エヌビディアがAIデータセンターにおけるチップなどで圧倒的なシェアを確保し、AI市場における中核的な存在となってしばらく経つが、エヌビディアの別の顔が存在感を増してきた気がする。それは“投資家”としてのエヌビディアだ。
AIの雄となったエヌビディアは利益率が非常に高く、2025年8~10月期における営業利益率は63%、純利益率は56%であった。そうして創出された圧倒的なキャッシュフローをベースに、企業へ出資する事例が増えており、25年9月にはOpenAIに最大1000億ドルを投資する方針を打ち出し、25年11月には、チャット型AIツール「Claude」を展開するAnthropicに最大100億ドルを出資する方針を発表。26年に入ってもAI向けクラウドを手がけるCoreWeaveに20億ドルを出資する方針を1月末に示した。
また、25年末には、独自の半導体を活用した高速AI推論ソリューションを展開するGroq(グロック)と非独占ライセンス契約を締結した。非独占の契約ではあるが、Groqの創設メンバーなどがエヌビディアに加わるなど、事実上の買収といわれており、関連費用は約200億ドルとされる。そして25年9月には、エヌビディアがインテルへ50億ドルを出資することを発表するなど、AI市場によって半導体業界が大きく変化したことを印象づける出来事となった。
こうしたエヌビディアの投資をみると、出資した企業(OpenAIやCoreWeaveなど)が、その資金でエヌビディアのチップを大量に購入するというサイクルを構築しているため、エヌビディアの投資は循環投資であり、実需が伴っていないと懸念する声も出ているが、企業への出資を増やすことでAI関連の企業ネットワークを着実に拡大ならびに強化している。
新興企業への出資も加速
エヌビディア本体によるダイナミックな動きに隠れてあまり目立っていないが、エヌビディアのベンチャー投資部門であるNVenturesも投資活動を加速させており、25年は少なくとも20件以上の投資を行ったとみられる。
そのなかの1つとして25年8月に、FieldAIによる4億500万ドルの資金調達ラウンドに参加した。FieldAIは、ディープマインド、グーグルブレイン、テスラ、アマゾン、NASA、SpaceX、アマゾンなどの出身者らで構成され、エンボディドAIに特化した独自モデル「Field Foundation Models」(FFMs)をベースにした自律ロボット向けのAI技術を開発している。FFMsは、不確実性、リスク、現実世界の物理的制約に対処するために設計されており、地図データやGPSなどを使用せずに、動的かつ予測不可能な条件下をナビゲートできる。
25年9月には、ダイナロボティクス(Dyna Robotics、米カリフォルニア州)に出資。同社は、AIスマートショッピングカートを展開するCaper AIの創業者だった人物やグーグル・ディープマインドの研究者によって24年にされた企業で、フィジカルAIやエンボディドAIといった物理的な現実世界を認識・理解して複雑な行動にも対応したり、現実空間での作業や人との対話を通じて物理的なタスクを実行するAIを開発している。
同じく25年9月にフレクションロボティクス(Flexion Robotics、スイス・チューリッヒ)にも出資。フレクション社は24年に設立された企業で、チューリッヒ工科大学、エヌビディア、メタ、グーグル、テスラ、アマゾンの出身者らで構成され、ヒューマノイドロボット向けのソフトウエア基盤を開発している。
26年に入っても1月にSkild AIが実施したシリーズCラウンド(資金調達額14億ドル)に参加した。Skild AIは、自己教師あり学習と適応型ロボティクスの分野の研究者らによって23年に設立された企業で、汎用ロボット基盤モデル「Skild Brain」を開発している。
次はフィジカルAIに焦点
こうした企業への出資に見え隠れするものが、「フィジカルAI」市場を見据えたエコシステムの構築だ。フィジカルAIは、現実世界(フィジカル空間)の物理法則を理解し、自ら判断して物理的な行動を起こすAIと定義されている。つまりデジタル空間のAIが、ロボットという「身体」を通じて現実世界で自律的に動作・機能する技術であり、1月に開催されたCESで、ジェンスン・フアンCEOは「ロボティクスにとってのChatGPTの瞬間が到来した」と述べた。
AIデータセンター向けの事業拡大の陰に隠れて目立っていないが、エヌビディアは近年、シミュレーション技術やエッジ機器向けの高性能チップなどフィジカルAIに関連する製品やサービスのラインアップを強化している。そこに前述のような先端企業との連携や技術が加わることで強力なフィジカルAIエコシステムを構築される。エヌビディアがAIデータセンター向けの中核チップで圧倒的なシェアを構築できた背景には、チップの性能だけではなく、CUDAなど周辺技術を含めたエコシステムが充実していたことが挙げる声が多く、エコシステムの重要性を誰よりも分かっているエヌビディアは、“投資家エヌビディア”としてフィジカルAIエコシステムの構築に向けた企業の開拓をさらに進めるだろう。
電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志