電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第624回

インド半導体市場は急拡大の機運、30年には1000億ドル突破


日本企業の進出急ピッチ、ルネサス、東京エレクトロンなどが拠点設置

2025/5/16

 筆者はカレーライスが大好きである。一番好きなのはハウスバーモントカレーであり、りんごとはちみつがとろ~り溶けている味がなんともいえないのだ。しかし、カレー通の人たちはあまり甘いカレーは好まないのであり、ひたすらに辛いカレーを食べる輩が多いとも聞いている。ちなみに、カレーライスは認知症予防の特効薬であり、長寿の秘訣でもあると指摘する医師もかなりいる。

 それはともかく、カレーと言えばインドである。インドは超暑い国であるからして、めちゃ辛いカレーを食べている。どっと汗をかいて体を冷やすという健康法が成り立っている。そしてまたインドは、超親日の国としても知られているのだ。さらに、国別人口においてインドは中国を抜き去り、14億人以上の国となり世界一の人口大国としてその消費動向が注目されている。

 さて、半導体市場としてインドを見た場合、どのようなポジションにあるのであろうか。インド政府の発表によれば、2023年のインドの半導体市場は380億ドルにとどまっているが、30年にはほぼ3倍増の1090億ドルに達すると予想されている。24年における全世界の半導体市場が6276億ドルであり、インドの予想される1090億ドルは実に高い数字だとはいえよう。

 インド政府の半導体政策はここにきて一気に強化されている。現状、国内生産が行われていない半導体の国産化を実現し、中国依存の強い電子産業の強化を最重要分野としているのだ。4兆円規模の半導体支援金を断行するとも言われている。

 23年6月には、米国の半導体大手であるマイクロンがインドに半導体後工程の工場建設をアナウンスしている。そして、24年2月にはインド政府は国内における新たな半導体製造計画を3件承認したのだ。

 それらは、①台湾のPSMCとタタ・エレクトロニクスが合弁で半導体工場を建設。②タタ・セミコンダクター・アセンブリー・アンド・テストが半導体後工程工場を設置。③日本のルネサス エレクトロニクスがスターズ・マイクロエレクトロニクス、CGパワーと合弁で半導体後工程工場の建設を決定。さらに、同年9月にはケインズ・テクノロジーの後工程工場建設がアナウンスされた。そして、アダニがイスラエルのタワーセミコンダクターと合弁会社を設立し、半導体の前工程工場を建設する計画を発表したのである。

インド市場を巡って関連企業の進出が目立ってきた
インド市場を巡って関連企業の進出が目立ってきた
 こうした半導体強化の方針を打ち出す一方で、インド政府はひたすら台湾半導体企業そして日本の半導体企業とタイアップしたいことを前面に打ち出している。ルネサスの工場進出はまさにインド政府が歓迎することになっているのだ。

 そして、日本の半導体製造装置大手の東京エレクトロンも24年9月にタタ・エレクトロニクスと基本合意書を締結している。インドにおける半導体製造装置のインフラ構築を推進していくという。さらに、ディスコはインドに現地法人を設立。キヤノンは将来的にインドに顧客サポート拠点を設立。富士フイルムはインドに半導体製造向け薬品工場の設立を検討するなど、凄まじい勢いで日本企業のインド進出ラッシュが予想されている。

 米中貿易戦争におけるトランプ氏のクレイジーともいうべき関税政策のあおりで世界の半導体はトーンダウンしている。ところが、インド半導体は今後、本格開花の時期を迎えるのであり、新たな台風の目となっていくことは確実であろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索