世界の半導体市場は、爆裂成長の時代に入ってきたと言えよう。2024年は実に前年比22.5%の成長を遂げ、日本円で言えば約90兆円の市場構築をするに至った。25年についても前年比15%増が見込まれており、30年までは2桁成長が続くと目されているのだ。
もちろん、トランプ関税の影響は大きいと言われているが、実際のところ当初の目論見通りには決して進まないことが良く分かってきた。トランプ氏はアメリカファーストなどと息巻いており、アメリカにどんどん投資をさせること、そして企業誘致も進めることなどを打ち出しているが、そう簡単に物事は進まないだろう。
第一に、アメリカのGDPは全くと言っていいほど伸びを欠いている。そしてまた、自動車業界、半導体業界などからトランプの関税政策には大きく反対の声が上がり始めている。第三には、米中貿易戦争に突入しており、これはまた米中半導体バトルにもつながることであるが、米国はそのために中国という大きな貿易国を失うことになるからだ。
半導体業界でナンバーワンと言われる名アナリストである南川明氏は、ここにきて日本の存在感が高まっていることを挙げ、次のように述べているのだ。
「アメリカの国債を一番持っている国は我が国ニッポンなのである。そして、日本には装置や材料のサプライチェーンがしっかりしているために、決して日本を敵に回してはいけないという米国政府全体の了解事項がある。半導体自体の日本の世界シェアは10%未満であるが、一般電子部品は世界一である。高レベルの実装基板技術も持っている。こうした様々な事情から、米国は日本を最も重要なパートナーと認定しはじめたのだ」(南川氏)
南川氏によれば、トランプ氏はイーロン・マスク氏との連携による究極の自由至上主義を打ち出したが、これをやれば既得権益が失われ、多くの規制の撤廃が必要になるため、米国企業の中では反発が強くなっているという。
さて、半導体産業はここにきて牽引役が大きく変わっている。これまでのスマートフォン、パソコン、自動車などに加えて、AIチップが舞台のど真ん中に出ようとしているのだ。AIサーバーの出荷台数はうなぎ登りとなっており、今後は年平均成長率17%で増加すると予想されている。
そしてまた、AIプロセッサーであるGPUやFPGAなどのロジック半導体もAI向けに急速に伸びていくが、一方でほぼ30年ぶりにメモリーの一大ブームがやってくる。つまりは、AIに使われるHBM(広帯域メモリ)そしてまた、NANDフラッシュメモリーが急成長してくる。それだけではない。パワー半導体もアナログ半導体もみな伸びてくる。
「25年後半には、AI搭載のノートブックパソコンが本格出荷の時代を迎えてくる。TeamsにもAIを使った自動通訳機能が入ってくる。さらに加えて、パソコンによるメタバースの世界も広がってくるだろう。自動車にもスマホにもAIが搭載されて、半導体は一大ブレークの時代を迎えることになるのだ」(南川氏)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。