーを核とする、新しいカテゴリーを開拓していくという。③では、24年のカンファレンスで発表した開発者向けARグラスのプロトタイプ「Orion」のように、大型ホログラフィックディスプレーや高帯域入力、そして周囲の世界を拡張するデジタル体験を提供していくという。なお、このOrionについては、コンシューマー向け機種の開発も進めている。
サムスンはまずヘッドセットを展開
サムスン電子は、25年10月に「Project Moohan(無限)」として開発を進めていたXRヘッドセット「Galaxy XR」の販売を韓国/米国で開始した。価格は1799.99ドル(約27万円)。日本での販売は未定だ。
同社は23年2月に「XR戦略」の一環としてグーグル、クアルコムと提携し、サムスン電子はハードウエアを、グーグルはXR専用OSの「Android XR」の開発を担当した。クアルコムはXRチップセットの「Snapdragon XR2+ Gen 2」を提供している。
Galaxy XRは、サムスン電子が打ち出したXR戦略を具体化した最初の製品であり、グーグルのAndroid XR、クアルコムの最新XRチップ、そしてサムスンのハードウエア技術が結集した、3社協業モデルの結晶ともいえる製品だ。
高精細なOLEDoSディスプレーとGeminiを核としたAI体験を組み合わせることで、サムスンはXRヘッドセットを単なる映像デバイスではなく、次世代のAIプラットフォームとして位置づけようとしている。Galaxy XRの発売は、その長期ロードマップが本格的に動き出したことを示す出来事だったと言える。サムスンでは、このほかにも「Project HEAN」というARグラスを開発中との話もある。
AIを軸に新たに構築されつつあるメガネ型デバイス市場は2026年以降、いよいよ本格的な市場形成へと歩を進めそうだ。各社の取り組みが進展するにつれて、OS、光学系、AIモデル、アプリストア、広告、決済などのエコシステムが再編され、日常のインターフェースは、スマホ以来の大転換期を迎えるかもしれない。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子