電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第625回

中国ファーウェイの半導体クラスターは米国を驚かせているのだ!


SMICの売上高は28%増、半導体国産化急ピッチ

2025/5/23

 「トランプ関税は世界経済のトーンダウンを招いている。アメリカファーストという考え方で、自国内の経済活発化を言い出しているが今のところ効果はなく不評である。何よりも中国を叩く!という作戦は逆流しており、中国半導体のシェアは上昇し続けている」

 こう語るのは、半導体業界の著名アナリストとして知られる南川明氏である。南川氏によれば、中国の半導体における実力は目を見張るものがあり、300mmのシリコンウエハーの内製化も予想以上に進展しており、まさにサプライズなのだ。

 さて中国半導体と言えば、ファーウェイが広東省深センに造成している大規模半導体施設が衛星写真で確認されたことが、話題となっている。つまりは先端半導体工場を3カ所構築しており、1カ所はファーウェイが運営、2カ所は半導体製造装置メーカー「SICARRIER(シリコンキャリア、新凱来)」とメモリーチップのSwaySureが運営している。

 何とSICARRIERはリソグラフィー装置を開発しており、ASMLが独占供給するEUV露光装置抜きでも、先端に近い半導体を作るリソグラフィーを作り上げてみせるという戦略を進めていると思われるのだ。

ファーウェイは装置・材料を含む半導体クラスターの形成に意欲的
ファーウェイは装置・材料を含む半導体クラスターの形成に意欲的
 そしてまたSwaySureはHBM積層パッケージング技術を研究開発中であり、ファーウェイを中心にHBMを国産化して、独自のAI半導体システムを構築するという戦略を推進している。

 一時代前には中国の半導体産業など恐れることはない、という見方が強かったが、ここに来ては、半導体世界トップの米国を驚かせるに足りる事実が次々と明らかになっている。

 「300mmウエハーについても、内製化の動きが進んでいる。ほとんど遜色のないウエハーができあがっていると聞く。また化合物系においても、SiCパワーを量産する中国の半導体企業は40~50社以上になっているだろう。日本企業もこうした中国の動きには、きっちりとウォッチングしていかなければならない」(南川氏)

 中国ファンドリー大手のSMICの25年1~3月期売り上げは約3300億円となり、前年同期比28%増を記録している。純利益は約282億円であり、前年同期比2.6倍と絶好調になっているのだ。これは、中国政府の強烈な指導により、中国企業が国産半導体の購入を加速していることが大きい。SMICの中国向け比率は82%から84%に上昇してきた。

 ところでトランプの関税に対して、中国報復関税が言われてきたが、これを契機に中国半導体産業協会は、製造国を輸入元とする基準を適用すると言い出した。これにより4月上旬にはインテル株は8.6%、GF株は4.7%、それぞれ一時下落した。一方、エヌビディア株は一時3%高、TSMC株は一時4.5%高と上昇した。

 中国半導体産業協会が関税を決めるだけで世界の半導体株はこのように揺れ動くのだ。中国の存在感はいやが上にも増しているといえよう。

 日本の半導体における世界シェアはいまだ8%程度であるが、中国はここに来て10%以上となり、日本を追い抜いてしまった。中国における半導体設備投資は全く減額しておらず、不動産不況に苦しむ中にあって、中国政府は「半導体における大型投資に集中!」で国の再興を図ろうとしている考えが見え隠れする。

 最先端の半導体製造装置、半導体材料の輸入を止められている状況下で、中国半導体は昇龍のごとくにパワー全開となっている。ファーウェイ半導体クラスターの与えた衝撃はまことに大きいと言えるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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