電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第633回

日本の自動車向け半導体は悲喜こもごも、大利得を得るソニーは勝ち組


SiCパワー量産断念のルネサスは負け組、ロームも大苦戦

2025/7/18

 トヨタ自動車など14社が参画する「自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)」は先ごろ、車載半導体の通信規格を国際的な標準化団体に提案した。半導体同士をつなぐ通信方式を早期に定めて、複数チップを組み合わせる次世代品の開発を急ぐという。

 自動車という分野で世界シェアトップを持つ日本勢は、技術標準という点でもリードし、効率的な車載半導体の環境づくりを目指していくのである。そしてまた、日本の半導体チップを担う企業にもASRAの活動は大きな貢献を果たしていくだろう。

 それはともかく、自動車向け半導体を作る日本企業の間で、勝ち組と負け組の二極化が進み始めている。2024年度に国内トップの半導体メーカーに躍り出たソニーセミコンは、自動走行運転などに使われるCMOSイメージセンサーの開発および量産に力を入れているが、ここにきて大きな成果が出てきた。27年3月期までに世界の主要自動車メーカーの9割でソニー製の車載CMOSイメージセンサーが採用される見通しが立ったのだ。

ソニーの車載向けCMOSイメージセンサー
ソニーの車載向けCMOSイメージセンサー
 動画の処理性能を武器に、車載向けセンサーの市場シェアを43%まで高めるという。このために、熊本県で建設中の第2工場の建屋の建築コストも増えているため、24~26年度の現中期経営計画期間内における半導体部門への設備投資金額の増額を決めた。モバイル向けでは競争力維持のため、微細化を含む「高密度化投資」に注力。現中計期間内の投資金額の約5割をこれら高密度化投資に充てる。

 IGBTの進化形であるIPM(インテリジェントパワーモジュール)で世界のトップを走る三菱電機は、熊本県菊池市でこの秋の完成を見込むパワー半導体の新工場について、予定どおり稼働を進める考えを明らかにした。EV市場が失速している状況下においても、かなり強気の考えを示したことになる。

 電力制御に使うパワー半導体については「EVだけでなく、ハイブリッド車でも必要。27~29年ごろには市況が回復すると見ており、準備を進めておく必要がある」と強調するのだ。この菊池市の新工場は1000億円を投じて設けるものであり、省エネ性能が高いSiCを基板に使う次世代型のパワー半導体を順次生産する計画である。もちろん、今後は福岡、北伊丹などでも何らかの設備更新または拡張の動きが予想されるところなのである。

 こうした、拡大策を続けるソニーや三菱電機の動きに対して、ルネサスのパワー半導体は一気にトーンダウンしている。中国勢の台頭が進んでいることで、新素材を使ったEV用次世代パワー半導体の生産を断念したのだ。当初は、25年中にも群馬県高崎工場で生産を始める予定であったが、これを撤回し高崎の設備の一部を売却することになったのである。

 ロームもまた大苦戦している。24年度の全社総売上を大幅に落としており、EV向けパワーデバイスが思いのほか出なかったのが原因なのである。ロームもまた、現状ではルネサスと同じくSiCパワーについては負け組、といって良いだろう。

 ところがどっこい。何と、ロームのSiCパワー半導体モジュールがトヨタの中国向けEVに採用されたのである。加えて、ロームはデンソーとの間で半導体の分野で提携することに決めた。これを機にデンソーはロームの株の一部を取得している。ただ、ロームと東芝の共同計画になる宮崎の新工場については、かなり延期することになりそうだ。

 悲喜こもごもともいうべき日本の車載向け半導体の現状をリポートしたが、中長期的には車載向けデバイスは必ず伸びていくわけであり、今は負け組と目される企業についても悲観することはない、と筆者は思う次第である。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索